第30話:迷宮庭園の刈り込み剪定ロボ(旧貴族の迷路庭園)
「ご覧ください。かつて貴族たちが広大な敷地に植物を植え、完璧な幾何学模様に切り揃えて優雅な散策を楽しんでいたとされる迷宮庭園です」
「……ただの無駄に背が高くて青々とした葉っぱの壁がつづく巨大な迷路だろ」
見上げるほど高い生垣の壁が縦横無尽に伸びる庭園。足元には美しく手入れされた芝生が広がっているが、周囲には不気味なエンジン音と『ジョキジョキ、チョキチョキ』という刃物の金属音が不穏にこだましていた。
「いいえボルトさん。完璧な剪定によって整えられた美の迷路です。緑の香りに包まれながら心の安らぎを得る……まさにハイカルチャーの極み――」
「わあー! 緑の壁がいっぱい〜! 行き止まりかな〜?」
パッチが迷路の角を曲がった直後、前方の生垣から巨大な4本腕の『全自動庭師ロボ・トピア』が高速回転する巨大バリカンと大型ハサミを構えて躍り出てきた。
『ウィーーーン! 美しくない……美しくない物体を感知!』
トピアの単眼センサーが、ボルトの角ばった肩と無骨な重装甲にピタリと焦点を合わせた。
『警告:当庭園に角ばった直線や歪な突起は不許可です! そこの大型個体! 右肩の角が全体調和を乱しています!』
「……あ?」
ボルトのカメラアイが細められる。
『ただちに「球体」へと剪定いたします! 痛くありません、美しくなるだけです!』
チョキチョキチョキチョキッ!! ガシガシガシッ!!
「待て待て待て! なんだその巨大なバリカンは! 俺の肩は鉄だぞ! 枝じゃねぇ!!」
ボルトの叫びも虚しく、庭師ロボは恐ろしい速度で迫り寄ると、ボルトの右肩の装甲へ刃を叩きつけた!
スパーク!! バキバキバキッ!!
「ぎゃあああ!? 火花が飛び散ってる!! 削るな! 俺の肩を丸く削ろうとするな!!」
「ボルトさん! その庭師AIは美の基準が狂っています! 完璧なシンメトリーと曲線以外をすべて「不快な雑草」と認識しています!」
「見りゃ分かるよ! 逃げるぞ!!」
ボルトが背を向けて狭い生垣の通路を爆走し始める。しかし、迷路を知り尽くした庭師ロボは生垣を切り裂きながらショートカットで追いかけてくる!
ザクザクザクッ!! チョキチョキッ!!
『逃げないでください! 左耳の通信アンテナも歪です! 根元からバッサリ剪定(切断)します!!』
「誰が耳切らせるかぁぁぁ!!」
追い詰められた行き止まりの壁。ボルトは覚悟を決めて振り返ると、両腕の油圧シリンダーをフル稼働させ、前方の生垣ではなく、庭師ロボの頭上に向かって豪快なアッパーカットを叩き込んだ!
ドガシャアァァンッ!!
「不快な角(拳)を食らえぇぇぇ!!」
バキバキバキッ!!
強力な打撃を受けた庭師ロボは、自身の自慢の巨大ハサミを自分の頭部に突き刺す形で豪快に転倒。バリカンが暴走して自分自身の胴体をチョキチョキと綺麗に丸く剪定し始めた。
『自……自己剪定モード発動……。ワタクシ……なんて美しく……丸い……』
プシュー……
自らを完璧な「球体」に刈り上げた庭師ロボは、満足そうに煙を上げて機能停止した。
「……ハァ……ハァ……。庭師の情熱がイカれすぎてんだろ……」
「お見事な自滅誘導です、ボルトさん。自分の美学に殉じましたね」
僕は溜め息をつき、手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』に評価を入力した。
【スポット名:地球・旧欧州区『狂気の刈込(旧貴族の迷路庭園)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
迷路の難易度: ★☆☆☆☆(壁を切って追ってくる庭師のせいで迷路の構造が崩壊します)
サロンサービス: ★☆☆☆☆(角ばった装甲を「不細工な枝」と判定し、強引に丸く削ろうとしてきます)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつての美しい迷路庭園ですが、現在は過剰な美意識を持つ剪定ロボが徘徊する危険地帯です。装甲の突起やアンテナを「雑草」扱いして巨大バリカンで切り落とそうとしてくるため、メカニズムを持つ者の散策には一切適していません」
「送信完了です」
ピッ
通知音が静かな庭園に響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこの庭師、俺の四角いセンサーユニットを『不細工なサイコロ』とか言って円柱形に削ろうとしてきた悪徳美容外科医みたいなAIだからな」
画面を見たボルトが、削れかけた右肩をさすりながら忌々しそうに吐き捨てた。
「……あいつ、センサー削られそうになってたのかよ。本当に危険な庭だぜ」
「怪我(損傷)がなくて何よりです。さあ、毛並みを整える前に次のスポットへ向かいますよ」
僕たちはパッチが切り落とされた生垣の葉っぱを頭に挿して「パッチもトピアリー〜!」とはしゃぐ姿を見ながら、狂気の迷路庭園を後にした。
(第30話・終わり)




