決戦前夜。
シャーーッ――……
風呂に入ったまひるのシャワーを浴びる音を聞きながら、改めて現状について考えてみる。
まず、俺の家の風呂に(まひるとはいえ)女の子が入っている。
そもそも俺たちの関係ってなんだっけ?俺が知っているのはあいつは俺のファンということと、「空野まひる」という名前であるということだけだ。つまり、風呂の貸し借りをするような関係ではない。
あいつにとって俺は保護者のような存在で、やましいことなんてある訳なくて。
――そんな言い訳がましいことを考えていると、浴室のドアが開く音がした。
『……ひな、タオルがない』
脱衣所からドア越しにまひるが声を掛ける。焦って準備したからか、タオルを置いておくのを忘れるという凡ミスをしていたみたいだ。
「わ、分かったから絶対ドアを開けるなよ? フリじゃないからな?」
ドタドタと部屋に戻り俺は部屋に干しっぱなしになっていたバスタオルを片手に脱衣所に向かう。というか、着替えもないような……。
適当にタンスを漁り、昔流行ったゆるキャラ(しまにゃん)が描かれたシャツを取り出す。アイロンもかけずしわくちゃだけど気にしている場合ではない。
「ドアの外にタオルと着替え、置いたぞ。俺は部屋に戻っとくから!」
脱衣所の外からまひるに声をかけ部屋に戻る。
しばらくすると、タオルを頭から被り、ブカブカのシャツを着たまひるが部屋に戻ってきた。しわくちゃになったゆるキャラと目が合う。
「……ひな、どこみてるの」
「は? しまにゃんを見てるだけだけど?」
風呂上がりで上気した顔をしたまひるはいつもの覇気のない目でこちらを見つめている。心なしか照れているような気もするが風呂上がりだからだろう。うん。
「……おふろ、はいれたよ」
「あ、ああ……。さっぱりしたか?」
「うん。ほめて」
「なんでだよ」
偉業を成し遂げたようなドヤ顔をしているまひる。いや、風呂に入っただけだからな? そんなんで偉業だったら人類みんなノーベル賞だよ。
「ひなのケチ」
「むしろ太っ腹だよ……。早く部屋に戻って下着取ってこい」
「……ん」
曖昧な返事をしたまひるは、俺の元相棒のクッションをズルズル引きずりながら部屋に戻っていった。相棒の扱いひどくない?
荒ぶる鼓動を鎮めながらまひるが戻ってくるのを待つ。とりあえずなんとかなった……かな。
手持ち無沙汰になった俺はテーブルに置いてあったスマホを開く。連絡アプリに一件、通知が来ていた。
『明日 10時 oasis』
可愛い猫のアイコンから、可愛げのない業務連絡のようなメッセージ。温度差で風邪ひいちゃうよ。
『分かりました。よろしくお願いします』
そんな当たり障りのない返事をし、スマホを置く。しっかり連絡をしてくれるあたり、響子さんはああみえて律儀な性格なのかも。
「ひな、もどった」
「お、おう。ちゃんと着てきたか?」
「……ん」
ノーパンで部屋の中をウロウロされたら流石の俺も気になるから一安心である。まぁ結局シャツ一枚だからそんな変わらないけど。
「……今、響子さんから連絡があった。明日、直接話をしてくる」
「……そっか。ひな、がんばってね」
「毎日風呂入るって約束するならな」
「ん……。がんばる」
「自分の部屋で入れよ?」
…………。
答えは沈黙。




