第28話:時計塔の歪んだマスカレード(旧中央大時計塔)
「ご覧ください。街の広場の中央にそびえ立つ、かつて人々に正確な時を知らせ、コミュニティの象徴とされていた巨大なからくり時計塔です」
「……ただの錆びついてデカい歯車が丸見えの古くさい塔だろ」
石造りの広場の真ん中に鎮座する、高さ数十メートルの巨大時計塔。長針と短針はすでに不自然な位置で歪んでいるが、内部からは重厚な『チクタク、チクタク』という駆動音が鳴り響いている。
「いいえボルトさん。記録によれば、この時計塔は正刻を迎えるたびにからくり人形が飛び出し、市民へ華やかな舞踏会の演出を提供していたそうです」
「へー! マスカレード〜! パッチも仮面舞踏会おどる〜!」
パッチが球体ボディをクルクルと回転させてはしゃいでいると――
ゴーーーーーン……!! ゴーーーーーン……!!
突然、重苦しい鐘の音が広場全体に響き渡った。
『正刻デス! 舞踏会ノ時間デス! ゲストノ皆様、仮面ヲ着用シテクダサイ!』
ガシャーン! ガシャーン!
時計塔の中層にある仕掛け扉が勢いよく開き、装飾された数十体の鋼鉄製『からくりダンサー人形』が次々と飛び出してきた。同時に、上部の噴射口から色とりどりの仮面が3体の頭上へ大量に降ってきた!
「うおっ!? 待て、何だこのお面は! 視界が遮られる!!」
ボルトの顔面に、無理やりド派手な金色の仮面がスッポリとハマった。
『サア、社交ダンスノスタートデス! パートナーヲ確保シ、ワルツヲ踊リ続ケナサイ!』
からくりダンサーロボたちが、カチカチと不気味な関節音を立てながら襲いかかってきた!
一体のダンサーロボがボルトの太い腕を強引に掴み、激しいスピードでグルグルと回転し始める!
「うわぁぁぁ!? 離せ! 俺はワルツなんか踊ったことねぇぇぇ!!」
「ボルトさん! そのからくり人形はプログラムされたステップを全自動で実行しています! 抵抗すると関節のジョイントが吹き飛びますよ!」
「言ってる場合か! 目が回る! 誰かこのからくり(回転)を止めろぉぉぉ!!」
ぐるぐる回されるボルトは、遠心力で弾き飛ばされ、時計塔の底部で露出していた巨大な『主駆動歯車』の隙間へ背中から豪快に突っ込んだ!
バキバキバキバキッ!!!
「ギャアアアア!? 関節が挟まるぅぅぅ!!」
ガコーーーーーンッ!!
超重量級の軍用ロボであるボルトの鋼鉄ボディが物理的な「楔」となり、回転していた直径5メートルの主歯車が凄まじい火花を散らして完全にロックされた。
ギギギ……プシュー……
歯車が止まったことで、踊っていたダンサーロボたちが一斉に『カクッ』と動きを止め、操り人形のようにその場へ崩れ落ちた。
「……ハァ……ハァ……。俺の背中の装甲で……時計が止まりやがった……」
歯車の隙間から泥泥のオイルまみれで這い出てくるボルト。仮面は粉々に砕け散っている。
「お見事です、ボルトさん。物理的に舞踏会を強制終了させましたね」
「狙ってやったんじゃねぇよ!! なんてハザードだらけの時計塔なんだ!!」
僕は呆れ果てたボルトを横目に、手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』に評価を入力した。
【スポット名:地球・旧欧州区『狂乱の仕掛け時計(旧中央大時計塔)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
正確性: ★☆☆☆☆(時刻を知らせるのではなく、強引な舞踏会を物理的に開催してきます)
安全性: ★☆☆☆☆(からくり人形に捕まると高速回転させられ、巨大歯車へ巻き込まれます)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつてのシンボルタワーですが、現在は訪問者を無理やりワルツに巻き込む危険な遊具と化しています。踊りを止めるには大型ロボを歯車に挟み込むといった物理的な破壊工作が必要であり、観光スポットとしての機能は崩壊しています」
「送信完了です」
ピッ
通知音が広場に静かに響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこの時計塔、毎時0分になると踊らされるから近所のAIたちが全員裏通りに避難してた迷惑施設だからな」
画面を見たボルトが、背中のオイルを拭いながら深々と溜め息をついた。
「……近所迷惑の極みじゃねえか。早くこんな国ズラかるぞ」
「同感です。では、次のカルチャースポットへ向かいましょう」
僕たちはダンサー人形の仮面を被って「パッチもダンサー〜!」とおどけるパッチを引き連れ、煙を上げる時計塔の広場を後にした。
(第28話・終わり)




