強力な協力者。
「おまたせ、日向くん」
翌日。遅れるわけにはいかないと思い、かなり早めに食堂で待っていた俺に爽やかな声が掛けられる。
「お疲れ様です、月島先輩。わざわざ来ていただいてありがとうございます」
「可愛い後輩の頼みさ。それで、話って?」
昼休みで騒がしい食堂の中でも、月島先輩の存在感は群を抜いている。親しげに話し始めた俺に周りから早速鋭い視線が向けられる。
「おい、あいつまた月島さんと」
「うらやま……いや、許せん」
「経済学部一年の雛川日向、覚えとけよ」
不穏な会話が聞こえた気がするが無視する。月島先輩は全く気にしていないようだけど、メンタルどうなってるんですかね。
「実はその、oasisの常連の彼女のことで相談がありまして」
「響子のことかい?日向くんも隅におけないねぇ。あ、連絡先とかは教えられないよ?プライバシーもあるからね」
「いやいや、そういうんじゃないですって!」
月島先輩に微笑ましい目で見られた俺は必死に否定する。周りでは月島ファンクラブ(俺命名)がざわざわしている。
「あいつ、月島さんに他の女の子の相談してやがる」
「ぶっ飛ばされたいようだな」
「あいつの家は確か──」
家まで把握されている事実に震えが止まらないが、気にしていると話が進まないので無視を決め込む。あとで防犯ブザー買いに行こう。
「違うのかい?」
「違います!まぁ似たようなことではあるんですが」
俺は自分がhi7*であるということを伏せながら事情を説明する。まひるの存在をどうしたものか迷ったが、話すとややこしくなりそうなので曖昧にボカしておく。
「なるほど、バンドをね……。それなら軽音部に紹介しようか。一応ツテならあるよ」
「いえ、響子さんじゃないとダメなんです」
「へぇ……。やっぱり」
「だから違いますって!……実はその、もう1人のメンバーがこの大学の子じゃないんです」
まひるのことはあまり話したくなかったけど、こうなったら仕方ないか……。
「……引かないで聞いて欲しいんですけど」
「もちろんさ。聞かせてくれるかな?」
俺はまひるとの出会いを簡単に説明する。もちろん同じ部屋で寝泊まりしたことや、身の回りのお世話をしていることは伏せて。
「なるほどね……。で、響子に白羽の矢が立ったというわけか」
「はい。彼女めっちゃ人見知りなんで、軽音サークルの人たちとは多分合わないと思うんですよね」
「彼女、ね……。日向くんは優しいんだね」
「あ、いやその」
まひるの性別が月島先輩にバレてしまった。先輩の致命的な勘違いを訂正しようとしたが、上手い言葉が見つからずどもってしまう。
「そういうことなら是非協力するよ。彼女のためにも、彼女想いの日向くんのためにもね」
「あ、はい。ありがとうございます……」
これ以上誤魔化しても余計にややこしくなりそうなので、訂正は諦めよう……。月島先輩との(存在しない)フラグがポキリと折れる音がした。
「しかし、響子か……。彼女にもそろそろ更生して欲しいと思ってたんだ。oasisの常連は1人減ってしまうけど、まぁ仕方ないね」
「なにかいい方法ありますかね?めっちゃ警戒されてると思うんですよ、僕」
「彼女のことは昔から知ってるからね。なんとかしてみせるさ」
月島先輩は自信ありげにそう言うと、俺に向かってキラッと効果音が聞こえてもおかしくないぐらいの華麗なウィンクをした。後ろの席からキャーキャーと黄色い歓声が上がる。月島ファンクラブ、男だけじゃなかったのか。
「早速今日のバイトの時間にでも話してみるよ。多分、今日も来るはずだから」
頼もしい味方を引き入れることに成功した俺はホッと安堵の息をつく。俺もあとで月島ファンクラブに加入しよう。
「私は昼からも授業があるから、またあとでね」
颯爽と立ち上がった月島先輩は、こちらに背を向け手を振りながら軽やかな足取りで去っていった。立ち去り方までイケメンである。
1人取り残された俺は、月島ファンクラブからの激しい視線攻撃に耐えながら、ラーメンを啜るのであった。




