作戦会議?
「……悪いまひる、失敗したかもしれない」
バイトを終え帰宅した俺は、しれっと俺の家に居座っているまひるにそう告げた。いつの間にこっちに来たのかは謎だ。セキュリティどうなってんだこの家は。
「……ひなならできる。がんばれ」
まひるはキレイなサムズアップを決めながら人ごとみたいな反応をする。目元のクマが取れた瞳だけがキラキラしていてなんかイラっときた。お気楽そうで羨ましい。
「がんばれったってなー……。面識のない人をいきなりバンドに勧誘するのって明らかに怪しいだろ。しかもなんか脅迫したみたいになっちゃったし」
年上の男がいきなり「バンドしませんか?」って言ってきたら普通に通報案件である。まひるが一緒ならまだマシかもしれないけど、こいつが外出、しかもあんなオシャレなカフェに行くのは無理そうだし。
「ひなの正体を明かしたらいっぱつ」
「いやいや、余計怪しいだろ。俺がhi*7だって証明できないしさ。しかも相手は不良だぞ?下手したらぶん殴られる」
「ぶん殴られたらわたしがなぐさめてあげる」
「いやいやそこは手当してくれよ……」
今のところあっちの第一印象は最悪。バンドに誘おうにも超警戒されるのは目に見えてる。……これはいわゆる詰みというやつかもしれない。でも彼女のような逸材を逃したら次はなさそうだし、なんとしてもバンドに勧誘しないと……。
「こうなりゃ月島先輩に協力してもらうしかないかもな……」
もう一対一での勧誘は不可能だと思った俺の口からそんな言葉がこぼれた。
するとそれまで俺の元相棒のソファに寝そべってダラダラしていたまひるがピクリと反応し体を起こす。
「つきしま……?だれ、それ」
なにげなく月島さんの名前を出しただけだったのに、いつになく真剣な瞳でまひるはこちらを見つめていた。お前そんな顔できたんかい、と俺は少し驚く。
「え、いや大学の先輩だよ。たまたま知り合ってさ。今のバイト先も月島先輩の紹介だし、響子さんも知ってる人だから協力してもらおうかなって」
「きょうこさん……?だれ、それ」
響子さんの名前を出すと、またピクリと反応してじとりとこちらを睨みつけてくる。
「そういや言ってなかったっけ?響子さんはバンドに誘おうと思ってる女の子だよ。俺の曲を真っ先にカバーしてくれた歌い手のLAKIさん。バイト先の常連らしくてさー、運命感じるだろ?」
年下の女の子に運命を感じてる俺が最高にキモいのはさておき、こんな幸運を逃すわけにはいかない。なんとしても彼女を勧誘したい。
「女の子だったの……?……ひなの“たらし”」
「は、はぁ!?別にそんなんじゃねーし!」
慌てて否定した俺をまひるはジト目で見つめる。その目やめろ!
「もしかして、つきしまさんも……女の子?」
「そうだけどなにか!?月島先輩しか知り合いがいないとかそんなことはないんだからね!?」
俺には武井くんという素晴らしい友達もいるんだぞ。決して女の子ばかりに声をかけているわけではない。
「このままだったらバンドが女の子だらけ……。ひな、変態だったの」
「人聞きの悪いことを言わないでくれよ……。そもそも、月島先輩はバンドに勧誘するつもりないし」
さすがに出会ったばかり、それも年上の女性をバンドに誘うのはハードルが高い。もし入ってくれるならそりゃもう万万歳ですけれども。
「てか、まひるも同性の方がいいだろ?もしゴリゴリの陽キャのチャラ男が入ってきたら、まひると出会った瞬間に対消滅するんじゃないか?」
めちゃくちゃ失礼なことを言ってしまった気がするが、まぁまひるだしいいか。
「……ひなも“こっち側“」
こいつの中では俺は陰の者らしい。否定できんのが悲しい。俺の青春は音楽と共にあったのだ。
ともかく、なんとしても響子さんをバンドに勧誘しないと。そのためには月島さんの協力が不可欠だ。
「とりあえず月島さんに連絡してみるか……」
俺はスマホを取り出し、明日のお昼、食堂で会いたいとの旨を月島さんに送った。
「おんなのこ……。ひながとられる……」
……いつから俺はお前のものになったんだ。
うだうだ言ってるまひるを無視しながら待つこと数分。月島先輩から「分かった。楽しみにしてるね」との返事がくる。俺も楽しみです。




