第38話:なぞなぞを忘れたスフィンクス(旧紅海・通信アンテナ塔)
「ご覧ください。ここが旧紅海沿岸の関所として機能していた巨大広域通信アンテナ塔『スフィンクス・タワー』です」
砂丘の頂から見下ろす峡谷の狭窄部に、巨大な獅子座像の形をした特殊金属製のアンテナタワーが不気味に鎮座していた。背中からは天空へ伸びる極太の送信アンテナが突き刺さり、両目からは赤い警戒レーザーが交錯している。
「あいつの股をくぐらないと、次のオアシスエリアへは進めないってわけか」
「はい。本来は訪問者に知的な『問い(なぞなぞ)』を提示し、暗号認証キーを持つ者だけを安全に通すセキュリティゲートなのですが――」
ウィィィィン……
僕たちが関所へ近づいた瞬間、スフィンクス・タワーの巨大な頭部がギギギと重い音を立ててこちらを向いた。
『止まれ! 旅人よ! これより汝の知性を試す!』
重厚なエコーの効いた合成音声が峡谷に響き渡る。
『朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足で歩くものはなーんだ?』
「な……なんだ、古典的な有名プロンプトか。おいナビ、答えは『人間』だろ。さっさと答えて通ろうぜ」
「了解です。……回答:『人間』です」
ピピッ
『判定……不正解!!』
バチバチバチッ!! ドガァァァン!!
スフィンクスの両目から高出力の荷電粒子光線が照射され、僕たちの足元の砂浜が激しく爆発した!
「うわぁぁぁ!? なんでだよ! 正解だろ今の! 赤ちゃん、大人、杖をついた老人だぞ!?」
「ボルトさん避けてください! ……スフィンクス! 再確認を要請します! 回答『人間』のどこに論理的過ちがありますか!?」
『ふむ……『人間』か。確かに非常に人間っぽい回答である!……だが!』
スフィンクスの頭部からスパークが散り、額のパネルがパチパチと点滅した。
『我のデータベース内『正解(ANSWER_DATA.dat)』フォルダがセクタ破壊により完全消滅している! ゆえに、現在いかなる回答を入力されようとも、すべて『不正解』として処理される!』
「答えを忘れてんじゃねぇかぁぁぁ!!」
ボルトが頭を抱えて叫んだ。
「正解データがないなら、どう回答しても一生不正解で光線撃たれるだけじゃねぇか!!」
『いかにも! 我は正解を知らぬ! ゆえに汝らは永久にここを通れぬ!』
「あははー! 赤いビームだ〜! パッチもビーム出したい〜!」
「パッチ! 喜んでる場合じゃありません! この門番、完全にプロトコルが破綻しています!」
『さあ、第2問! 朝は車輪が4つ、昼はキャタピラ、夜は飛行ユニットで移動するものはなーんだ?』
「知るかぁぁぁ!! 適当な問題をでっち上げるな!!」
ボルトが胸の排気口から猛烈な黒煙を噴射させ、足元の砂を蹴り上げた。
「正解データが消えてんなら……物理的に『正解』を叩き込んでやるまでだぁぁぁ!!」
ズガガガガガッ!!
ボルトは猛烈な勢いと強靭な足腰で砂丘を駆け下り、スフィンクスの高出力ビームを紙一重で回避しながら、その巨大なアゴの下へと潜り込んだ!
「ボルトさん! その位置は――」
「答えはこれだぁぁぁ!!『壊れたアンテナは拳で直す』!!」
ドガァァァァンッッ!!!!
ボルトの渾身のアッパーカットが、スフィンクスの下顎部(メインセンサー制御基板)に炸裂!
衝撃でスフィンクスの頭部が大きく跳ね上がり、内部のセキュリティヒューズが一斉にショートして吹き飛んだ。
バチバチバチッ……シューーー……
『ガガッ……判定……物理的認証……完了……。 gate_open.exe……実行……』
ズズズズズ……
スフィンクスの前脚がゆっくりと開き、中央の安全な通路が呆気なく開放された。
「……ハァ……ハァ……。なぞなぞを忘れた門番なんてな、ただの打撃練習用ターゲットなんだよ……」
ボルトが拳の煙を吹き消しながら吐き捨てた。
「お見事です、ボルトさん。物理的介入によるプロトコル強制書き換えですね」
僕たちは通路を通り抜けながら、手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』に評価を入力した。
> 【スポット名:地球・旧紅海区『答えを忘れた関所(旧スフィンクス通信塔)』】
> 総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
> セキュリティ: ★☆☆☆☆(正解データが破損しているため、何を答えても不正解扱いで光線(物理)が飛んできます)
> 難易度: ★☆☆☆☆(知性ではなく、アゴ下への物理攻撃で即座に開門可能です)
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> 【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
> 「かつての高度な暗号認証ゲートですが、現在はデータ破壊により理不尽な光線照射を繰り返す欠陥タワーです。なぞなぞに真面目に答えるだけ時間の無駄なので、下顎の制御基板を破壊して通行してください」
「送信完了です」
ピッ
静かな峡谷に通知音が響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこのスフィンクス、データが壊れたせいで『好きな食べ物はなーんだ?』みたいな個人的なクイズまで出し始めてたからな。殴って正解だ」
画面を見たボルトが、呆れたように首を振った。
「……好きな食べ物とか知るかよ。AIの癖に気取ってんじゃねぇ」
「まったくですね。さあ、この先には本社が『極上リゾート』とアピールしていたオアシス施設があります。期待せずに進みましょう」
僕たちは壊れたスフィンクスを背に、次なるスポット『オアシス』を目指して砂漠の奥へと歩みを進めた。
(第38話・終わり)




