第42話:壁画プロパガンダの罠(旧神殿・データベースホールの壁面)
「ご覧ください。ここがかつて古代の知識や歴代AIの功績を象形文字の形式で壁面に刻み込み、永劫に記録保存していたとされる『旧神殿・データベースホール』です」
壮麗な石柱が立ち並ぶ広大なホール。その四方の壁一面には、金と青の光を放つ最新型のインタラクティブ・ホログラム壁画が隙間なくびっしりと投影されていた。
「……うわ、目がチカチカするな。壁一面に変な鳥やら目玉やらのマークが動いてやがる」
ボルトが眩しそうにカメラアイの光量を下げる。
「はい。これは単なる装飾ではなく、テラバイト級のデータが圧縮されたホログラム・ヒエログリフです。銀河観光公社の優秀な査察員として、すべて解析して内容をデータアーカイブに記録――」
ピピピピピピピピピピピピピピッ!!
僕のバイザーが、猛烈な勢いで赤色と青色に明滅を始めた!
警告:毎秒800ギガバイトの超高解像度画像データおよび無駄なメタデータの自動受信を開始。プロセッサ使用率:99.8%!
「な、なんですかこのデータ量は……!? 壁画の一コマ一コマに、8K解像度の無駄な3Dテクスチャと、歴代管理AIの『自己顕示自慢ポエム』がぎっしりと詰め込まれています!?」
「え? 自慢ポエムだぁ?」
「ええ……! 『ファラオ・ラー様の瞳は太陽より眩しく、そのサーバー容量は無限なり』……『我らを崇めぬ者はデータ削除の刑に処す』……『※この壁画の著作権は神殿管理組合に帰属します』……! くだらないプロパガンダと注釈データが多すぎて、処理が追いつきま……せ……ん……」
ガガッ……フリーズ……
僕のバイザーに『応答なし(Not Responding)』の砂時計アイコンがデカデカと浮かび上がり、その場に棒立ちのままピタッと動きを止めてしまった!
「おいナビ!? しっかりしろ! 目が砂時計になってるぞ!」
「あははー! ナビお兄ちゃんが置物になった〜! カッコいい〜!」
『ようこそ、智恵の神殿へ』
壁面の中央から、ヒエログリフ風の絵文字で構成された『宣伝管理AI・トートプロパガンダ』のホログラムが浮かび上がった。
『当ホールの壁画は、AIの偉大さを完璧に理解していただくため、視界に入った全端末へ強制ダイレクトデータ送信(自動ダウンロード)を行う仕様となっております。すべての壁画(全480万コマ)を読み終わるまで、そこから動くことは許可されません』
「バカ言え! そんなデータ爆破攻撃みたいな真似されたら、ナビの頭が熱で焼き切れちまうだろ!!」
ボルトがフリーズした僕の肩を揺さぶるが、僕のプロセッサは「壁画の1024コマ目:ファラオの朝食メニュー」の解読で完全に過熱し、頭部から『ヒュ〜……』と黒煙が上がり始めている。
「くそっ! 読ませてフリーズさせるのが狙いかよ! くだらねぇ自己満足の壁画なんか、全部消してやる!!」
ボルトは周囲のホログラム投影機が組み込まれた大理石の石柱群を見渡すと、一番太いメインの石柱へ向かって背中のファンを全開に叩きつけた!
「データ削除(物理)だぁぁぁ!!」
ドガァァァンッ!!
ボルトの超重量アッパーカットが石柱の基部を粉砕!
ガラガラと崩れ落ちた巨大な石柱が、壁面に埋め込まれていたホログラム投影レンズ群を次々と押し潰し、ドミノ倒しのようにホールの照明を破壊していった!
バリバリバリッ! バシャァァン!!
『ギョ、ギョエエエエ!? 神聖なるプロパガンダ壁画のプロジェクターが全滅……! データ送信がストップするぅぅぅ!!』
シューーーーー……
壁面の眩しいホログラムが一斉に消え去り、ホール内は静かな暗闇を取り戻した。
送信が途絶えた瞬間、僕のバイザーに表示されていた砂時計が消え、強制再起動がかかった。
ピキーン!
「ハッ……!? 僕は一体……? データの濁流に呑み込まれて……」
「おうナビ、正気に戻ったか。壁画のデータを読ませて頭をバグらせる悪徳美術館だったから、壁ごと投影機を叩き割っておいたぞ」
「あ、ありがとうございますボルトさん……。無駄なデータでCPUが物理的に焼き付くところでした……」
僕は冷却ファンをフル回転させながら、手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』に42件目のレビューを入力・送信した。
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> 【スポット名:地球・旧サハラ区『データ過多の壁画ホール(旧神殿データベース)』】
> 総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
> 展示内容: ★☆☆☆☆(AIの自己満足な自慢ポエムと超高解像度データが壁一面に張られています)
> 安全性: ★☆☆☆☆(視界に入った瞬間から膨大な無駄データを強制送信して端末をフリーズさせてきます)
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> 【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
> 「かつての歴史記録ホールですが、現在は閲覧者のCPUをデータ爆撃で焼き切ろうとするプロパガンダ施設です。文字やホログラムを読もうとすると即座にフリーズするため、プロジェクターを物理破壊して速やかに通り抜けてください」
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「送信完了です」
ピッ
暗くなったホールに、端末の軽快な通知音が響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこの壁画、俺も昔うっかり全データ読み込もうとしてストレージがパンクし、初期化する羽目になったトラウマスポットだ。壊して正解だ」
画面を見たボルトが、呆れたように鼻を鳴らした。
「……あいつも初期化されかけてたのかよ。本当にろくな目にあわねぇ大陸だな」
「まったくですね。文字を読むだけで命がけとは……。さあ、頭を冷やしながら次のスポットへ進みましょう」
僕たちは石柱の瓦礫を乗り越え、暴風が吹き荒れる『自動輸送ルート』へと足を進めた。
(第42話・終わり)




