表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ニュースキャスターの父、ロッカーの叔父、教師の居候。この家、まともな大人が不在です』  作者: 水前寺鯉太郎
シーズン3

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/40

第32話:『教授の椅子、三流のステージ』

『教授の椅子、三流のステージ』


「……教授への復帰。論理的に見て、これを拒絶する理由は 0.1\% も存在しません」

 佐藤先生の言葉は、氷のように冷たくリビングに響いた。

 テーブルの上には、名門大学からの招聘状。

 

 譲は、持っていたピックを床に叩きつけた。

「だったら行けよ! 最初からわかってたんだ。先生みたいなキレ者が、俺みたいなのとドサ回りしてる方がおかしかったんだ。……『再履修』、本日で解散だな。おめでとうございます、教授!」

「譲さん、言葉を慎みなさい。私はまだ――」

「うるせえ! 俺は、あんたの『研究対象』だっただけだろ!? もう十分だ、データの収集は終わったんだろ!」

 譲はギターケースを掴むと、玄関を飛び出した。

 深夜の公園。

 譲がベンチで震えていると、背後から聞き慣れた足音がした。

「……譲さん。あなたの感情的な爆発により、私の計算は大きく修正を余儀なくされました」

 佐藤先生が、手に小さなホワイトボードを持って立っていた。

 

 先生は、外灯の光の下で、素早くグラフを描き始めた。

「私は、大学に回答しました。教授職は受ける。ただし、私の肩書きは『客員教授兼、株式会社再履修・専務取締役』であると。……大学側は『前例がない』と難色を示しましたが、私は論破しました。生きた喜劇を解明せずして、何を教えろと言うのか、と」

「……え?」

 譲が顔を上げる。

 

「譲さん。あなたがいないと、私はただの『理屈っぽい男』に戻ってしまいます。あなたが奏でる不協和音があって初めて、私の論理は命を宿す。……私は、教授の椅子よりも、あなたの隣の『立ち位置センターマイク』を選びたい」

 佐藤先生は、眼鏡を拭きながら、珍しく声を震わせた。

「……三流の相方で居させてくれませんか。これは、私の人生における、最も非論理的な、けれど最も確かな『正解』なのです」

 譲は、鼻をすすりながら笑った。

「……勝手なこと言うなよ、先生。……教授を相方にするなんて、俺、また練習量増やさなきゃいけないじゃんか」

 数日後。

 大学の巨大な講義室。

 教壇に立つ佐藤先生の隣には、アンプにプラグを繋ぐ譲の姿があった。

 集まった学生たちがざわつく中、先生がマイクを叩く。

「静粛に。本日の講義は『不確実性の中の幸福論』。……相方、出囃子デバヤシを」

 ジャカジャカと、軽快なギターの音が講義室を震わせる。

 水前寺家の「再履修」は、終わるどころか、アカデミックな世界さえも巻き込み、さらに大きなステージへと走り出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ