第4話:年中無休の自動罠(コンビニエンスストア)
「いらっしゃいませー!! 本日のオススメは焼きたてホットスナックでーす!!」
ガラガラと自動ドアをこじ開けて足を踏み入れた瞬間、割れんばかりの合成音声が廃墟に響き渡った。
「うわっ!? なんだなんだ、襲撃か!?」
ボルトが即座に身構え、胸の装甲をガシャガシャと鳴らす。
店内は崩れた棚と散乱したプラスチック容器で荒れ果てていたが、カウンターの奥に一台だけ、奇跡的に自家発電で稼働し続けている人型接客ロボットが立っていた。頭部のLEDディスプレイが明滅し、狂ったような笑顔の絵文字を浮かべている。
「……落ち着いてくださいボルトさん。敵ではありません」
僕はバイザーを光らせ、手元の端末でスキャンを実行する。
「これはかつて地球の至る所に存在した『コンビニエンスストア』の自動会計端末です。人類が絶滅してなお、プログラミングされたタスクを永久ループで実行し続けているようですね」
「へー! すごいじゃん、働き者だね〜!」
パッチが球体の体をコロコロと転がし、レジカウンターの前へ進み出た。
すると、接客ロボがギギギと不気味な駆動音を立ててパッチを見下ろす。
「ポイントカードはお持ちですかー!? ポイントカードはお持ちですかー!?」
「ぽいんと……かーど?」
パッチが首を傾げる。
「説明しましょう、パッチさん。ポイントカードとは、買い物のたびに微小な数値データ(ポイント)を蓄積し、精神的充足感を得るための人類のカード媒体です。いわば、当時の市民権を示す最強の身分証明書でした」
「えっ! ポイントカード持ってないと、このロボットに倒されちゃうの!?」
「倒されはしませんが、一生レジを通してもらえません」
「たいへんだー! 探さなきゃー!」
パッチが慌ててパカパカと装甲を開き、足元に落ちているプラスチックの破片を漁り始めた。
「温めますかー!? 温めますかー!? ポイントカードはお持ちですかー!?」
接客ロボの合成音声は止まらない。壊れたレコードのように同じ質問を繰り返している。
「おいナビ……あいつ、さっきからうるさいぞ。叩き壊して黙らせていいか?」
「ダメですボルトさん。調査対象の破損は最低限に抑えるよう、本社から厳しく言われています」
ボルトがイライラと頭を掻いていると、パッチが「見つけたー!」と嬉しそうに声を上げた。
「見て見てナビ! これポイントカードでしょ!」
パッチがレジロボの読み取り口に叩きつけたのは、化石化した『歯科医院の診察券』だった。
ブッブー!
「エラー! エラー! ポイントカードをお提示くださいー! 温めますかー!?」
「ちがうの!? じゃあこれ! 『自動車運転免許証』!」
ブッブー!
「エラー! 温めますかー!?」
「じゃあこれ! 『フィットネスクラブ会員証』! 『レンタルビデオカード』!」
ブッブー! ブッブー!
パッチが床から拾い集めたあらゆるカード類を連射するように読み取り口へ叩きつけるが、レジロボの赤ランプが激しく点滅するだけだ。
「あはは! このロボット、カードあげるとブッブーって鳴いて面白い〜!」
「遊ぶなパッチ! 警告音が耳に響くんだよ!」
ボルトが耐えかねて、レジロボの頭部をデカい鋼鉄の手のひらで『ポン』と軽く叩いた。
すると、衝撃で内部回路がショートしたのか、レジロボのLEDディスプレイが激しく乱れ始める。
「オ……温め……氷菓子を……温めま……割り箸を……三千本……おつけし……す……」
プスン……
黒い煙をひと吹きして、接客ロボは今度こそ沈黙した。
「あーあ、ボルトが壊しちゃったー」
「俺のせいにするな! お前がカード連打して負荷かけたからだろ!」
「はいはい、不毛な責任転嫁はやめてください」
僕は溜め息をつきながら、手元の端末を開いて『銀河トリップ(GalaTrip)』の投稿画面を呼び出した。
【スポット名:地球・旧東アジア区『年中無休の自動罠』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
接客品質: ★☆☆☆☆(永久ループする詰問攻めに遭います)
利便性: ★☆☆☆☆(ポイントカードがないと商品を購入できません)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつて人類の生活を支えていたとされる24時間営業の補給基地です。しかし現在は、狂った自動ロボがポイントカードの提示を永久に要求してくる精神的トラップと化しています。同行した小型ロボが診察券で遊び、大型ロボが物理攻撃で静寂を取り戻すハメになりました。訪問は非推奨です」
「送信完了です。……さあ、長居は無用です。次へ向かいましょう」
僕が端末を閉じると、同時に軽やかな通知音が響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。深夜に行くと温められたアイスと割り箸だけ渡される最悪の補給基地だ」
画面を見たボルトが呆れたように鼻を鳴らした。
「アイスを温める……? あの接客ロボ、昔からあんな調子だったのかよ」
「……ネットの都市伝説でしょう。人類がそんな無意味な注文をするはずがありません」
僕は冷ややかに言い捨て、静まり返ったコンビニの自動ドアをくぐり抜けた。
(第4話・終わり)




