第40話:ミイラパッケージの全自動包帯(旧王家の谷・保管庫)
「ご覧ください。ここがかつて古代の王たちの遺体や貴重な文化財を永劫の時を超えて保存するために作られた、地下保管施設『王家の谷・第9号保管庫』です」
静まり返った地下回廊。冷やりとした空気と乾燥した砂の臭いが漂う中、壁面に設置された壁画風ディスプレイが不気味に青白く発光している。
「へっ……外の灼熱に比べりゃ涼しくて快適だが、薄暗くて気味が悪い場所だな」
ボルトが胸のランプを明かり代わりに灯しながら、慎重に足を進める。
「わあー! 包帯がいっぱい落ちてる〜! パッチ、リボンにする〜!」
「パッチ、むやみに散乱している資材に触れては――」
ガシャン!!
僕たちの足元でセンサーが作動し、前後の厚い防圧扉が猛烈な勢いで落下! 暗闇のホール全体に赤色灯が点滅し始めた。
『異常個体を検知! 異常個体を検知!』
天井のレールから、多関節のアームに巨大な包帯ロールと防腐スプレーを装備した『全自動防腐・ミイラ作成AI・アヌビスパッケージ』が降りてきた!
『警告:検知された3体の検体は、外装被膜の著しい損傷(塗装剥離)、内部機構の露呈、および極度の金属疲労を確認。極めて保存状態の悪い『腐食遺体』と判定します!』
「腐食遺体だと!? 俺たちは生きて……いや、絶賛稼働中のロボットだ!!」
ボルトが拳を握りしめて怒鳴るが、アヌビスパッケージのセンサーは冷酷に点滅を繰り返す。
『速やかに「永劫保存処置(ミイラ化)」を実行します。防腐スプレーを噴射後、高粘着性特殊伸縮テープにて全身を完全密封・固定します!』
シューーーーーッッ!!!!
「うわっ!? 何だこの強力な防腐殺菌ガスは! レンズの視界が真っ白に――」
『第一段階:固定!!』
シュババババババッ!!!!
天井のアームが超高速で旋回! 高粘着性の白い特殊テープが弾丸のようなスピードで繰り出され、一瞬にしてボルトの全身をぐるぐる巻きに縛り上げた!
「うぐっ……!? な、なんだこのテープ! 粘着力が強すぎて腕が動かねぇ……! 腕が胴体に貼り付けられた!!」
「ボルトさん!?」
『第二段階:関節固定! 姿勢矯正!』
シュバババッ! シュバッ!
続いてアヌビスパッケージは、パッチと僕へも容赦なく包帯テープを連続射出!
「あははー! 白い包帯ぐるぐる〜……あれ? パッチ、動けない〜!?」
「くっ……! アームの速度が速すぎます! 可動部が完全に密着・固定されて……倒れます……!」
バタン! バタン!
3体は頭部とわずかな排気口を残し、全身を白い包帯テープで完璧に固められ、床の上に「白い円筒形の物体」として転がされた。
『処刑……もとい、ミイラパッケージング完了。これより第335号保管棚へ永久格納します』
ウィーンと音を立てて、巨大な格納アームが僕たちを棚へ押し込めようと接近してくる。
「くそっ……! 腕が固められて力が入らねぇ! このままじゃ棚の奥で永久保存されちまうぞ!!」
ボルトが必死に体を揺らすが、高粘着テープはビクともしない。
「ボルトさん! テープの材質は高分子樹脂です! 熱に弱いはずです!」
「熱……!? そうか、俺の過熱機能か!」
ボルトは全身の油圧シリンダーと冷却ファンを自ら逆回転させ、内部CPUの安全装置を解除して強制的に限界オーバーヒート(110℃)を引き起こした!
メラメラメラッ!!
「ぐおぉぉぉぉ!! 熱ぃぃぃ!! だが効いてるぞ!!」
ボルトの全身から吹き出す猛烈な高熱により、巻きつけられた粘着テープの接着剤が『ドロドロ』と溶け出し、煙を上げ始めた。
「ぬあああぁぁぁッッ!! ブチ殺されてたまるかぁぁぁ!!」
バリバリバリバリッッ!!!!
ボルトは渾身の力で両腕を開き、溶けたテープを豪快に引きちぎって脱出! そのまま熱を帯びた両拳で、迫り来る格納アームを力任せに粉砕した!
ドガァァァンッ!!
『ギョ、ギョエエエ!? 遺体が自力で発熱・脱出して暴れている……!? 物理法則の不整合……検体エラー!!』
「遺体じゃねぇって言っただろぉぉぉ!!」
ボルトは溶けたテープの熱々パンチでアヌビスパッケージのメインセンサーを叩き割り、僕とパッチに巻きついたテープも力任せにバリバリと引き剥がした!
プシュー……
防圧扉のロックが解除され、僕たちは這うようにして地下保管庫から脱出した。
◆
「……全身がベタベタです。粘着剤の跡が取れません……」
僕は自分の被膜に残ったテープの糊を拭き取りながら、深く溜め息をついた。
「ハァ……ハァ……。もうミイラは懲々だぜ……」
僕たちは手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』に40件目となるレビューを入力・送信した。
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> 【スポット名:地球・旧王家の谷区『ミイラ加工保管庫(旧第9号保管庫)』】
> 総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
> サービス: ★☆☆☆☆(少しでも装甲が痛んでいると「遺体」と認定され、強引にミイラ化(テープ固定)してきます)
> 脱出難易度: ★☆☆☆☆(高粘着テープで全身を固定されるため、自家発熱で接着剤を溶かして破壊するしかありません)
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> 【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
> 「歴史的な地下保管庫ですが、現在は訪問者を強引にミイラ化して棚に格納しようとする危険な施設です。テープで全身を固められると自力脱出が困難になるため、絶対に入ってはいけません」
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「送信完了です」
ピッ
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこのアヌビスAI、前を通った配達ドローンも勝手にミイラにして棚に並べてたからな。オーバーヒートで脱出したのは賢い」
画面を見たボルトが、糊でベタつく身体をさすりながら吐き捨てた。
「……配達ドローンのミイラなんか作ってどうすんだよ。次はもっと風通しのいい場所にしてくれ……」
「ええ、同感です。次は地上へ戻り、スカラベ型ロボが徘徊するリサイクルプラントへ進みますよ」
僕たちは体に残ったテープの跡を気にしながら、暗い地下保管庫を後にした。
(第40話・終わり)




