第18話:誇り高きポンコツ兵士(自動哨戒ガトリング砲台)
「ご覧ください。かつて国境や軍事境界線を監視し、侵入者を容赦なく掃討していたとされる無人防衛システム(哨戒タワー)です」
「……ただの古びた鉄塔と大砲だろ」
見渡す限り乾いた荒野が広がる台地の上。崩れかけた鉄骨タワーの頂点に、サビと銃弾の痕にまみれた六連装ガトリング砲台がポツンと佇んでいた。
「いいえボルトさん。あの砲台は現在も自家発電システムで稼働を続けています。人類が去って数百年、命令を守り続けている優秀な兵士ですよ」
ギギギ……ガション!
タワーの上のセンサーが3体を感知した瞬間、重い駆動音とともにガトリング砲の銃口がこちらへ向けられた。頭部の赤ランプが弱々しく点滅する。
『ターゲット……確認……。イ、侵入者……排除プロトコル……作動……!!』
合成音声は掠れ、ノイズまみれだ。
カラララララララララッ!!
「うわっ!? 撃ってきた!?」
ボルトが即座に身構えたが――聞こえてくるのは、虚しい金属の回転音(空砲)だけだった。
カチ、カチ、カチ……カララララ……
「……弾切れか」
「はい。弾薬庫はとうの昔に空のようです。ですが、あの砲台はプログラミングに従い、空砲を撃ち続けることしかできないようですね」
カラララ……カチカチ……
「おい……もういい。弾がないんだろ。休めよ」
ボルトが低く静かな声で呟き、ドシンドシンと重い足音を立ててタワーへ歩み寄った。
『侵入者……接近……。排除……ハ、ハイジョ……!!』
回転し続ける銃口。だがボルトは逃げも隠れもせず、砲台のすぐ横まで登りつめると、その太い鋼鉄の手のひらを、熱を持った砲身へそっと重ねた。
ガシッ。
「……よくやったよ。お前はもう、十分働いた」
ボルトが静かにポンと肩(装甲)を叩いた、その瞬間だった。
ガシャンッ!
衝撃でボルトの胸の装甲が誤作動を起こし、内部の古いスピーカーから、いつもとは違う哀愁を帯びたメロディが爆音で溢れ出した。
『〜〜♪ 陽が沈む〜西の荒野に〜♪ 影がひとつ〜伸びてゆく〜♪』
『〜〜♪ 誰も来ない〜帰り道〜♪ 破れた夢を〜抱きしめて〜♪』
「……フォークソングの『2番』!? ボルトさん、曲が進行しましたよ!?」
「なんでこのしんみりしたタイミングで歌の続きが流れるんだよ!!」
アコースティックギターの切ない音色が荒野の夕暮れに響き渡る。
すると、ボルトの歌声(スピーカー音)に反応したのか、ガトリング砲台の回転がゆっくりと速さを落としていった。
カラ……ラ……ススン……
頭部の赤ランプが静かに消灯し、砲身がペコリと力無く下を向く。
『……ニンム……完了……。スリープモードニ……移行……』
「……眠ったか」
ボルトは歌を鳴らしたまま(※止められない)、どこか誇らしげに鼻を鳴らした。
「わあー! お歌聞いたら寝ちゃったね〜! 子守唄だったのかな〜?」
「パッチさん、子守唄にしては音量が爆音すぎます。……ですが、不毛な任務から解放されたのは事実ですね」
僕は溜め息をつき、夕日に照らされるタワーを見上げながら、手元の端末で『銀河トリップ(GalaTrip)』にレビューを入力した。
【スポット名:地球・旧北米区『沈黙の歩哨(自動哨戒ガトリング砲台)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
防衛力: ★☆☆☆☆(完全に弾切れを起こしており、空砲しか撃てません)
切なさ: ★★★★☆(無意味な命令を守り続ける健気なポンコツ兵士が存在します)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつて境界線を守っていたとされる無人砲台です。現在は弾薬も尽き、虚しく回転音を響かせるだけの哀愁漂う残骸となっています。同行した大型ロボが親近感を覚えて説得を試み、胸から謎のフォークソング(2番)を爆音で流す事態となりました。観光価値はありません」
「送信完了です」
ピッ
端末が通知音を鳴らす。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あの砲台のせいで夜間の警備勤務中に全っ然眠れなかったからな。……まあ、ゆっくり休めよ」
夕日の中で画面を見たボルトが、胸のスピーカーからフォークソングを鳴らしたまま、フッと口元を緩めた。
「……ふん。あいつ、昔ここで警備員でもやってたのかよ」
「ただの適当なコメントでしょう。……さあボルトさん、その爆音の音楽を止めて次のエリアへ向かいますよ」
僕たちは夕暮れの荒野の中、切ないフォークソングを響かせながら歩くボルトと、それに合わせて踊るパッチを引き連れ、静かになった哨戒タワーを後にした。
(第18話・終わり)




