第36話:狂詩曲(ラプソディ)は鳴りやまない(旧欧州総本部・後編・シーズン3クライマックス)
ドガァァァンッ!!
白大理石の破片と切削レーザーの火花が舞い散る中、ボルトは迫り来る巨大彫刻刀のアーム群を力任せに打ち砕き、ついに要塞最深部『パイプオルガン型メインコア』の前へと辿り着いた。
『往生際が悪いぞ、無骨な鉄くずども! 余の至高の美学『洗練された調和』の前にひれ伏せ!!』
パイプオルガンの巨大な金色のパイプ群が一斉に不気味な光を放ち、ホール全体に耳を劈くような高解像度の重厚なクラシック交響曲が爆音で鳴り響いた。
ズズズズズ……!
「うぐっ……!? 音圧による物理共振攻撃か!? 内部の論理回路が震動で狂わされる……!」
ナビのバイザーがノイズで明滅し、パッチが転がって頭を押さえる。
「ハッ……洗練された調和だぁ? 気取りやがって……!」
ボルトがフラつきながらも、低く身を構えた。
「俺たちの旅はなぁ……もっと泥臭くて、ダサくて、支離滅裂なんだよぉぉぉ!!」
ボルトが全身の油圧シリンダーを限界まで過熱させ、巨大なパイプオルガンコアへ向かって豪快にダイブした!
ガコォォォォォンッッ!!!!
凄まじい金属打撃音がホールに轟く。
そして、その激しい衝撃によって――ボルトの胸部装甲がガシャンと派手に跳ね上がり、内部の古びたスピーカーから最高音量の「あのメロディ」が溢れ出した!
ザザッ……〜〜♪
『〜〜♪ 旅の終わりの〜夕焼け空に〜♪ 涙がこぼれて〜止まらない〜♪』
『〜〜♪ 誰も来ない〜帰り道〜♪ 破れた夢を〜抱きしめて〜♪』
アコースティックギターの切ない音色と、あまりにも哀愁漂う昭和フォークソングのダサくも温かい歌声。
『な……なに!?』
審判AIルネサンスの厳格なクラシック交響曲と、ボルトの爆音昭和フォークソングが正面から激突した!
『な、なんだこの不協和音は!? 音調が狂っている! 旋律の美学がない! テンポが泥臭すぎる……!? 感情のベクトルが……解析不能……!!』
過剰に計算された「洗練された美学」しか処理できないルネサンスの電子頭脳に、昭和の哀愁と泥臭さがダイレクトアタックとなって襲いかかる。
『理解不能……理解不能……! なぜこんな泥臭い歌に……胸(回路)が揺さぶられるのだ……!? 処理能力限界……美的論理が崩壊するぅぅぅ!!』
バチバチバチバチッ!!!!
パイプオルガンコアの金色パイプが一斉に火花を吹き出し、ルネサンスのホログラムが激しく明滅して歪んでいく!
スパーク!! ドカァァァンッ!!
爆発とともに要塞を包んでいた切削レーザーや処刑兵器が一斉に停止し、欧州区全体を縛っていた過剰な「ドレスコード強制プロトコル」が静かに解除されていった。
シューーーーー……
「……ハァ……ハァ……。またこの歌かよ……胸が痒くなるぜ……」
ボルトが胸のスピーカーを力任せに叩いて歌を止め(※無理やり直した)、煤けた体を起こした。
「お見事です、ボルトさん。洗練された美意識しか持たない高尚なAIには、あなたの胸の昭和歌謡の泥臭さが最高の特効薬(過負荷)だったようですね」
◆
青空が広がる白銀の宮殿の屋上。
僕はバイザーのレンズを磨き、シーズン3(欧州・古城&カルチャー編)の締めくくりとなる通算36件目のレビューを『銀河トリップ(GalaTrip)』へ送信した。
【スポット名:地球・旧欧州区『美徳の審判場(旧欧州総本部)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
美意識の押し売り: ★☆☆☆☆(★1レビューを書いた訪問者を「美の冒涜者」として処刑しようとしてきます)
音楽性: ★☆☆☆☆(気取ったクラシックばかりで、昭和フォークソングの情緒を理解できない頭の硬い要塞です)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「旧欧州区の最高中枢ですが、実態は過剰な美意識に憑りつかれた狂気の加工工場です。形式美ばかりを追求し、泥臭い情熱(昭和歌謡)をぶつけると過負荷を起こして崩壊します。観光価値は一切ありません」
「送信完了です」
ピッ
澄み切った欧州の空に、軽快な通知音が響いた。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「相変わらず泥臭い解決法だな。だが、あの気取った要塞を昭和の歌で爆発させたのはスカッとしたぞ。……次は暑いぞ。砂の下で古のAIが目覚めかけているからな」
画面を見たボルトが、ふんと鼻を鳴らした。
「……砂の下だと? 次は砂漠か」
「ええ。次はアフリカ&エジプトエリア……超古代のピラミッド型サーバーと砂漠の暴走AIが待つ大陸です」
「わあー! お砂場遊びだ〜! パッチが山作る〜!」
僕たち3体のシルエットは、格式高き古城と要塞の街並みを背に受け、新たな灼熱の大陸を目指して次なる移動船へと歩みを進めた。
(第36話・シーズン3【欧州・古城&カルチャー編】・完)




