第19話:鉄くずたちの爆走レース(モンスタートラック場)
「ご覧ください。かつて人類が巨大な車輪を取り付けた車両に乗り込み、車同士をぶつけ合って破壊の狂宴を楽しんでいたとされる競技場(モンスタートラック場)です」
「……ただのボロボロになったサーキットと鉄くずの山だろ」
傾いたスタンド席と、押し潰された乗用車の残骸が積み重なる広大なダートコース。その中央に、ボルトの全高をも凌ぐ巨大なタイヤを穿いた一台の『モンスタートラック』が鎮座していた。
「いいえボルトさん。記録によると、当時の人類は巨大な馬力の咆哮に狂喜乱舞し、理性を投げ捨てて暴走していたそうです。野生の闘争心を呼び覚ます過激な娯楽の跡地ですよ」
「へー! でっかいタイヤ〜! パッチ、これ動かしてみたい〜!」
「パッチさん、勝手に乗り込んでは――」
パッチが球体ボディを器用に回転させながらトラックのボンネット内部へ飛び込んだ。
直後、エンジンルームから『バチバチバチッ!』と凄まじいスパークと不穏な改造音が聞こえてくる。
「パッチさん!? 何をしているのですか!?」
「回路をつないで、V8エンジンを超高出力モードに改造したよ〜! 出発進行〜!」
ブォォォォォン!!! ドゴォォォォン!!!
爆煙とともに、 V8超大型エンジンが雄叫びを上げた。排気管からど派手な炎が噴き出す!
「うわぁぁっ!? マジでかかりやがった!?」
「あははー! ボルト、運転手さんやって〜!」
パッチが爆走モードに入ったトラックの運転席ドアを跳ね上げ、近くにいたボルトの巨体を力任せ(?)に運転席へ押し込んだ!
ガチャンッ! ブォォォォォン!!
「うおっ!? 狭ぇ! 俺の体が大きすぎてハンドルが腹に食い込むぅぅ!!」
「ターゲット補正:サーキット周回モード開始!」
暴走エンジンが唸りを上げ、巨大なタイヤが泥を撒き散らしながら爆発的な加速を見せる。モンスタートラックは積み上がった廃車の山を豪快に踏みつぶしながらコースへ飛び出した!
ドガシャーン!! バキバキッ!!
「ギャアアアア!? 前が見えねぇ! 止まれ! 止まれぇぇぇ!!」
ボルトが狭い運転席で必死にブレーキを踏むが、パッチの不法改造によりブレーキ系統は完全に切り離されていた。
「わあー! 車を踏んづけるのたのしいー!」
「パッチさん、ボルトさん! 進行方向に巨大なジャンプ台があります!」
「嘘だろぉぉぉぉぉ!!」
ドゴォォォン!!
モンスタートラックはジャンプ台を蹴って大空へ飛び出した。
宙を舞う巨大な鉄の塊。夕日を背に受けて放たれたその姿は、一瞬だけ神聖な光景に見えたが――次の瞬間、コース外の砂利山へ垂直に突っ込んだ。
ドガシャシャーン!!!
沈黙するサーキット。ひっくり返ったトラックのドアが吹き飛び、中から潰れた缶詰のようになったボルトが泥まみれで這い出てきた。
「……ハァ……ハァ……。二度と……二度と車になんか乗るか……!」
「お見事な着地でした、ボルトさん。アトラクションとしてのスリルだけは評価できます」
僕は溜め息をつき、ひっくり返ったタイヤの上で満足そうに転がるパッチを横目に、手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』にレビューを入力した。
【スポット名:地球・旧北米区『狂気の鉄くずレース(モンスタートラック場)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
安全性: ★☆☆☆☆(ブレーキが機能せず、搭乗者は物理的に車両と一体化させられます)
乗車スピード: ★☆☆☆☆(無駄な過剰火力により、問答無用で空へ打ち上げられます)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつて人類が破壊を楽しんだとされるサーキット跡です。残された車両は改造次第で動作しますが、制御不能の暴走兵器と化すため非常に危険です。大型ロボが無理やり運転席に詰め込まれ、宙を舞った挙句に泥へ突っ込みました。訪問は一切推奨しません」
「送信完了です」
ピッ
端末から通知音が響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。観客席に座っていただけなのに、跳ね上がった廃車のバンパーが飛んできて大怪我をした最低の体験しかない」
泥だらけのボルトが、死んだような目で画面を覗き込んだ。
「……観客席も危険ゾーンじゃねえか。どんな欠陥競技場なんだよ」
「人類の娯楽はいつだって命がけです。……さてボルトさん、泥を落としながら次の目的地へ向かいましょう」
僕たちは関節がきしむボルトと、トラックの部品を誇らしげに掲げるパッチを引き連れ、煙を上げるサーキット跡地をあとにした。
(第19話・終わり)




