第2話:期限切れの宝箱(スーパーマーケット)
「ご覧ください。かつて人類が食料を巡り、血で血を洗う争いを繰り広げた合戦場です」
「……ただのスーパーマーケットだろ」
自動ドアが外れ、薄暗い廃墟と化した巨大ショッピングモール。
その一角にある店舗の入口で、ナビがホログラムの資料を広げながら淡々と講釈を垂れていた。
店内には整然と棚が並んでいるが、そこに並ぶ商品はことごとく化石化しているか、ドロドロの謎の物体に変かし、埃を被っている。
「いいえ、ボルトさん。記録によると、特に夕刻の『ハンガク・シール』という聖痕が貼られた瞬間、このエリアは阿修羅の如き争奪戦の舞台と化したそうです。死傷者こそ出ないものの、精神的な流血沙汰だったとのこと」
「バカじゃねえの人間……。そんなことより、俺たちが使えるオイルとかバッテリーはあるのか?」
ボルトが大きな体を揺らし、平らで丁度いい高さにある『レジカウンター』の上にどっかりと横たわった。ガラガラと金属音が響き、ベルトコンベアの跡が情けない音を立てる。
「ありません。商品ラインナップの100%が有機物、あるいは充電不可の物体です。僕たちにとってここは、ただの『巨大なゴミ箱』ですね」
「えー! ゴミ箱なの〜? じゃあ何かお宝落ちてないかな〜!」
球体ロボのパッチが、パカパカと球体の装甲を開閉させながら店内の奥へ転がっていく。
棚をなぎ倒し、化石化したシリアル箱を撒き散らしながらガサゴソと漁る姿は、完全に無邪気な害獣だった。
「パッチさん、あまり散らかさないでください。……まあ、片付ける人間ももういませんが」
「あ! ナビ! これ見てこれ! ビピッて光るよ!」
パッチが嬉しそうに掲げたのは、レジ端末から伸びるコードの先についた『バーコードスキャナー』だった。奇跡的にバックアップ電源が生きていたのか、先端から赤色のレーザー光線が照射されている。
ピピッ!
「うわっ、眩しっ! パッチ、俺のカメラ(バイザー)にレーザー当てるな!」
レジでサボっていたボルトが、爪楊枝代わりに使っていた鉄くずを振り回して暴れる。
「あはは! ボルトにヒット〜! ピピピピッ! これ強い光線銃だ〜!」
「光線銃ではありません、バーコードリーダーです。被写体の識別コードを読み取るだけの不殺の機器です。……パッチさん、僕に向けないでください。バイザーのセンサーがチカチカします」
僕が手を払おうとすると、パッチはそのまま自動会計端末の画面やボタンを適当に乱打し始めた。ピピピッと電子音が鳴り響き、画面に『エラー:ネットワークに接続できません』という警告が赤く点滅する。
「パッチさん、無暗にボタンを押さないでください。人類のシステムは時に不意な暴走を引き起こします」
「え〜、大丈夫だって〜! 人類ってさ、こういう赤いボタン1つで勝手に滅びたりするからウケるよね〜!」
ケラケラと笑いながら端末のキーを叩き続けるパッチ。
「……冗談でも笑えませんし、歴史の記録とも違います。絶滅の原因は諸説ありますが、ボタン一つで滅びるほど人類の防衛システムも脆弱では……まあ、愚かではありましたが」
僕は肩をすくめ、手元の端末を開いた。
これ以上ここにいても、ボルトがレジ台を破壊し、パッチがスキャナーのコードを絡ませて動けなくなるだけだ。
「調査を終了します。レビューを投稿して次のエリアへ移動しましょう」
僕はキーボードを叩き、銀河中の宇宙人が集まる口コミサイト『銀河トリップ(GalaTrip)』に評価を打ち込んでいく。
【スポット名:地球・旧東アジア区『過激な合戦場』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
エネルギー補給度: ★☆☆☆☆(充電可能な物質は皆無です)
娯楽度: ★★☆☆☆(バーコードスキャナーは優れた精神安定玩具になります)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつて食料を巡る過酷な抗争が行われたとされる遺跡です。しかし現状は、精密機械にとって一切の利益を生まない廃墟に過ぎません。同行した大型ロボがレジ台を占領し、小型ロボがスキャナーで遊ぶだけの不毛な時間を過ごしました。訪問の価値はありません」
「送信完了です」
「よし、撤収! 次は日陰があって、横になれる場所にしてくれよ……」
ボルトがレジ台からノコノコと起き上がり、身体についた埃を払う。
ピッ
端末から一瞬で通知音が響いた。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。あそこは黄色い楕円形の物体を巡る争奪戦が激しすぎる過激なバトルアリーナだからな」
画面を見たパッチが、首をかしげながら丸い体を揺らす。
「きいろいだえんけい……? なにそれー? たまご?」
「知りません。きっとその『ユーザーID:0000』という宇宙人も、僕の『合戦場』という解説を真に受けて適当な脳内補正をかけているのでしょう。まったく、ネットの口コミを鵜呑みにする知性体は困りものですね」
僕は冷ややかに鼻を鳴らし、端末を閉じると自動ドアの向こうへ足を進めた。
「ほら二人とも、行きますよ。次の『★1つ』が僕たちを待っています」
(第2話・終わり)




