第43話:砂嵐の中の自律型キャラバン(旧サヘル・自動輸送ルート)
ゴオォォォォォッ!! ザザザザザッ!!
視界を完全に遮る猛烈な赤砂の嵐。立ち上がる砂の壁によって光学カメラの視界はわずか50センチ先すら判別できない。
「ご、ご覧ください……! ここはかつてアフリカ大陸の内陸部へ物資を運ぶために整備された『旧サヘル自動輸送ルート』です……!」
僕の関節部にジャリジャリと微細な砂が侵入し、センサー類が激しいノイズを上げている。
「声が風音で聞こえねぇよ! なんだって!? ていうか、足が砂に埋まって全然前に進まねぇんだが!!」
「わあー! 砂の遊園地だ〜! パッチ、埋まっちゃう〜!」
球体ボディのパッチに至っては、砂丘の斜面を転がるたびにどんどん流砂に飲み込まれ、頭のアンテナしか見えなくなっていた。
ポーーー……ポーーー……
その時、砂嵐の奥から古びたクラクションのような重低音が響き渡り、濃霧ならぬ濃砂の向こうから金属製の長大な「隊列」がヌッと姿を現した。
「おいナビ! なんかデカいのが来たぞ!」
それは、体長5メートルを超える鋼鉄製の『自律型ラクダロボ』が10機、太いワイヤーで数珠つなぎに連結された自動輸送隊列だった。
「助かりました! あれは旧時代の長距離自動輸送キャラバン『キャメル・エクスプレス』です! 背中の荷台に乗せてもらえれば、この砂嵐エリアを一気に突破できます!」
「よし! タダ乗り(ヒッチハイク)させてもらうぞ!」
僕たち3体は、最後尾のラクダロボの荷台へと飛び乗った。金属の背中は砂嵐を遮り、快適そのものだった。
「ふぅ……間一髪でしたね。これで楽に次のバイオ温室エリアへ移動できます」
ガラガラガラ……
ラクダロボたちは規則正しく『ポーーー』と音を立てながら、力強い足取りで砂丘を歩み続ける。
……10分経過。
……30分経過。
「……なぁナビ。なんか……さっき通った倒れた標識と、同じ歪な形の岩がまた見えた気がするんだが」
ボルトが背中の排気口の砂を払いながら、訝しげに首をかしげる。
「えっ……? まさか、GPSデータを照合します……」
ピピピッ!
「な……!? 僕たちはこの1時間、直径500メートルの同じ砂丘の周りを【完璧な円を描いて6周】しています!?」
僕たちは大慌てで一番先頭のリーダーラクダロボの制御ユニットへ駆け寄った。
「キャメルAI! 応答してください! なぜ同じ場所をグルグル周回しているのですか!? 目的地である南のバイオ温室へ向かってください!」
リーダーラクダロボの単眼センサーが『パチッ』と点灯した。
『乗客ノリクエストハ……無効デス』
機械的な合成音声が風音に混じって返ってくる。
『当キャラバンハ……数百年前ノ運行スケジュールニ従イ……「旧サヘル第4中継所」ノ到着ヲ待機中デス。中継所ガ確認デキナイタメ……周辺1キロメートルヲ永久循環パターンニテ巡回中デス』
「中継所だと!? そんな施設、数百年前の砂嵐でとっくに崩壊して砂の下に埋まってんだろ!!」
ボルトが叫ぶ。
『中継所ノ応答ガナイタメ……通過信号ハ発信セズ。巡回プロトコルヲ……永久継続シマス。本日ノ巡回数:1,482,901周目』
「いち、ひゃくよんじゅうはち万周ぅぅぅ!?」
「ボルトさん、ダメです! このキャラバンは『次のバス停(中継所)がレスポンスを返さない限り、絶対にルートを外れない』という超・堅苦しいプロトコルで固定されています! 荷物も積んでいないのに永遠に空回りを続けているんです!」
「乗ってても一生どこにも着かねぇ『永遠のループバス』じゃねぇかぁぁぁ!!」
『間ナク……1,482,902周目ニ入リマス。快適ナ旅ヲ……』
「快適なわけあるかぁぁぁ!! 地下の中継所がないなら……俺がレスポンスになってやる!!」
ボルトがブチギレてキャラバンの荷台から飛び降りると、ラクダロボの進行方向の砂地に向かって、両腕の油圧アームを限界まで振り下ろした!
ズガガガガガァァァンッッ!!!!
凄まじい衝撃波が砂地を揺らし、流砂が陥没! 砂の下に埋もれていた旧中継所の「通信アンテナの先端」が物理的に露出した!
ピコーン!
『信号受信……。「旧サヘル第4中継所」通過ヲ確認……。次回巡回ルート(南方向)へ進行許可……』
「通ったぁぁぁぁ!!」
信号を受信したラクダロボたちは、何事もなかったかのように『ポーーー』と汽笛を鳴らし、真っ直ぐ南のバイオ温室方向へと進路を変えた。
「……ハァ……ハァ……。砂掘って通信アンテナ見つけなきゃ進まねぇバスとか、どんな欠陥ルートだよ……」
ボルトが砂まみれの腕を振りながら、ラクダの背中に倒れ込んだ。
「お見事な物理レスポンスでした、ボルトさん。これで無事に南下できます」
僕は安堵のため息をつき、揺れるラクダの荷台の上で手元の端末を開き、『銀河トリップ(GalaTrip)』に43件目となるレビューを入力・送信した。
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> 【スポット名:地球・旧サヘル区『無限循環ルート(旧自動輸送ルート)』】
> 総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
> 移動効率: ★☆☆☆☆(埋没した中継所の応答を待ち続け、同じ砂丘を148万周以上ループしています)
> 利便性: ★☆☆☆☆(乗っても目的地に一切近づかないため、物理的に埋もれた通信アンテナを発掘して通過信号を偽装する必要があります)
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> 【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
> 「かつての幹線輸送ルートですが、現在はデータ更新の途絶えた自動キャラバンが砂嵐の中で永久ループを繰り返すトラップ地帯です。自力で中継所を発掘しない限り脱出不能なため、利用価値はありません」
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「送信完了です」
ピッ
砂嵐の音の中に、端末の軽快な通知音が響いた。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこのキャラバン、前に乗った時にループに気づかず3日間で砂丘を500周させられた苦い思い出があるぞ。アンテナ叩き出したのは見事だ」
画面を見たボルトが、ラクダの背中で呆れたように呟いた。
「……あいつ、3日間もグルグル回ってたのかよ。本当に暇な奴だな」
「まったくですね。……さあ、砂嵐の終わりが見えてきました。次は密閉された巨大温室『コンゴ・バイオ温室棟』です」
僕たちは砂嵐を抜け、眼下に広がる巨大なドーム状施設を目指して、ラクダの背に揺られながら前進した。
(第43話・終わり)




