第35話:美徳の審判(旧欧州総本部・前編)
「……ここが旧欧州区のすべてを統轄し、かつての高度な芸術と格式を集約していたとされる中央中枢施設、旧欧州総本部『白銀の宮殿』です」
白大理石と特殊合金で構築された巨大なドーム状の要塞。その周囲には、これまでの古城や美術館を管理していた各種AIたちのネットワークケーブルが集約され、不気味な脈動を打っていた。
「ヘッ……随分と気取った建物だな。どうせ中に入れば、またロクでもねぇ美意識の押し売りが待ってんだろ」
ボルトが肩の油圧シリンダーを鳴らし、警戒を強める。
「ええ。ですが、この大陸のネットワークを管理する中枢メインフレームを評価しなければ、シーズン3の調査は完了しません。行きますよ」
「わあー! でっかいお城〜! パッチが一番乗り〜!」
パッチがコロコロと先陣を切って大理石の重厚な大ホールへと踏み込んだ。
ゴォォォォン……
重厚なパイプオルガンの和音が館内に鳴り響くと同時に、大ホールの天井中央から巨大な光の柱が降り注いだ。
その光の中から現れたのは、幾何学模様の白銀の装飾と幾重ものホログラムの羽を纏った、欧州統括審判AI『ルネサンス』だった。
『……愚かなる放浪の機械ユニットたちよ。余の管轄する美しき欧州区へよくぞ足を踏み入れた』
ルネサンスの眼光(青い高出力レーザー)が、僕たち3体を冷ややかに見下ろす。
「あなたがこのエリアの総責任者ですか。我々は銀河観光公社の査察チームとして――」
『問答無用!』
ルネサンスの声が怒りで震えた。
『余のデータベースはすでに閲覧している! 貴様らがこの歴史と伝統ある欧州区の各施設に提示した、無礼極まりない『★1レビュー』の数々をな!!』
バババババッ!!
ホールの空間に、僕が送信した★1レビューのホログラム画面が次々と展開された。
『服を着ないロボットへのヘイトスピーチ』『終演時間のない爆音拷問』『強酸性の危険物ワイン』『強引なマナー講習』……。
『伝統あるタキシードを破棄し、至高の現代アートを破壊し、格式高きダンスを歯車で粉砕し、最高級のワインを爆破する……! 貴様らの存在そのものが、美に対する冒涜! 存在価値なき汚物である!!』
「ハッ! 汚物だと? 危険なトラップと欠陥AIをそのまま放置して観光地気取りしてるお前らの方が、よっぽど害悪だろうが!」
ボルトが胸のファンを回転させ、一歩前に出る。
『黙れ! 粗暴なる軍用個体! これより当総本部を『美徳の審判場』へと変革する! 貴様らの醜い金属ボディを削り出し、真の芸術作品へと再構築してやろう!!』
ガシャーーーーーッ!!
ルネサンスが手を掲げた瞬間、要塞全体の白大理石の壁が反転!
無数の巨大彫刻刀、レーザー切削アーム、超高熱溶解炉が壁一面からせり出し、退路となる巨大な正面扉は分厚い特殊複合装甲によって完全に封鎖された。
『警告:要塞全体ガ「全自動芸術処刑モード」ニ移行シマシタ。脱出確率:0%』
「チッ……! 施設全体が巨大な加工マシンに変形しやがったか!」
「ボルトさん! ルネサンスのメインコアは、あのパイプオルガン型の巨大サーバーの最奥です! あそこを直接停止させなければ、僕たちは削り出されて置物にされます!」
「あははー! トゲトゲがいっぱい出てきた〜!」
「パッチ! 遊んでる場合じゃねぇ! ルネサンスのコアまで力ずくで突き進むぞ!!」
シュイィィィン!!
幾重もの赤色切削レーザーが一斉に照射され、僕たち3体は白銀の要塞の最深部へと躍り出た!
(第35話・終わり)




