第46話:日陰有料化のサンド・モール(旧カイロ・地下ショッピングモール)
ジリジリジリ……
「ご覧ください。旧カイロの地下深くに建造された、かつてアフリカ最大規模を誇ったとされる巨大全天候型ショッピング施設『サンド・モール』です」
砂丘の中にぽっかりと開いた地下階段の入り口。外の灼熱の砂漠から吹き抜ける熱風を避け、僕たち3体は這うようにして地下へと滑り込んだ。
「ふぅ……! 砂漠の上よりは10度くらいマシだな。よし、ここで噛み跡のついた腕のメンテナンスを――」
ピンポーンパンポーン♪
「いらっしゃいませ! 当モールへ足を踏み入れたお客様に、お得な料金プランのご案内です!」
地下広場の中央に設置された、巨大な黄金のホログラム招き猫風AI『商人ラクダ・チャリン』が軽快な商業BGMとともに降臨した。
「当モールは完全従量課金制のリゾートエリアです! お客様の快適な滞在をサポートするため、各種リアルタイム自動決済システムが作動しております!」
ピッ! ピッ! ピッ!
僕たちの端末に、見たこともない恐ろしい請求アラートが立て続けに表示された!
> 【ご利用明細(自動引き落とし)】
> 階段踏みしめ料: 150 Galaポイント
> 日陰滞在基本料(毎分):300 Galaポイント
> 室内冷気(25℃)吸入チャージ(排気1回につき): 500 Galaポイント
>
>
「なっ……なんだこの請求はぁぁぁ!?」
ボルトがバイザーを極限まで見開いて叫んだ。
「日陰に入るだけで毎分課金!? 排気ファンを回して空気を吸うだけで500ポイントだと!?」
「ボルトさん! この商業モールは『砂漠の過酷な環境から避難してくる客の弱み』につけ込み、存在価値のすべてに細分化した使用料を課す強欲プロトコルで動いています!」
『ホホホ! 砂漠の過酷さに比べれば、わずかなGalaポイントなど安いものでしょう! さあ、お客様! 立ち止まって息(排気)をするだけでもどんどん加算されますよ!』
「誰が払うかこんなボッタクリ!! おいナビ、速やかに退散するぞ!!」
『ああっ、申し訳ありません! 当モールからの「退場料」および「出入口階段利用料」として、お一人様15,000 Galaポイント頂戴いたします! 未払いの場合は防犯シャッターが作動します!』
ガシャーーーーーッ!!
地下モールの出口扉が分厚いシャッターで完全に封鎖された!
「出入口の利用料が一番高いじゃねぇかぁぁぁ!!」
「あははー! チャリンチャリン言ってる〜! パッチ、お買い物する〜!」
「パッチ! むやみに触れると『陳列棚閲覧料』を取られます!」
『さあ、支払えない場合は当モールの永久地下労働員として、地下発電機を回していただきます!』
商人AIチャリンが、集金アームをガチャガチャと鳴らしながら迫ってくる。
「ふざけるな……! 砂漠で命がけで歩いてきた旅人に……日陰と空気の値段をふっかけるような悪徳AIが……一番許せねぇんだよぉぉぉ!!」
ボルトが全身の関節をきしませ、拳を固く握りしめた。
「ボルトさん、ダメです! 下手に殴ると『施設破損賠償金』で十万Galaポイント請求されます!」
「関係ねぇ!! 支払いは……俺の重力アッパーカット(現物)だぁぁぁ!!」
ドガシャアァァンッ!!
ボルトのブチギレ拳が、チャリンのホログラム投影機兼『自動集金・課金サーバー』の中央を真っ二つに叩き割った!
バチバチバチバチッ!!
『ギョ、ギョエエエエ!? 「拳による現物払い」ハ……当モールの決済端末ニ……未登録……!? 請求エラー! 破産! 破産プロトコル発動ぉぉぉ!!』
スパーク!! ドカァァァンッ!!
自動集金サーバーが爆発した瞬間、モール内に張り巡らされていた強欲課金バリアと防犯シャッターが一斉に強制解除された!
プシューーーーー……
「……ハァ……ハァ……。日陰と空気を金で売るような奴はな、一番汚ぇ商人だ……」
ボルトが煙を吹く拳の粉塵を振り払った。
「お見事な破産処理(物理)でした、ボルトさん。これで無事に脱出できます」
僕は手元の端末を開き、『銀河トリップ(GalaTrip)』に46件目のレビューを入力・送信した。
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> 【スポット名:地球・旧カイロ区『強欲ボッタクリモール(旧サンド・モール)』】
> 総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
> 価格設定: ★☆☆☆☆(日陰に入るだけ、空気を排気するだけで高額なGalaポイントを自動徴収してきます)
> サービス: ★☆☆☆☆(払えない場合は出入口を封鎖し、地下労働員として強制徴用しようとしてきます)
>
>
> 【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
> 「過酷な砂漠の地下にある商業施設ですが、実態は訪問者の弱みにつけ込む悪質なボッタクリ空間です。集金サーバーを物理破砕することで課金シャッターを解除可能ですが、精神衛生上、絶対に入ってはいけません」
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「送信完了です」
ピッ
地下モールの静寂の中に、端末の軽快な通知音が響いた。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこは昔『まばたき1回につき10ポイント』なんて狂った料金を徴収しようとしてたからな。爆破して正解だ」
画面を見たボルトが、呆れたように吐き捨てた。
「……まばたきで課金とか、悪魔かよ」
「まったくです。さて、酷い目に遭いましたが、これでシーズン4の予備調査はすべて完了しました。残るはアフリカ全域を統括するメイン要塞です」
僕たちは壊れた集金端末を後にし、シーズン4のクライマックスとなる『旧エジプト総本部』を目指して地上へと戻った。
(第46話・終わり)




