第13話:灼熱の砂漠と謎のストーカー(荒野のハイウェイ)
ギシッ……ギギギッ……
「あー……アツい……アツすぎる……。オイルが沸騰して関節のパッキンが溶けそうだ……」
地平線まで一直線に伸びる一本道。照りつける強烈な日差しと、巻き上がる乾燥した砂塵の中を、ボルトが巨大な体を左右に揺らしながら這うように歩いていた。
「弱音を吐かないでくださいボルトさん。ここは旧北米区の『ルート66』と呼ばれる輸送幹線道路です。記録によれば、人類はここで太陽の光を浴びながら『自由』を感じていたそうです」
「自由の前にサビと油膜切れで動かなくなるわ!! あのID:0000の暇人が言ってた通りじゃねえか!『日差しが強いから油膜切れに気をつけろ』って……なんであいつの助言がドンピシャで当たってんだよ!」
「偶然です。ただの当てずっぽうに決まっています」
僕はバイザーに減光フィルターを掛けながら冷ややかに返したが、足元でコロコロ転がっているパッチはすこぶる機嫌が良かった。
「わあー! 砂がいっぱいー! パッチ、砂漠の転がりモード〜!」
「パッチさん、駆動部に砂が入ると分解清掃になりますよ。……おや?」
遠方の陽炎の向こうに、赤錆びた屋根と崩れた看板が見えた。
「ガソリンスタンドと……併設された洗車場の跡地ですね。日陰として退避しましょう」
「日陰……! 助かったぁぁ!!」
ボルトが最後の力を振り絞って猛ダッシュし、屋根の下へ滑り込んだ。
日陰に入った瞬間、ボルトの内部ファンが『ヒュンヒュンヒュン!』と爆音で回り始める。
「ふぅ……生き返った……。おいナビ、あそこに洗車機があるぞ! 水は出なくても、ブロワーの風くらい出ねえか?」
「期待しないでください。数百年放置された機械です」
ボルトが洗車機のゲートに近付いたその時だった。
ガコンッ!!
「侵入車両を検知! 泡洗浄&温水シャワーコースを開始します!」
頭上のセンサーが真っ赤に点灯し、錆びついた回転ブラシとノズルが激しい駆動音を立てて動き出した。
「おっ!? 生きてるじゃねえか! 頼むぜ、砂埃を吹き飛ばしてくれ――」
プシューーーーーッ!!
ノズルから勢いよく噴き出したのは、水でも温水でもなく、蓄積された『赤サビ混じりのドロドロの泥水』だった。
ドバッッ!!
「ギャアアアアア!? 水!! しかも超汚いドロ水だあぁぁぁ!!」
「ボルトさん、離れてください!」
さらに、壊れた回転ブラシが暴走し、ボルトの巨体を挟み込むように力任せに回転し始めた。
ガラガラガラッ! バキバキッ!
「痛ぇっ!? ブラシが硬ぇ! 鉄のブラシじゃねえかこれ! 削れる! 俺の装甲が削れるぅぅ!!」
「わあー! ボルトが洗車機に食べられてるー! がんばれー!」
パッチが能天気に手を叩いて応援する中、ボルトは「ふざけんなぁぁ!」と叫びながら、巨大な拳で洗車機のゲートごとアームを叩き折った。
ドガシャーン!!
沈黙する洗車場。ドロ水と削れた塗装まみれになったボルトが、息を荒げてその場に崩れ落ちた。
「……最悪だ……。日差しから逃げたら、泥を塗られて装甲削られた……」
「お疲れ様です、ボルトさん。おかげでこのスポットの危険性が十分に立証されました」
僕はため息をつきながら手元の端末を開き、シーズン2の一発目となるレビューを『銀河トリップ(GalaTrip)』へ打ち込んだ。
【スポット名:地球・旧北米区『灼熱の滑走路(荒野のハイウェイ&洗車場)』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
環境適応度: ★☆☆☆☆(過剰な日差しと砂塵により油圧系が即死します)
洗車サービス: ★☆☆☆☆(泥水を噴射された挙句、鉄ブラシで物理的に削られます)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「かつて自由の象徴とされた広大な道路ですが、実態は精密機械を物理的に破壊しに来る過酷な砂漠です。途中の給油所もトラップと化しており、同行した大型ロボが泥まみれになりました。訪問は絶対に推奨しません」
「送信完了です」
ピッ
端末が一瞬で通知音を鳴らす。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「★1評価に同意。だから言ったろ。あそこのハイウェイは日差しで装甲が焼き上がり、スタンドの洗車機(故障中)に挟まるのがお決まりなんだ」
画面を見たボルトが、泥まみれの顔で吠えた。
「だからなんで知ってんだよあの暇人はぁぁぁ!!」
「……相変わらず不気味な知性体ですね。まあ、気にしても時間の無駄です」
僕は端末を閉じ、泥を拭うボルトと、砂遊びを続けるパッチを促して、再び果てしない一本道へと歩き出した。
(第13話・終わり)




