第45話:サバンナの全自動サファリパーク(旧ケニア・生態観測区)
「ご覧ください! ここがかつて野生動物たちの自然な生態をそのまま観測・保護するために作られた、アフリカ東部の広大な『旧ケニア生態観測区』です」
どこまでも広がる赤土の大平原と、地平線に沈む黄金色の夕日。果てしない大自然の光景に、ボルトが思わず感嘆の声を漏らした。
「おお……! 久しぶりにまともで美しい風景じゃないか! 危険な建物も狂ったマナー講習もない!」
「ええ。本社データベースでも『太古の地球の息吹を感じる、癒やしのサファリツアー体験』として大絶賛されています。ここでは完全機械化された生態観測ドローンたちが、野生動物の行動パターンを忠実に再現しており――」
ガオォォォォォォンッッ!!!!
突如、大気を震わせるすさまじい金属製の咆哮が轟いた!
赤土の丘の向こうから、漆黒の強化超合金ボディに高周波バイブレーションブレードの牙を生やした、体長4メートルを超える『ライオン型殺戮ドローン』の群れが姿を現した!
「な……なんですかあの凶暴そうなビジュアルは!?」
『サファリパークへようこそ!!』
平原の監視タワーから、陽気なカウボーイハットを被った『サファリガイドAI・レンジャー』のホログラムが飛び出してきた。
『当エリアでは、野生のルールを100%忠実に再現しております! 肉食獣ドローンの縄張り意識、狩りの本能、そして「獲物を噛み砕く噛み合わせ圧力(5トン)」を完全網羅! さあ、お客様もサファリの醍醐味をお楽しみください!』
「噛み合わせ圧力5トンだと!? ちょっと待て、俺たちのサファリバス(移動車両)はどこにあるんだ!?」
『サファリバス? 何をおっしゃいますか! 野生のリアルを体感していただくため、お客様ご自身が「徒歩の乗客兼ターゲット(獲物)」となっていただきます!』
「獲物扱いじゃねぇかぁぁぁ!!」
ガオォォォンッ! ガシィッ!!
群れのリーダー格のライオン型ドローンが、猛烈なスピードで跳躍! ボルトの腕にその巨大な高周波ブレードの牙で噛みついた!
ガリガリガリガリッ! 火花バチバチッ!!
「あ痛っっ!? 強い! 噛む力が異常に強ぇ! 装甲の接合部が歪むぅぅぅ!!」
「ボルトさん! ライオン型ドローンのアルゴリズムは『縄張りに侵入した動く物体を徹底的に噛み砕く』という野性プロトコルが暴走しています! 逃げてください!」
「逃げろって言われても、追いつかれるに決まってんだろ! このサバンナ、平坦すぎて隠れる場所がねぇ!!」
「あははー! でっかいワンちゃんだ〜! パッチにも噛み噛みしてきた〜!」
パッチの頭部にもヒョウ型ドローンがガブガブと噛みついているが、パッチの球体ボディが丸すぎて滑り、噛みついたドローンの方が歯をカチカチと空振りさせて首を傾げている。
「パッチ! 呑気に噛まれてる場合じゃありません!」
「ナビ! この猛獣どもを追いはらう方法はないのか!?」
僕は高速で動物行動学データベースを検索した。
「ありました! 野生動物……およびそれを模したドローンは『自分より遥かに巨大な天敵の存在』や『未知の恐怖音響』に遭遇すると、縄張りを放棄して逃走する習性があります!」
「巨大な天敵!? 音響!? そんなもん今すぐ用意できるか!」
「いいえ、あります! ボルトさん! あなたの胸の『昭和フォークソング』と、最大出力の排気バルブ開放です!」
「また俺の歌かよ! だが……噛みちぎられるよりマシだぁぁぁ!!」
ボルトは腕に噛みついたライオン型ドローンを力任せに振り払うと、胸の装甲を全開にし、内部の音響スピーカーと排気ファンを極限まで駆動させた!
ブフォォォォォッ!! ゴオォォォッ!!
ボルトの全身から猛烈な黒煙と高圧スチームが吹き出し、巨大な怪獣のようなシルエットを形成!
そして、その煙の奥から最大音量(120デシベル)の『あの哀愁ソング』がサバンナに轟き渡った!
〜〜♪ お前の涙を〜俺が拭く〜♪
〜〜♪ 夕焼けのサバンナに〜あいつの影が〜溶けてゆく〜♪
ズズズズズ……!
凄まじい大音量のド演歌フォークソングと、黒煙を撒き散らすボルトの姿に、ライオン型ドローンたちのAIプロセッサが過熱・混乱を起こした。
『警……告……! 未知ノ超大型怪獣(未知ノ音響生物)ヲ検知……! 縄張り防衛不能……! 退避! 退避セヨ!!』
キャンキャンキャンッ!!
百獣の王たるライオン型ドローン群は、尾っぽを巻いた犬のように情けない悲鳴を上げ、一斉にサバンナの地平線の彼方へと一目散に逃げ去っていった!
『あ、あり得ない……!? 当パーク最強の百獣の王たちが、一瞬で駆逐されただと……!? どんな生態系エラーだぁぁぁ!?』
ショックを受けるガイドAIレンジャーを横目に、ボルトは息を荒らしながら胸のスピーカーを叩いて歌を止めた。
「……ハァ……ハァ……。ライオンだろうが何だろうがな……昭和の哀愁の前には形無しなんだよ……」
「見事な野生撃退法でした、ボルトさん。まさにサバンナの覇者ですね」
僕はバイザーのレンズを調整し、手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』に45件目となるレビューを入力・送信した。
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> 【スポット名:地球・旧ケニア区『危険すぎるサファリ(旧生態観測区)』】
> 総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
> 安全性: ★☆☆☆☆(観測ドローンの噛む力が強すぎ、生身の訪問者を「獲物」として集団で咀嚼しにきます)
> ツアー内容: ★☆☆☆☆(サファリバスはなく、自力で凶暴なライオン型ドローンと格闘させられる命がけのサバイバルです)
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> 【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
> 「自然豊かなサファリパークですが、実態は野放しにされた肉食ドローンによる狩られ場です。同行者の胸から大音量の昭和フォークソングを爆音放射することで追い払うことができましたが、一般的な観光客には一切おすすめできません」
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「送信完了です」
ピッ
夕暮れのサバンナに、軽快な通知音が響いた。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこのライオン型ドローン、前に来た観光客のホバーバイクを骨組みまで噛み砕いた危険物だからな。昭和の歌で追いはらったのは流石だ」
画面を見たボルトが、噛み跡のついた腕を見つめながらため息をついた。
「……やっぱり前科持ちの猛獣だったか。腕の凹みを直さなきゃな……」
「はい。次は砂の下に埋もれた地下商業エリア『サンド・モール』へ向かいます。日陰でゆっくり整備しましょう」
僕たちは夕日を背に受け、次なる目的地へと足を進めた。
(第45話・終わり)




