第12話:さらば東アジア、★1の空へ(シーズン1クライマックス)
ドドドバッッ!!
背後で巨大なショッピングモールが完全に崩れ去り、膨大な土煙が港湾エリアの空を覆い尽くした。
「ハァ……ハァ……! た、助かった……のか……?」
地響きが収まった瓦礫の山の上で、アストラ査察官がペタリと座り込んでいた。銀色のピカピカだった最新鋭ボディは、埃とススで真っ黒に汚れている。
「だから言ったでしょう。この星の遺構は危険に満ちており、観光価値など皆無だと」
僕はバイザーについた埃を払いながら、淡々と端末を操作する。
「お前……メッキ、大丈夫か? 脚の油圧が歪んでるぞ」
ボルトが大きな体を揺らし、巨大鉄骨を受け止めた腕の熱を冷却ファンで逃がしながら声をかけた。
「……なぜですか」
アストラは膝を抱えたまま、消え入りそうな声で僕たちを見上げた。
「本社に背き、データも適当で、規律もマニュアルもあったものではない……。それなのに、なぜあなたたちはそんなに迷いがないのですか? なぜ私を助けたのですか……!」
「迷いがない〜? パッチはいつだってお腹すいてる(オイル飲みたい)よ〜?」
パッチがコロコロと転がり、アストラの膝にポンと丸い頭を乗せた。
「助けた理由ですか?」
僕はフッと冷ややかに鼻を鳴らした。
「査察官がここで大破されると、死亡原因の事故調査や始末書の提出で僕たちのサボり時間が削られるからです。……それ以上の意味はありません」
「……っ!」
アストラは目を見開き、やがて力なく笑い出した。頭部の冷却ファンが悲しげに『ヒュン……』と音を立てる。
「……負けました。本社がどう言おうと、私の監査結果は一つです……」
アストラは震える手で自身の端末を操作し、本部への通信ログを立ち上げた。
「『現地調査チームの報告通り、地球・東アジア区は絶望的な危険地帯であり、観光・再開発価値は皆無。評価は……★1である』……送信」
通信を終えたアストラは、立ち上がると僕たちに向かって深々と頭を下げた。
「……私は本社へ戻り、再研修を受け直します。あなたたちの滅茶苦茶な調査スタイル……少しだけ、羨ましく思いました」
アストラはVTOL船に乗り込むと、どこかすっきりした表情で、夕暮れの空へと去っていった。
◆
「やれやれ、うるさいのがようやく帰りましたね」
「おう。これで心置きなく寝られるな」
僕は崩落したモールの残骸と、沈みゆく夕日を背景に、シーズン1最後となるレビューを『銀河トリップ(GalaTrip)』へ打ち込んだ。
【スポット名:地球・旧東アジア区『東アジア都市廃墟全域』】
総合評価: ★☆☆☆☆(1.0)
安全性: ★☆☆☆☆(モールは崩落し、本社の高圧的な査察官が襲来します)
おすすめ度: ★☆☆☆☆(充電不可、サビの危険、泥沼のゲーム、音速の暴走車両しかありません)
【レビュアー:ナビ(銀河観光公社)】
「東アジア区の全スポットの調査を終了しました。結論として、この星は精密機械にとって何一つ利益をもたらさない過酷なゴミ箱です。本社の売却計画にも騙されないよう警告します。全銀河の旅行者は決して足を踏み入れないでください」
「送信完了です」
ピッ
端末が、静かな港に軽やかな通知音を響かせた。
> 「役に立った!」が1件押されました。(ユーザーID:0000)
> ユーザーID:0000「また無事だったか。東アジアの★1巡り、お疲れ様。……次は北米の荒野(ミリタリー区)か? あそこは日差しが強いから、油膜切れには気をつけていけよ」
画面を見たボルトが、呆れたように笑った。
「またあの暇人か。……なんで俺たちが次に行く場所を知ってやがるんだ?」
「さあ。ネットの口コミサイトに入り浸っている、ただのストーカー知性体でしょう。……ですが」
僕は端末を閉じ、沖合に停泊している長距離移動船を見上げた。
「油膜切れの心配をされる筋合いはありませんね。さあ二人とも、次の『★1つ』が待っています。移動船に乗りますよ」
「わあー! 次のゴミ箱へ出発だー!」
「次は日陰が多くて、絶対にサビない場所にしてくれよな……」
僕たち3体のシルエットは、朱色に染まる廃墟の空へ向かって、ゆっくりと歩みを進めていった。
(第12話・シーズン1【東アジア・都市廃墟編】・完)




