第14話:空飛ぶ危険な鉄くず(ミリタリー博物館&ステルス機)
「ご覧ください。かつて人類が自らの姿を透明化させ、敵の眼を欺くために開発したとされる隠密用移動体(ステルス機)です」
「……ただの古っくさい黒い戦闘機だろ」
見渡す限り広がる干上がった滑走路。その一角にある巨大な格納庫跡に、翼を休める黒塗りのステルス戦闘機が一機、ぽつんと鎮座していた。
「いいえボルトさん。記録によると、この機体は『レーダー波』と呼ばれる電波を吸収・拡散し、敵の探知画面から完全に姿を消す技術が使われていたそうです。いわば、乗る者を透明人間隔にする魔法の鉄くずですね」
「へー! すごいじゃん! 透明になれるの〜!?」
球体ロボのパッチがパカパカと装甲を開閉させながら、ハシゴを登って開いたままのコックピットへと飛び込んだ。
「パッチさん、勝手に乗り込んではいけません。年代物ですから、いつ回路がショートするか……」
「わあー! ボタンがいっぱいあるよ〜! ピポパポ〜!」
「押しちゃダメだって言ってんだろ!」
ボルトが大きな手を伸ばしてパッチを引っ張り出そうとした、その時だった。
コックピットの奥で、数百年ぶりに予備のバッテリーが奇跡的なスパークを起こした。
ピーーーッ! 警告:非常脱出プロトコル作動!
「え?」
ドカンッ!!!!
「うわあぁぁぁぁ!?」
爆音と共にコックピットの座席がロケット弾のような勢いで高速射出された。
座席に座っていたパッチと、それを引っ張り出そうと覗き込んでいたボルトの手が引っかかり、二体まとめて格納庫の天井を突き破って大空へと吹き飛んでいく。
「パッチィィ! お前マジで余計なボタン押すんじゃねえぇぇ!!」
「あははー! 空飛んでるー! でも透明になってないよ〜!?」
ドガシャーン!!
数百メートル先の滑走路の真ん中に落っこちた二体。
ボルトは派手にズッコケて顔面から滑走し、パッチはスーパーボールのようにポンポンと跳ねてボルトの頭の上で綺麗に着地した。
僕がため息をつきながら歩み寄ると、ボルトが砂埃を吐き出しながら立ち上がった。
「……どこが透明になる魔法の乗り物だ! 単なる『人間を空中へ射出する投擲兵器』じゃねえか!!」
「どうやら光学的に消えるわけではなく、電波的な錯覚を利用していただけのようですね。期待外れです」
僕はバイザーの光を落とし、手元の端末を開いて『銀河トリップ(GalaTrip)』に評価を入力した。
【スポット名:地球・旧北米区『姿を消す鉄くず(ミリタリー博物館)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
透明度: ★☆☆☆☆(一切消えません。普通に目視できます)
安全性: ★☆☆☆☆(搭乗者を即座に外部へ射出する過激なトラップが仕掛けられています)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつて高度な隠密技術を誇ったとされる機体ですが、現状はボタン一つで乗員を吹き飛ばす危険物です。透明化を期待して立ち寄ると、物理的に大空へ打ち上げられて痛い目を見ます」
「送信完了です。……さあ、射出ボタンの押し心地以外に得るものはありませんでしたね。行きますよ」
ピッ
すかさず端末から通知音が響く。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。乗り心地は最悪だし、操縦桿の周りにボタンが多すぎてどれが脱出ボタンか覚えられない危険な欠陥機だ」
ボルトが頭の上のパッチを掴み取りながら、死んだような目で画面を覗き込んだ。
「……あいつ、絶対一回射出されたことあるだろ」
「ネットの知性体の適当な体験談など気にするだけ無駄です。ほら、次の『★1』へ移動しますよ」
僕は冷ややかに言い放ち、穴のあいた格納庫をあとにして、乾いた滑走路を先へと進んだ。
(第14話・終わり)




