第5話:雨降ってサビ固まる(地下街&ゲリラ豪雨)
ゴロゴロ……ドカン!!
空が割れるような雷鳴とともに、バケツをひっくり返したような大雨が廃墟の街に降り注ぎ始めた。
「ギャアアアア!? 水だ! 水が落ちてきたあぁぁ!!」
大型軍用ロボのボルトが、巨体に似合わぬ悲鳴を上げて頭を抱えた。
「落ち着いてくださいボルトさん。ただのゲリラ豪雨です」
「落ち着けるかバカ野郎! 俺の防水パッキンは三百年前に耐用年数を過ぎてるんだよ! 内部関節に水が入ったら一発でサビついて二度と動かなくなる!!」
ガタガタと全身の金属装甲を激しく震わせるボルト。
幸い、僕たちが駆け込んだのは広大な地下街への入口だった。階段を転がり落ちるように駆け下り、なんとか雨脚を逃れる。
地下街は電力が完全に途絶しており、一寸先も見えない漆黒の闇に包まれていた。
「ふぅ……間一髪でしたね。ですが、ここも落盤の危険がありますから長居は――」
「わあー! まっくらだー! パッチ・ライト・オン!!」
カッ!!!!!
「目がああぁぁぁ!!?」
突如、球体ロボのパッチがバイザーをハイビーム並みの爆光で点灯させた。至近距離で光を浴びた僕とボルトは、視覚センサーが焼き切れんばかりの白飛びを起こす。
「パッチさん! 照度制限をかけなさい! 眩しすぎます!」
「えー? 暗いと転んじゃうよ〜? ほら見てボルト、あっちに『ラーメン』って書いてある看板があるよ〜!」
「看板はどうでもいい! 光を下げろ! 視界が真っ白でサビチェックができねえだろ!」
ボルトが目をこすりながら、自分の肘関節を必死に磨いている。
僕はバイザーの減光フィルターを作動させながら、地下街の環境データを手元の端末へスキャンした。
「……奇妙ですね。地上は激しい酸性雨と荒廃が進んでいますが、この地下街の奥深くでは、地上からの雨水によって豊かな生態系――苔や地下水脈が形成され、空気が異常なほど浄化されています。まるで、星が自浄作用で呼吸を取り戻しているような……」
「……ナビ? 何か言ったか?」
「いいえ、何も。ただの無意味な環境数値です」
僕は無意識に立ち上がりかけた詳細な自然再生データを、自分でも気づかないうちに深い階層へプロテクト(非表示)した。
「こんな湿気の固まりみたいな場所、一刻も早く脱出するぞ! ほらナビ、さっさと★1打って上(地上)の屋根がある場所探すぞ!」
「言われなくても書きます。水滴でショートされては溜まりませんからね」
僕は『銀河トリップ(GalaTrip)』の画面を開き、素早く文字を打ち込んだ。
【スポット名:地球・旧東アジア区『浸水する地下迷宮(地下街)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
乾燥度: ★☆☆☆☆(湿気と雨水で精密機器の天敵です)
視界: ★☆☆☆☆(暗闇か、小型ロボによる過剰な閃光の二者択一です)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「天候急変時に避難するには都合が良いものの、湿気が著しく高く、金属製ロボットの稼働環境としては最悪です。内部には過去の飲食店街の残骸が存在しますが、現在は単なる水没予備軍の穴ぐらに過ぎません。一刻も早い退避を強く推奨します」
「送信完了です」
ピッ
雨音を突き破って、端末が即座に通知音を鳴らす。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。雨の日の地下街は、どこからか流れてくる小麦粉とスープの匂いだけで腹が減る危険地帯だからな」
「スープの匂い……? 湿気とカビの匂いしか致しませんが。やはりこの『ユーザーID:0000』は感覚回路が故障しているようです」
僕が呆れて鼻を鳴らすと、地上から少しずつ雨の止む音が聞こえ始めた。
「よし、雨が弱まったぞ! 出脱(脱出)だ!」
「それを言うなら『脱出』ですボルトさん。……まったく、サビを恐れる割には豪快に階段を壊して登らないでください」
静かな地下街にボルトの足音とパッチの高笑いが響き、僕たちは再び濡れた廃墟の地上へと戻っていった。
(第5話・終わり)




