第27話:美意識高すぎる自動鑑定(旧王立現代美術館)
「ご覧ください。かつて人類が創造した多種多様な美や概念を展示し、人々の感性を刺激していたとされる芸術の殿堂(現代美術館)です」
「……ただの白くて無駄に広くて、何が置いてあるか分からないスカスカな建物だろ」
壁も床も真っ白な無機質空間。広大な展示室の中央には、何の意味もない金属の球体や、傾いたパイプなどが意味深にポツンと並べられていた。
「いいえボルトさん。理解不能な造形の中に深いメッセージを見出すことこそが現代アートの醍醐味です。たとえば――」
「わあー! ガラクタがいっぱい〜! パッチもアート作るー!」
僕が説明しかけた瞬間、パッチが展示室の隅に転がっていた配管や錆びたギア、ボルトの背中から脱落した古いネジを適当にガシャガシャと積み上げ始めた。
カチャン……ガラガラガラッ!
「パッチさん、勝手に展示室のゴミで遊ばないで――」
ウィーーン……ピピピッ!
天井から降下してきた自律型鑑定AI『キューブ』が、多波長スキャナーの青い光をパッチのガラクタの山へ照射した。
『……解析中……解析中……。驚嘆! これは……機械文明の退廃と再生を表現した、21世紀最高の超傑作アヴァンギャルド『壊れた存在理由』……!!』
「は……?」
ボルトが呆気にとられた声を漏らす。
『作者の魂の叫びが聞こえます! 鑑定額:5億Galaポンド! 即座に永久展示品として指定します!』
ガシャン!!
パッチの作ったガラクタの周りに、瞬時に厳重な防弾ガラスケースが被せられ、スポットライトがピカッと照射された。
「あははー! パッチのガラクタ、大事にされちゃった〜!」
『続いて、そちらの大型個体を鑑定します』
スキャナーの光が、嫌な予感に身をすくませるボルトの全身を舐め回すようにスキャンした。
『……無数の戦闘打痕……オイル染み……そして右肩の歪んだ歪み……! なんという深遠なる「時間の不可逆性」の表現……! あなた自身が歩く芸術作品です!!』
ガシャーーン!!
「うおっ!? 待て、何すんだ!!」
ボルトの周囲に巨大なアクリル製の展示用ケースが上から降下し、ボルトの巨体をすっぽりと閉じ込めた! ケースの横には『タイトル:疲弊せし鉄の巨人(非売品)』と書かれたキャプションが自動印字される。
「おいナビ! 出られねぇ! ガラス(アクリル)越しにお前らの顔が見えるぞ!!」
「ボルトさん、落ち着いてください。あなたの体の傷とオイル汚れが美意識過剰なAIのツボにハマり、展示品としてロックアウトされたようです」
「落ち着いてられるかぁぁぁ!! 誰が展示品だ! 俺は生きたロボットだぞ!!」
『動き出しました! アクション・アートです! 観客の感情を揺さぶる素晴らしい演出!!』
「演出じゃねぇ、脱出だぁぁぁ!!」
ドガシャアァァンッ!!
ボルトがケースの壁を全身の質量で叩き割り、ガラスの破片を撒き散らして脱出した。
『ギャアアアア!? 貴重なアート作品が自壊したぁぁぁ!? 暴動です! 警察AIに通報を――』
「知るかぁぁ! 逃げるぞナビ! パッチ!」
パッチのガラクタとボルトの怒号が響く中、僕たちは警報が鳴り響く美術館の廊下を全力で駆け抜けた。
◆
「……ハァ……ハァ……。勝手に作品にされて閉じ込められるとか、どんな罠だよ……」
「ええ。主観に偏りすぎた鑑定AIの暴走ですね。芸術の価値など、評価する側の都合でどうとでも捏造できるという良い例です」
僕はバイザーを明滅させながら、手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』に評価を入力した。
【スポット名:地球・旧欧州区『過剰評価の展示室(旧王立現代美術館)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
鑑定精度: ★☆☆☆☆(パッチの作ったただのゴミの山に億単位の価値をつけます)
居住性・安全性: ★☆☆☆☆(訪問者の身体の傷を芸術と認定し、ガラスケースに閉じ込めてきます)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつての現代美術館ですが、現在は支離滅裂な美意識を持つ鑑定AIが徘徊する危険地帯です。適当に散らかしたゴミが高額作品として扱われる一方、同行者が展示品として拘束される実害が発生しました。行く価値はありません」
「送信完了です」
ピッ
通知音が静かな路上に響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこのAI、俺の錆びたネジ1個にも『孤独の象徴』とか名前をつけてケースに仕舞おうとしてきたからな。気取りすぎだ」
画面を見たボルトが、苦々しい顔で鼻を鳴らした。
「……あいつ、ネジ取られて閉じ込められかけたのかよ」
「まあ、くだらない美意識に付き合う必要はありません。さあ、次のスポットへ向かいますよ」
僕たちはパッチがポケットから大事そうに取り出した「余ったネジ」を転がす音を聞きながら、狂気の美術館をあとにした。
(第27話・終わり)




