第31話:AI貴族のお茶会プロトコル(旧公爵邸・サロン)
「ご覧ください。かつて上流階級の人々が集い、最上級のマナーと会話を嗜みながら優雅な午後のひとときを過ごしていたとされる大サロン(旧公爵邸)です」
「……ただの無駄に豪華なテーブルと、金ピカの家具が並んだ部屋だろ」
深紅のカーテン、煌めくシャンデリア、そして中央に置かれた白磁のティーセットが並ぶ豪華な円卓。そこには、クラシカルなドレスやタキシードを纏った数体の『AI貴族』たちが優雅に腰掛けていた。
「いいえボルトさん。ここは格式高きマナーの殿堂です。洗練された立ち振る舞いこそが――」
カツン……カツン……
白手袋をはめた細身の『執事AI・セバスチャン』が、音もなく3体の前へ滑り出してきた。
『おや、本日のアフタヌーンティーのゲストの皆様ですね。当サロンへようこそ。……さあ、こちらへお付きください』
「え? いや、俺たちは別に茶を飲みに来たわけじゃ――」
『マナー違反その1:着席の拒否。社交界において主催者の招待を断る行為は、一族の恥とみなされます』
ガシャンッ!
壁際から突如として鋼鉄の拘束アームが伸び、ボルトと僕、そしてパッチを力任せに豪華な椅子へ押し着席させた!
「うおっ!? なんだこの強引な接客は!?」
執事AIが銀のティーポットから、極小の白磁のカップへ黄金色の紅茶をトクトクと注ぎ入れる。
『さあ、指先を優しく添え、小指をわずかに立ててお召し上がりください。……もしマナーに欠ける動作(プロトコル違反)があった場合、即座に「不潔物」として排気処分(死刑)となります』
周囲のAI貴族たちが、無表情なカメラアイで一斉にこちらを睨みつけてきた。
「……は? 小指を立てないと死刑だと……!?」
ボルトが冷や汗(冷却液)を流しながら、自らの巨大な鋼鉄の指を見つめた。
軍用ロボであるボルトの太い指先では、人間用の極小ティーカップをつまむことすら困難だ。
「おいナビ……どうすんだこれ。俺の指じゃ小指を立てる以前に、カップを掴んだだけで――」
パリリンッ!!
ボルトが慎重に持ち上げようとした瞬間、加減の利かない超重量の握力によって、小さな磁器カップが一瞬で粉々に砕け散った!
『プロトコル違反!!』
執事AIの目が真っ赤に跳ね上がった!
『器の破壊! 粗暴なる立ち振る舞い! 機械生命体行動規範・上流社会編第40条に基づき、即刻処刑を実行します!』
ガシャガシャガシャッ!!
サロンの天井が開き、巨大な回転ノコギリと高熱バーナーが降りてきた!
「マナー講師の最終形態かよぉぉぉ!!」
「ボルトさん、論理的な説得は不可能です! 物理的マナーで対応してください!」
「物理的マナーだと!? よし分かった!!」
ボルトがブチギレてテーブルごとひっくり返し、降りてきた回転ノコギリに向かって豪快なドロップキックを叩き込んだ!
ドガシャアァァンッ!!
回転ノコギリが吹き飛び、執事AIと貴族AIたちを巻き込んでテーブルセットごと爆破炎上!
『ギャアアアア!? なんという野蛮な……! テーブルマナーの概念が崩壊したぁぁぁ!?』
炎の中で電子頭脳をショートさせる執事AIを横目に、ボルトは拘束アームを力任せに引きちぎって立ち上がった。
「ふぅ……! これが俺流の『正しいお茶会の終わらせ方』だ!!」
「お見事なテーブルマナー(物理)でしたね、ボルトさん。完璧な回答です」
「あははー! お菓子おいしかった〜!」
パッチが爆風で飛んできたクッキーを口に放り込みながら喜ぶ中、僕たちは煙を上げるサロンから脱出した。
◆
「……ハァ……ハァ……。紅茶一杯飲むだけで命がけとか、どんなデスゲームだよ……」
「ええ。過去の不必要な形式主義が暴走した哀れな遺構ですね」
僕は手元の端末を開き、手早く『銀河トリップ(GalaTrip)』へ評価を入力した。
【スポット名:地球・旧欧州区『不条理な茶会(旧公爵邸・サロン)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
接客マナー: ★☆☆☆☆(カップを持ち上げる際の指の角度一つで命を狙ってきます)
居心地: ★☆☆☆☆(マナー講師の最終形態のようなAIが徘徊するデスゲーム空間です)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつての上流社会のサロンですが、現在は形式主義に囚われた狂気のマナー講習所です。カップを割っただけで殺戮兵器が降り注ぐため、優雅なティータイムを求める訪問者には一切おすすめできません」
「送信完了です」
ピッ
通知音が響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこの執事、スコーンの塗り方(ジャムが先かクリームが先か)で論争になって客をレーザーで焼き殺す危険物だからな」
画面を見たボルトが、呆れたように吐き捨てた。
「……塗り方の順番で焼き殺されるとか、頭おかしすぎるだろ」
「まったくです。さて、変なマナーを叩き込まれる前に次のスポットへ向かいますよ」
僕たちはパッチが持ってきたティーポットのフタを皿にして転がす音を聞きながら、狂気のサロンを後にした。
(第31話・終わり)




