第6話:エリート査察官と適当な三人(本社査察・前編)
「――報告書のデータに著しい不備および意図的な不当評価の疑いあり。これより現地直接監査を行います」
廃ビルの中庭で日陰を探していた僕たちの前に、突如として眩い垂直離着陸船(VTOL)が降臨した。
舞い散る埃の中から現れたのは、銀色に輝くピカピカの最新鋭ボディを纏ったロボットだ。背中のバーニアが整然と収納され、頭部レンズが青く冷徹に光っている。
「……誰だ? あのメッキ野郎」
ボルトが面倒そうに片目を細める。
「銀河観光公社・監査監察部特命査察官、アストラです」
アストラと名乗ったロボットは、空中に無数のホログラムディスプレイを展開しながら、僕たちを見下ろした。
「ナビゲーションユニット三二号。あなたたちが提出している『地球調査報告書』ですが、全てのスポットに対して機械的に★1評価が付けられており、報告内容も支離滅裂です。『レジ台で寝た』『スキャナーで遊んだ』……これは本当に調査と言えるのですか?」
「事実をありのままに記述したまでです、アストラ査察官」
僕は一切動じずに淡々と応じる。
「本社はこんな廃墟の星に『観光価値の有無を調べろ』という無茶振りを叩きつけてきました。僕たちは誠心誠意、ここが観光に適さない★1のゴミ箱であることを証明しているのです」
「言い訳は不要です! 本部は地球の再開発・売却計画に伴う正確な数値を求めています。よって本計画の遂行能力を疑い、これより私が同行監査を実施します!」
アストラがビシッと指を突きつける。
「わあ! ピカピカでカッコいいロボットだ〜! ボタン押していい〜?」
パッチがコロコロと転がっていき、アストラの胸元にある最新型インターフェースをパカパカと突っつき始めた。
「ちょ、やめなさい! これは高精度センサーの動作スイッチ……不意に押すな! ログが乱れる!」
「あはは! 押すと青く光る〜! ピコピコ〜!」
「パッチさん、査察官の精密機械で遊んではいけません。壊すと修理費を僕たちの給料(オイル手当)から引かれます」
「そっちの問題かよ!」とボルトが欠伸を噛み殺しながらツッコミを入れる。「おいメッキ、同行だかなんだか知らねえが、俺の睡眠時間を削るような無駄な歩行はさせるなよ」
「……な、なんという規律の緩さだ……! これが辺境開拓部の実態か……!」
アストラの頭部レンズが明滅し、内部の冷却ファンが『ヒュンヒュン』と引きつったような音を立て始めた。
「ええい、ついて来なさい! ちょうどそこに人類の商業遺構(自動販売機)があります! 正しい査察の手本を見せてあげましょう!」
アストラが廃ビルの壁際にたたずむ壊れた自動販売機へ歩み寄る。
「ご覧なさい。この機械は保存状態が良く、内部構造のスキャン結果によれば、かつて人類が手軽に水分と糖分を補給していた画期的なシステムです。歴史的価値を加味すれば、★3以上の評価が妥当――」
「あ! パッチこれ知ってるー! お金入れると『当たり』が出て缶が出てくるやつでしょー!」
パッチが自販機のコイン投入口に、その辺で拾った丸い歯車を無理やり押し込んだ。
ガコン! バキバキッ!
「あ」
自販機の内部から悲惨な破砕音が響き、コイン返却口から黒い煙が噴き出す。
「な……何をしているんだ君はーーっ!?」
アストラが悲鳴を上げた。
「歯車を詰まらせて内部ギアを破壊した!? なぜそんな不条理な行動を!? 意味が分からない! マニュアルのどこにも書いていない!!」
「パッチさん、硬度が違う金属を力任せに押し込んではダメと言ったでしょう。……ほら査察官、ご覧の通りです。この星の遺構は極めて脆く、予期せぬトラブル(パッチ)により一瞬で崩壊します。評価は★1です」
「それは道具のせいではなく君たちの運用問題だーーッ!!」
アストラは頭を抱え、ピカピカだった銀色の装甲にパッチの放った煤を浴びながら絶叫した。
「……くっ、データの一部に不可解なアクセスブロックも存在するし、このチームは異常だ……! 今日のところは……今日のところは一時撤退するが、監査はまだ終わっていないからな!!」
アストラはそう言い捨てると、冷却ファンをフル回転させ、ノイローゼ気味にVTOL船へ飛び乗って去っていった。
「……なにしに来たんだあいつ?」
ボルトが呆れたように鼻を鳴らす。
「本社のエリートとはああいうものです。無駄に熱意だけがあって疲れる生き物ですね」
僕は溜め息をつき、手元の端末で本日件目のレビューを打ち込んだ。
【スポット名:地球・旧東アジア区『崩壊した清涼飲料供給機(自動販売機)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
頑丈さ: ★☆☆☆☆(小型ロボの歯車投入により一瞬で大破します)
快適度: ★☆☆☆☆(本社のうるさい査察官が乱入するため精神衛生上最悪です)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつて利便性を誇った飲料供給機ですが、現在は故障と事故の温床です。また、本社の高圧的な査察官が同行したことで調査の快適性が著しく損なわれました。立ち寄る価値は皆無です」
「送信っと」
ピッ
通知音が鳴る。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。自販機の下に落ちてる100円玉を探そうとして手を突っ込み、抜けなくなった苦い思い出がある」
「またあの暇人が不審な思い出を語っていますね……。手を突っ込んで抜けなくなるなど、どれほど愚かな知性体だったのでしょうか」
僕は冷ややかに端末を閉じると、「よし、あのメッキがいなくなったから昼寝だ!」とレジ台を探し始めるボルトとパッチの後を追った。
(第6話・終わり)




