第7話:文明人の拷問部屋(フィットネスクラブ)
「ご覧ください。かつて人類が自らの身体に多大な負荷を与え、苦痛を楽しむために通ったとされる自傷的な拷問施設(拷問部屋)です」
「……ただのジム(フィットネスクラブ)だろ」
錆びついたガラス扉を押し開けた先。鏡張りの広大なフロアには、黒い鉄の塊や複雑なプーリー(滑車)で構成された器具がズラリと並んでいた。
「いいえボルトさん。記録によると、当時の人類は毎月一定の対価を支払い、わざわざ重い鉄の塊を持ち上げて息を絶え絶えにしたり、どこにも辿り着かない車源の上を何時間も走り続けたりしていたそうです。自虐的以外の何物でもありません」
「バカじゃねえの人間……。自分の足を痛めて何が楽しいんだよ」
ボルトが呆れ顔で頭を振る。
「わあー! このイス、挟まれると気持ちよさそう〜!」
パッチがトコトコと駆け寄り、胸筋を鍛える『チェストプレス』のシートに潜り込んだ。
レバーをパカパカ動かしているパッチを見て、ボルトが興味深そうに近づく。
「おいパッチ、ちょっと退け。俺の重量で耐えられるか試してやる」
ボルトが巨体を強引にチェストプレスのシートへねじ込み、アームをガシリと掴んだ。そのまま超重量のシリンダーを力任せに押し込む。
ギシギシ……バキッ!
「うおっ!? ……あ、あれ? なんか胸の関節のキシみが消えたぞ? 固まってたオイルが巡ったのか……?」
「ボルトさん、機械を壊さないでください。ですが……なるほど、過剰な物理圧力をかけて関節の歪みを強制矯正する装置(拷問器具)としては、一定の稼働実績があるようですね」
「治ったなら拷問じゃねえだろ!」
ボルトが気持ちよさそうに背筋を伸ばし、装甲を鳴らした。
その横で、パッチがランニングマシンの上に乗っかっていた。
奇跡的に予備電源が生きていたのか、操作パネルの操作に反応して足元のベルトが動き始める。
「わあー! 床が走ってるー! パッチも走るー!」
「パッチさん、速度を上げすぎないでください」
「もっと速くー! ターボ全開〜!!」
ウオオオオン!!
パッチがパネルの最高速度ボタンを連打した瞬間、ベルトが音速に近いスピードで回転を開始した。
「あ、あれ〜!? 速すぎて足が追いつかない〜〜〜!!」
「パッチ、バカ! こっち飛んでくるな――」
回転に耐えきれなくなった球体のパッチが、まるで大砲の弾のように高速で射出された。
ドガッ!!
「ぐはっ!?」
飛んでいったパッチは、チェストプレスで寛いでいたボルトの胸板にクリーンヒット。ボルトはイスごと横転し、ガシャーンと派手な音を立てて床に転がった。
「痛ぇぇぇ!! パッチ、お前マジでブッ壊すぞ!!」
「あはは! 人間の拷問マシン、超たのしい〜!」
「……騒々しいですね。やはりここは精神的にも肉体的にも害を及ぼす危険地帯です」
僕は溜め息をつき、倒れているボルトと転がるパッチを視界の隅に収めながら、手元の端末を開いて『銀河トリップ(GalaTrip)』にレビューを投稿した。
【スポット名:地球・旧東アジア区『自傷の館』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
関節矯正度: ★★★☆☆(大型ロボの肩こりには一定の緩和効果があります)
安全性: ★☆☆☆☆(ランニングマシンが小型ロボを弾丸として射出します)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつて人類がお金を払って苦痛を購入していたとされる奇妙な施設です。大型ロボの関節トラブルが一部改善したものの、小型ロボの暴走により物理的被害が発生しました。健全な機械生命体が立ち寄る場所ではありません」
「送信完了です。ほら二人とも、起き上がって次のエリアへ向かいますよ」
ピッ
すかさず端末から通知音が響いた。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこは毎月会費だけを口座から吸い上げられ、一度も脚を運ばないまま終わる悪徳宗教施設だからな」
「毎月会費だけを……? 行きもしないのにお金を払うなど、やはり人類の思考回路は理解不能ですね」
僕は冷ややかに鼻を鳴らし、湿気と汗の染みついたジムの跡地をあとにした。
(第7話・終わり)




