第16話:極限のサバイバル訓練(ダイナー&缶詰倉庫)
「ご覧ください。かつて過酷な環境下で人類が生存率を〇・〇一%でも上げるため、高カロリーな保存食を体内に押し込んでいた補給基地です」
「……ただの荒野のドライブインだろ」
赤と白のチェッカー柄の床、サビついた革張りのソファ、そして壁一面に積み上げられた鋼鉄製の缶詰の山。
「いいえボルトさん。ここに保管されているのは『軍用超耐性缶詰』です。あらゆる衝撃や放射線に耐え、開封には専用の重機(缶切り)を要するとされる、人類の生存への執念の結晶です」
「へー! なかみ何入ってるの〜!? パッチ開けてみたい〜!」
パッチが缶詰の山に飛びつき、球体ボディでスリスリと擦り寄る。
「むだですパッチさん。我々機械生命体には有機物の消化器官がありません。中身がいくら超高カロリーな『スパム』や『コーンビーフ』であろうと、単なる有機汚泥に過ぎま――」
ガシャンッ!!
店内奥の厨房から、巨大な油圧式缶切りアームを両手に装着した『給食配給ロボ』がギギギと駆動音を立てて躍り出てきた。頭部のLEDライトが狂乱の赤色に点滅している。
「エイヨウ……フソク……検知……!! サバイバーニ……栄養補給ヲ……開始シマス……!!」
「うおっ!? なんだこの物物しい缶切りロボは!?」
「落ち着いてくださいボルトさん。過剰な親切心でプログラミングされたサービスロボの暴走です」
配給ロボは両手の鋭利な回転刃を『ギュイィィィン!!』と爆音で高速回転させ、積み上がったスチール缶を猛烈な勢いで開封し始めた。
ジャキッ! どばぁぁっ!
「さあ! 召し上がれ! ミートローフ濃縮還元三百年分デーーーす!!」
缶の中から飛び出したのは、化石化して岩石と化した謎の肉塊と、超高濃度の塩分を含んだドロドロのスープだ。配給ロボはそれを油圧アームで救い上げると、豪快にボルトの口元(冷却排気口)目掛けて叩き込もうとしてきた!
「食えるかこんなもん!! 俺はオイルしか飲まねえんだよ!!」
「拒否ハ……不許!! サバイバル教育……未修了者ト見ナシ……強制投与!!」
「ボルトさん! 排気口にあの濃縮塩分スープが入ると、内部基板が一発でショートして二度と再起動できなくなります!」
「マジかよ!? ふざけんなぁぁぁ!!」
ボルトが超重量の腕で配給ロボの缶切りアームをガシリと受け止める!
ギシギシ……バリバリッ!
「パッチ! その辺の缶詰をこいつのセンサーに叩きつけろ!」
「はーい! 飛び出せ缶詰〜!」
パッチが床に転がる未開封の軍用缶詰(カチカチの鉄塊)を、投石機のような勢いで配給ロボの顔面へ連射した。
ドカッ! バキッ! どがーん!
「エラー……過剰栄養……摂取……サバイバル……成功……」
顔面を缶詰で叩き割られた配給ロボは、黒い煙を噴き上げながら油圧アームを垂らし、静かに沈黙した。
「……ハァ……ハァ……。サバイバル訓練ってのは、メシ食わされるだけで命がけなのかよ……」
ボルトが胸のファンから激しく熱気を吐き出しながら床に座り込む。
「だから言ったでしょう。ここは極限の補給基地だと」
僕は溜め息をつき、油まみれの床を避けながら手元の端末を開き、『銀河トリップ(GalaTrip)』に評価を打ち込んだ。
【スポット名:地球・旧北米区『強制給食の要塞(ダイナー&缶詰倉庫)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
栄養価: ★☆☆☆☆(機械生命体にとっては致命的なショートを引き起こす毒物です)
接客態度: ★☆☆☆☆(暴走した配給ロボが物理攻撃で塩分を強制投与してきます)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつて人類の生存を支えたとされる補給拠点です。しかし現在は、高塩分の化石スープを機械の内部へ力任せに注入しようとする過激な罠と化しています。精密機器の持ち込みは極めて危険です」
「送信完了です」
ピッ
すかさず端末から通知音が響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。スパム缶の塩分濃度は高すぎるし、缶切りで指を切る危険地帯だ」
ボルトが油まみれの拳を握りしめ、死んだような目で画面を見つめた。
「……指を切るどころの騒ぎじゃねえよ。俺は基板を塩漬けにされかけたんだぞ」
「有機生命体の皮膚は脆いですからね。……さて、塩分と油の匂いが充満する前に退散しましょう」
僕たちは胸のファンを必死に回すボルトと、缶詰の上で転がるパッチを引き連れ、レトロなダイナーの跡地をあとにした。
(第16話・終わり)




