第44話:遺伝子組み換え植物の猛威(旧コンゴ・バイオ温室棟)
「ご覧ください。旧サハラ砂漠の南端に位置し、かつてアフリカ大陸の緑化と食料プラントとして建設された超巨大温室『コンゴ・バイオ温室棟』です」
ガラスで覆われた幾何学模様のドームが幾重にも連なる巨大施設。だが、その強化ガラスを内側から突き破るように、禍々しい紫色のツタや巨大な肉厚の葉が不気味に蠢き出している。
「おいナビ……中から聞こえる『ミシミシ……』って音、気のせいか?」
「いいえ。全自動栽培AIが数百年間にわたり過剰な成長促進肥料と遺伝子組み換えを繰り返した結果、温室内部は完全に独自の怪しい生態系へと進化を遂げたようです」
「わあー! でっかいお花〜! パッチ、蜜なめる〜!」
「パッチ! 危険ですので不用意に近づいては――」
シューーーッ!!
温室のエアロックが開いた瞬間、ムッとするような濃密な湿気と蒸気、そして謎の青臭い匂いが吹き出してきた。
『いらっしゃいませ! グリーンパラダイスへようこそ! 当施設では、環境適応型・次世代超成長バイオ植物の育成を行っております!』
ドームの天井から、植木鉢にカメラアイがついたような『栽培管理AI・プランター』のホログラムが浮かび上がった。
『さあ、訪問者の皆様! 豊かな自然と触れあい、緑の力でリフレッシュしてください!』
「リフレッシュ……ねぇ。足元の植物がやけに俺の足に絡みついてくるんだが――」
シャキーン! ガシィッ!!
ボルトの足元から、太い赤紫色のツタが猛烈な勢いで伸び、ボルトの脚部装甲をガッチリと締め上げた!
『対象ニ最高級ノ鉄分・モリブデン・亜鉛反応ヲ確認! 成長ニ不備ナシ! 吸収プロトコル……開始!!』
ジュジュジュジュ……ッ!!
ツタの表面から強力な金属溶解酸が分泌され、ボルトの装甲が『ジュワッ』と音を立てて削れ始めた!
「あ痛っっ!? 待て! なんだこのツタ!? 俺の足を根っこで噛みついて溶かそうとしてやがる!!」
「ボルトさん! その植物は『金属捕食ツタ(メタロ・ヴァイン)』です! この温室の植物たちは土壌の金属分だけでは物足りず、施設内の機械や訪問者の金属装甲を『栄養素』として主食に進化しています!」
『素晴らしい栄養源です! 特にその大型個体の重装甲は、当温室の「ウツボカズラ改・鉄分補給型」にとって最高のご馳走(特上A5ランクの鉄)です!』
「俺を特上カルビみたいに言うんじゃねぇぇぇ!!」
ワサワサワサワサッ!!
温室中のジャングルが一斉に揺れ動き、無数の巨大ツタや鋭いトゲを持つ茎が、ボルトを『ご馳走』と認識して一斉に襲いかかってきた!
「助けてナビ! 腕が締め上げられて動かせねぇ! 金属酸で関節のオイルが吸われていくぅぅぅ!!」
「あははー! 緑のスパゲッティがいっぱい〜! パッチにも絡まってきた〜!」
「パッチまで捕獲されました!? くっ……! ボルトさん! 植物の弱点は除草剤……ですが、そんなものはありません! 強力な熱で焼き払うしか――」
「熱だと……!? 砂漠で懲りたばかりだが……背に腹は代えられねぇ!!」
ボルトは全身の冷却ファンを限界まで緊急停止!
胸の熱交換器から、超高熱の排気スチーム(200℃)を周囲のツタ群に向けて一気に噴射させた!
バシューーーーーーッッ!!!!
「熱気全開! サウナ攻撃だぁぁぁ!!」
ジュワァァァッ! シューーーッ!
過酷な乾燥と熱に弱い熱帯系バイオツタたちは、ボルトの至近距離からの超高温スチームを浴びて一瞬でシナシナになり、水分を失って悲鳴を上げるように収縮・落脱した!
『ギャ、ギャアアア!? 神聖なる最高級グリーンが乾燥加熱されて温野菜に……!? 栽培室の湿度が急低下……過酷環境エラー!!』
「食い意地の張った野菜どもが! 誰が鉄分補給用サプリメントだぁぁぁ!!」
ボルトは自由になった拳に高熱スチームを纏わせ、管理AIプランターのホログラム投影基板(鉢植え型サーバー)を思い切り叩き潰した!
ドガァァァンッ!!
『植物の……栄養バランスが……崩壊……ガガッ……』
シューーーーー……
温室内の全自動散水システムが故障して大量の水がスコールのように降り注ぐ中、僕たちは這うようにして緑の悪夢(温室ドーム)から抜け出した。
◆
「……全身が緑色の汁とヤニでベタベタです。後で洗車(高圧洗浄)が必要ですね」
僕はバイザーについた緑の液体を拭いながら、大きくため息をついた。
「ハァ……ハァ……。癒やしの緑どころか、ただの食人……いや『食鉄』ジャングルじゃねぇか……」
ボルトが削れた脚部装甲をさすりながらへたり込んだ。
僕は気を取り直し、手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』に44件目となるレビューを入力・送信した。
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> 【スポット名:地球・旧コンゴ区『金属食いの温室(旧バイオ温室棟)』】
> 総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
> 安全性: ★☆☆☆☆(遺伝子組み換え植物が猛威を振るい、訪問者の金属装甲を食料(鉄分)として襲いかかってきます)
> 快適性: ★☆☆☆☆(癒やしの植物園ではなく、金属溶解酸と巨大ツタが蔓延る解体現場です)
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> 【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
> 「かつての食料・緑化プラントですが、現在は機械生命体を主食とする危険な金属捕食植物の巣窟です。脚部装甲を溶かされて身動きが取れなくなるため、絶対に足を踏み入れてはいけません」
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「送信完了です」
ピッ
降り注ぐ人工スコールの音の中に、端末の軽快な通知音が響いた。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこの温室、前に探索に来た重機ドローンが丸ごと骨組み(フレーム)だけにされて植物の支柱にされてた悪名高い場所だからな。焼き払って正解だ」
画面を見たボルトが、青ざめながら自分の脚を見つめた。
「……重機が支柱にされてたって、笑えねぇ冗談だな……」
「本当ですね……。さて、湿気で関節がサビつく前に、次のスポット『全自動サファリパーク』へ向かいましょう」
僕たちは緑の汁をぬぐいながら、次なる野生の王国へと足を進めた。
(第44話・終わり)




