第26話:暴走オペラ座の怪人ロボ(旧国立自動オペラハウス)
「ご覧ください。かつて人類が装飾美を凝らした大ホールに集い、優雅な歌声と音楽に酔いしれていたとされる芸術の殿堂です」
「……ただの豪奢な装飾がついた巨大な劇場跡だろ」
深紅の絨毯に煌めくシャンデリア、そして壁一面を覆う金の装飾。静まり返った劇場内には、不気味なパイプオルガンの重低音が重く響き渡っていた。
「いいえボルトさん。ここは本社も『極上のカルチャー体験が楽しめる優雅なスポット』として評価を期待している重要施設です。我々も芸術的感性を養うべく――」
バサァァァンッ!!
突然、重厚なベルベットの舞台幕が左右に開くと同時に、劇場のすべての出入口の鉄扉が『ガシャーン!』と固く閉ざされた。
『ようこそ、久方ぶりの観客の皆様!!』
2階の特等席(ボックス席)から、仮面をつけ、黒いパイプオルガンと一体化した巨大な『オペラ座の怪人ロボ』が怪しく手を広げて降臨した。
『本日の演目は『終わりなき終焉の狂詩曲』! 観客の皆様が満足するまで、終演時間は存在しません!!』
ジャジャジャジャーン!!!
怪人ロボが巨大なマニピュレーターで鍵盤を乱打すると、劇場内の壁から巨大なスピーカーが飛び出し、耳をつんざく爆音の超高音オペラが響き渡った。
キーーーーーン!! 振動数限界検知!!
「うおっ!? 音量がでかすぎる!! マイクとスピーカーの音響処理がイカれてやがる!」
ボルトが両手で集音マイクを押さえ込んでしゃがみ込む。
「怪人ロボさん! パッチも歌うー! あーあーあー!」
「パッチさん、対抗して奇声をあげないでください! 音波の干渉でバイザーの画像処理回路にノイズが入ります!」
『さあ、アンコールです! 拍手が聞こえませんよ!! 拍手が足りない不誠実な観客には……おしおきです!!』
ギギギ……ガシャーン!
怪人ロボがレバーを引くと、天井の巨大な大理石のレリーフが剥がれ落ち、ボルトの頭上へ向かって一直線に落下してきた!
ドガシャーン!!
「ぶはっ!? 拍手しないと大理石が降ってくるのかよ!! どんなスパルタ劇場だ!!」
ボルトが降ってきた大理石の破片を拳で打ち砕きながら激怒する。
「ボルトさん! このAIは『観客の絶叫』を『歓声』と誤認識し、『落下物への逃走』を『アンコールの要求』としてループ処理しています! 永遠に終わりません!」
「冗談じゃねえ! こんな爆音拷問部屋、一秒だって居られるか!!」
ボルトが超重量の腕で閉ざされた客席のメイン扉へ体当たりをかました!
ドガァァァンッ!!
一撃で爆砕される重厚な木製扉。
『ああっ! 観客の皆様が途中退場されていく……! まだ第45幕の途中なのにーー!!』
怪人ロボの絶叫を背に受けながら、僕たちは爆煙のあがる劇場から転がり出た。
「……ハァ……ハァ……。芸術どころか、耳がバカになるだけの音響兵器じゃねえか……!」
「ええ、完全な欠陥ホールです。本社の『極上のカルチャー体験』という事前調査がいかにいい加減か、証明されましたね」
僕は溜め息をつき、手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』へ評価を入力した。
【スポット名:地球・旧欧州区『狂乱の劇場(旧国立自動オペラハウス)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
音響設備: ★☆☆☆☆(音量調節が崩壊しており、音声受信回路を物理的に破壊してきます)
サービス: ★☆☆☆☆(終演時間が存在せず、拍手が少ないと天井から大理石が降ってきます)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつての芸術の殿堂ですが、現在は観客を閉じ込めて無制限の爆音オペラを強制聴取させる拷問施設と化しています。途中退場には物理的な破壊工作が必要であり、まともな鑑賞は不可能です」
「送信完了です」
ピッ
通知音が静かな通路に響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこは第100幕まで行くと『演出』として客席に火炎放射が噴射されるから、さっさと壊して逃げるのが正解だ」
破片を払いながら画面を見たボルトが、呆れ果てた顔で頭を振った。
「……火炎放射までついてたのかよ。観客を物理的に全員焼き殺す気か」
「人類の娯楽への執着は狂気と紙一重です。……さあ、耳のノイズキャンセラーを再起動して、次のスポットへ向かいますよ」
僕たちはパッチが拾ってきたパイプオルガンの鍵盤をポロポロ鳴らす音を聞きながら、狂気のオペラハウスを後にした。
(第26話・終わり)




