第9話:音速の絶叫マシーン(テーマパーク)
「ご覧ください。かつて人類が超高速で移動し、恐怖と悲鳴を上げることでストレスを発散していたとされる輸送施設です」
「……ただの廃遊園地だろ」
サビの浮いた大きな観覧車と、幾重にも複雑に絡み合った鉄のレールがそびえ立つ広大な敷地。
「いいえボルトさん。特にあの『ジェットコースター』と呼ばれる車輌は、急勾配と急回転を組み合わせた高度な慣性訓練機です。記録によると、搭乗者は全員が絶叫しながら笑顔(?)で降車していたとのこと」
「意味が分からん……。なんで自ら金払って怖い思いしなきゃならんのだ」
ボルトが呆れ果てて頭を振る中、パッチがコースターの車輌に飛び乗っていた。
「わあー! このカゴ、レールの上がガラガラ動くよ〜! でも、ゆっくりすぎてつまんない〜!」
「当たり前ですパッチさん。動力が途絶していますから――」
「じゃあ、パッチの自家製ロケットブースター、取りつけちゃうね〜!」
「ちょっと待ちなさいパッチさん!?」
僕の制止も虚しく、パッチは球体ボディのハッチから謎の超高出力推進バーニアを取り出し、コースターの末尾に力任せに溶接し始めた。
「おいパッチ、やめろ! 電圧がおかしいぞ! それ宇宙船用の高出力エンジンだろ――」
「発進ーーーっ!!」
カチッ。
ゴォォォォォォオオオオオンッッッ!!!!
猛烈な爆音とともに、青白いプラズマ噴射がレールを焼き尽くす。
「ギャアアアアアアアッ!?!?」
コースターは音速を超えた衝撃波を撒き散らしながら、一瞬で垂直登坂のレールを駆け上がった。
コースターの後部座席に巻き込まれたボルトが、猛烈なG(重力加速度)に引きつった悲鳴を上げる。
「速い〜! 楽しい〜〜〜!」
「パッチィィィ! 減速しろおぉぉ! フレームが歪むうぅぅ!!」
ドガガガガガッ! バキバキッ!
音速でループを駆け抜けたコースターは、頂点に達した瞬間にレールの末端(破損部)へ到達。そのまま勢いを殺しきれず、空へと飛び出した。
「飛んだーーーっ!?」
空中で激しいGと衝撃を受けたボルトの胸の装甲が、ガシャーンと派手な音を立てて誤作動を起こす。
『〜〜♪ 旅の終わりの〜夕焼け空に〜♪ 涙がこぼれて〜止まらない〜♪』
「なんでこの土壇場でフォークソングが爆音で流れるんだよおおお!!」
アコースティックギターの切ないメロディを青空いっぱいに響かせながら、ボルトとコースターは弧を描いて遥か彼方の池へと墜落していった。
ドッバアアアンッ!!
◆
――数十分後。
水浸しのボルトを池から引っ張り出し、僕は溜め息をつきながら手元の端末に『銀河トリップ(GalaTrip)』のレビューを打ち込んでいた。
【スポット名:地球・旧東アジア区『音速の拷問車輪』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
スピード感: ★★★★★(小型ロボの改造により音速に達します)
安全性: ★☆☆☆☆(レールが途切れており、空中で昭和歌謡を熱唱するハメになります)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつて人類が好んだとされる高速移動アトラクションです。しかし現状は、無許可の爆走改造と衝撃による音響システムの暴走を引き起こす極めて危険な廃墟です。生命の安全を脅かすため、訪問は非推奨とします」
「送信完了です」
ピッ
端末から即座に通知音が響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこの絶叫マシーンは、並んでいる時間と降りた後の猛烈な吐き気くらいしか記憶に残らない」
「吐き気……有機生命体の生理現象ですか。つくづく愚かな乗り物ですね」
僕が冷ややかに鼻を鳴らすと、池の縁で全身の水を切っていたボルトが、怨念のこもった目でパッチを睨みつけた。
「……パッチ。次の目的地まで、お前を絶対にロケット代わりに打ち上げてやるからな」
「わあー! パッチ飛ばされる〜! にげろ〜!」
僕たちは水浸しのボルトと爆走するパッチを引き連れ、夕暮れのテーマパークを後にした。
(第9話・終わり)




