第11話:崩落するショッピングモール(本社査察・後編・前)
「――そこまでです! これ以上の身勝手な調査は認めません!」
巨大な吹き抜けが印象的な、半崩壊状態の超大型ショッピングモール。
その中央広場に降り立ったのは、以前にも増してピカピカに磨き上げられたアストラ査察官だった。
「また出たな、メッキ野郎」
ボルトが鬱陶しそうに腕を組む。
「いいですか、ナビゲーションユニット三二号。私は本社の高層幹部より直接命令を受けてきました。……この星の評価を、今すぐ【★5】に書き換えなさい!」
「断ります」
僕はバイザーの光をひとつ明滅させ、即座に一蹴した。
「★5などという大嘘をつく筋合いはありません。この星は移動効率が最悪で、危険物に満ち、僕たちの求めるエネルギーは何一つ手に入らない★1のゴミ箱です」
「分かっていないのですか!? 本社はこの地球の『廃墟レトロテーマパーク』としての売却計画を進めているのです! ★5の評価さえつけば、投資家たちから莫大な予算が降り、あなたたちの不人気部署も存続できるのですよ!?」
アストラが熱弁を振るう。しかし、その声はどこか焦りと苦悶に満ちていた。
「……ふん。投資家を騙して不要なゴミを売りつけるわけですか。本社らしい汚いやり口ですね」
僕が冷ややかな声をかけると、パッチが能天気にアストラの周りをグルグルと転がり始めた。
「ねえねえメッキ〜! ★5にすると美味しいオイルもらえるの〜?」
「触るなと言っている! 私は正当な手続を……っ!?」
その時だった。
グラグラグラッ……!!
足元から、地鳴りのような凄まじい振動が広場を揺らした。長年の雨水浸食と地盤沈下により、モールの巨大な構造体が限界を迎えたのだ。
バリバリバリッ! ガシャーン!!
「キャッ!?」
天井のガラスドームが割れ、巨大な鉄骨とコンクリートの塊が、アストラの真上から容赦なく落ちてくる!
「アストラ査察官、退避を――」
「ひっ……足の関節が固まって……!?」
あまりの急展開と恐怖に、マニュアル通りにしか動けないアストラの制御プログラムがフリーズを起こした。頭上の巨大な鉄骨が影を落とす。
ドドドドドッ!!
「――チッ。手間の破片がよ!」
ガッシーーーーーンッッ!!!!
凄まじい衝撃音が広場に轟いた。
アストラが恐る恐る目を開けると、そこには自分の頭上数センチのところで、数十トンの巨大鉄骨を『素手』で受け止めているボルトの背中があった。
胸の装甲から『ふしゅー』と激しい高熱の蒸気が吐き出され、脚部の油圧シリンダーがギシギシと悲鳴を上げる。
「ボ……ボルトさん……!? なぜ……機械生命体の安全規程第4条によれば、自己の危険を冒してまで他機を保護する義務は――」
「うるせえなメッキ! 講釈垂れてるヒマがあったらサッサと這い出せ!」
ボルトが歯を喰いしばり、赤いカメラアイをギラリと光らせた。
「俺はサボるのが仕事だがな……身内が眼の前で潰されるのを見るほど暇じゃねえんだよ!」
「ボルトカッコいい〜! パッチも手伝う〜!」
パッチが球体ボディから小さなマニピュレーターを伸ばし、ボルトの脚元に転がった瓦礫をせっせと退かし始める。
「……アストラ査察官。ご覧の通り、この建造物は一刻も早く完全崩壊します。……逃げますよ」
僕が淡々と告げると、アストラは信じられないものを見るような目で僕たち三体を見つめ、震える声で呟いた。
「な……なぜだ……マニュアルも規律もない君たちが、なぜそんな……っ」
広場全体が崩れ落ちる中、僕たちの決死の脱出劇が始まった。
(第11話・終わり)




