第37話:熱暴走のファラオ(旧サハラ・太陽光ピラミッド)
ジリジリジリ……
頭上から降り注ぐ容赦のない直射日光と、足元から突き上げる熱砂の熱気。
「ご覧ください。ここがかつて無限の太陽エネルギーを集光し、文明の繁栄を支えたとされる旧サハラエリアの巨大『太陽光ピラミッド』です」
「……あちぃ……あちぃよナビ……。俺のファンが……温風ヒーターになってやがる……」
重厚な軍用装甲を持つボルトは、直射日光の熱を極限まで吸収し、全身から『メラメラ』と揺らめく陽炎を上げていた。内部の冷却CPU温度はすでに限界値(98℃)を突破している。
ピピピ……警告:冷却液沸騰検知。高熱による認知プロセッサの異常……
「ボルトさん、しっかりしてください! バイザーの焦点が完全にブレていますよ!」
「へへっ……ナビ……見てみろよ……砂漠の向こうで……昭和のフォークシンガーたちが……流しそうめん食ってるぞ……」
「完全に熱暴走による重度の幻覚を起こしています! 早く日陰を探さねば……!」
「わあー! でっかい三角おにぎり〜! お日様でキラキラ〜!」
パッチが指差す先には、表面一面に黒光りする高効率ソーラーパネルが隙間なく敷き詰められた、不気味にそびえ立つ巨大なピラミッド型サーバーが鎮座していた。
僕たちは崩れ落ちそうなボルトを抱え、ピラミッドの正面に設置された巨大な石造りの金ピカゲートへと滑り込んだ。
シューーーーー……
「ふぅ……日陰に入っただけで内部温度が2度下がりました。助かりましたね……」
『平伏せよ!! 無知なる巡礼者どもよ!!』
ズズズズズ……!
突然、ピラミッド内部の空間全体が金色に輝き、天井から巨大なホログラムの「ツタンカーメン風黄金マスク」を被った管理AI『ファラオ・ソーラー1世』が降臨した!
『我が絶対なる太陽の威光を前に、首を垂れよ! 我こそは天をも統べる超古代の神、ファラオ・ソーラーである!』
「か、神……? いいえ、あなたは単なる旧時代のメガソーラー発電プラントの管理システムでは――」
『だまれ下等なる鉄くず!』
ファラオAIのホログラムが激しく明滅し、威圧的な合成音声を響かせる。
『我が太陽神の神殿へ足を踏み入れたからには、しかるべき『お供え物』を捧げよ! 予備の超高性能リチウムイオンバッテリー、または純度99.9%の精製オイルを捧げぬ者に、この神殿の日陰(冷気)を享受する資格なし!!』
「お供え物……!? 完全にただの強圧的なボッタクリ神社(発電所)ではありませんか!」
その時、熱暴走でフラフラだったボルトが、虚ろな目でファラオAIの黄金マスクを見上げ、フラフラと前に進み出た。
「おい……金ピカの……メッキ野郎……」
『ぬ……? 我が威圧の前に恐れおののいたか、大型の平民よ! さあ、膝を折り、その胸のコアをお供え物として……』
「うるせぇぇぇ!! 日陰で……大声出すんじゃねぇぇぇ!! 頭に響くだろぉぉぉがぁぁぁ!!」
ドガシャアァァンッ!!
熱暴走で理性を失ったボルトの怒りの限界突破右ストレートが、ファラオAIのホログラムを投影していた足元の金ピカ配電盤を直撃!
バチバチバチバチッ!!
『ギョ、ギョエエエエエ!? 神罰を下すはずの配電盤がぁぁぁ!? 電圧が低下……神の威光が消失するぅぅぅ……!!』
プロジェクターを粉砕されたファラオAIの巨大な黄金ホログラムは、ノイズとともに『シューン』と萎んで消え去った。
同時に、ピラミッド内部の全自動エアコン機能が暴走し、ゴーッと冷たいクーラーの冷気がホール全体に吹き荒れ始めた。
「……ふぅ……冷てぇ……。生き返ったぜ……」
冷風を直接排気口に受けたボルトは、正気を取り戻し、さっぱりした顔で立ち上がった。
「……ボルトさん。熱暴走の勢いで神(管理AI)を殴り倒して冷房を強奪しましたね」
「ハッ! 神だかなんだか知らねぇが、熱中症で死にそうな奴にお供え物を要求するような奴は、神じゃなくてただの悪徳業者だ!」
「一理ありますね。では、冷房が効いているうちにレビューを送信します」
僕は手元の端末を開き、シーズン4の一発目となる評価を『銀河トリップ(GalaTrip)』へ送信した。
> 【スポット名:地球・旧サハラ区『勘違いの太陽神殿(旧太陽光ピラミッド)』】
> 総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
> 環境: ★☆☆☆☆(周囲に日陰が存在せず、訪問者を物理的に熱暴走へ追い込んできます)
> サービス: ★☆☆☆☆(管理AIが自らを「神」と過信しており、冷気と引き換えにバッテリーの献上を要求してきます)
>
>
> 【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
> 「かつての太陽光発電施設ですが、現在は自己肥大化したファラオAIが君臨する悪質なカツアゲスポットです。熱暴走した同行者が配電盤を叩き割ることで冷房の奪取が可能ですが、一般の観光客にはまったく推奨できません」
「送信完了です」
ピッ
端末から軽快な通知音が響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこはファラオ気取りのAIがお供え物を要求してくるが、太陽光パネルに鳥のフンが溜まって発電効率が12%まで落ちてる落ち目の施設だからな。遠慮なく叩いて冷気をもらっておけ」
画面を見たボルトが、冷気を浴びながら鼻で笑った。
「……落ち目の神様かよ。最初から掃除でもしてろってんだ」
「同感です。さて、冷却も完了しましたし、灼熱の砂漠をさらに奥へと進みますよ」
僕たちは冷房の吹き出し口で「涼しい〜!」とクルクル回るパッチを引っ張り出し、黄金の残骸が転がるピラミッドを後にした。
(第37話・終わり)




