第20話:地下からのSOS(核シェルター)
「緊急事態です。バイザーの広域受信モジュールが、地下深くから送信されている高出力のSOS信号をキャッチしました」
「SOS……!? おいおい、まさか生存者(人間)でも閉じ込められてんのか!?」
乾燥した荒野の真ん中に、ぽつんとたたずむ分厚い鋼鉄のハッチ。表面には黄色の放射性物質標識が擦れかけた状態で残されていた。
「位置はこの下……かつて人類が最終戦争や天変地異から身を守るために建造した最深部要塞(核シェルター)です。数百年越しに救助を求めている生存者がいる可能性があります。急ぎましょう!」
「よし、任せろ!」
ボルトが重厚な腕をハッチの隙間にねじ込み、油圧シリンダーを限界まで叫ばせて強引にこじ開けた。
ギギギギ……ガシャーン!!
「SOSー! パッチが助けに来たよ〜!」
急な階段を駆け下り、重圧な防音扉を幾重にも突破した先にあったのは、不気味な赤色灯が点滅する指令室だった。
部屋の中央、古びたメインコンソールの上で、一つのスピーカーが『ピー……ピー……』と寂しい電子音を響かせている。
「そこか! おい、大丈夫か!? 今助けてやるぞ!」
ボルトがコンソールに駆け寄ると、スピーカーから合成音声が流れ出した。
『ヘルプ……ヘルプ……。タダチニ……ホキュウヲ……』
「やはり生存者……ではなく、自動管理AIの残骸ですね」
ナビがバイザーの光を落とし、端末を接続してログを解析する。
「AIさん、何が足りないの〜? お水? 電池〜?」
『ホキュウ……プロトコル……。タダチニ……“トウモロコシ”……並びに……“塩”ヲ……補給セヨ……』
「……は?」
ボルトが耳(集音マイク)を疑った。
『シェルター内……エンタメコンテンツ……“ポップコーン自動調理機”ノ……原材料ガ……枯渇……。サバイバーノ……映画鑑賞ニ……支障ガ……出テイマス……』
「……ポップコーンの種切れのSOSかよぉぉぉ!!」
ボルトの叫びが防音シェルター内に虚しくこだました。
何百年の間、最終戦争の恐怖ではなく「映画を見る際のお供が足りない」という理由だけでSOS信号を荒野へ垂れ流し続けていたのだ。
「期待して損をしました。人類の危機対応優先順位には心底呆れ返りますね」
僕は冷ややかに息をつくと、手元の端末を開き、手早く『銀河トリップ(GalaTrip)』へ評価を入力した。
【スポット名:地球・旧北米区『偽りのSOS(地下核シェルター)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
緊急性: ★☆☆☆☆(SOSの内容が「ポップコーンの在庫切れ」という愚の骨頂です)
シェルター機能: ★☆☆☆☆(命を守る以前に、娯楽AIの我が儘で救助リソースを無駄遣いさせられます)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「生存者のSOS信号を受信して突入しましたが、実態はポップコーンの種と塩を求める自動調理器の哀れな叫びでした。極限状態における人類の精神的脆弱性と、AIの無駄なこだわりを提示するだけのくだらない遺構です。立ち寄る価値はありません」
「送信完了です」
ピッ
通知音が地下室に響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこのシェルター、映画のラインナップも古すぎて飽きるんだよな」
画面を見たボルトが、頭を抱えて地べたに座り込んだ。
「……あいつ、ここで映画見てポップコーン食ってたろ絶対……」
「知りませんし、興味もありません。さあ、無駄な脱出訓練は終わりです。地上へ戻りますよ」
僕たちは呆れ果てたボルトと、コンソールのボタンを適当に押して『バター醤油味』の音声を連発させて遊ぶパッチを引き連れ、分厚いハッチを後にして地上へと引き返した。
(第20話・終わり)




