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サボリ魔の正体。


大学の講義が終わり、その日の夕方のバイト。

ノエルさんにレジ打ちを教わっていると、学校帰りらしき響子さんが来店した。本日2回目の来店だ。本当に常連なんだな……。


響子さんは気怠げに窓際の席に腰掛けると、メニューに目もくれずスマホを弄りだした。耳にはイヤホンが嵌められている。


ノエルさんに促され、俺は伝票を片手に響子さんの席にオーダーを取りに行く。


「ご注文はお決まりでしょうか」


「……いつもの」


初めてみた時と同じようにぶっきらぼうに答える。彼女のいつもの、は確かアイスココアだったはず。


俺はノエルさんにアイスココアひとつ、と伝えレジの操作の練習に戻る。ここからはよく見えないが、音ゲーをプレイしているらしい。手元を忙しなく動かしている。


「そういえばヒナヒナちゃん。ケーキの新作作ってみたんだけど、試食してくれないかしら」


「あ、はい。いただきます」


そういうと店長は試作品らしきケーキを冷蔵庫から取り出す。チーズケーキが可愛らしいお皿に盛り付けられている。


店内を見回すと、今いるお客さんは響子さんだけ。つまり暇ということだ。今なら食べても問題なさそうだ。


「いただきます」


俺はカウンターに座り、そのケーキを一口、口へ運ぶ。


……うん、うまい。さっぱりとした甘味が紅茶と合いそうだ。


「すごく美味しいです。ドリンクとの相性も良さそうですね」


「あら、よかった。こういうシンプルなチーズケーキは作るのが難しいのよね」


ノエルさんは嬉しそうにそう答えると、もう一つ試作品のチーズケーキを取り出す。いつのまにかアイスココアも用意されていた。


「これ、響子ちゃんへ持っていってあげてくれないかしら。常連さんの意見も聞きたいのよね」


「分かりました」


トレーにアイスココアと試作品のチーズケーキを乗せ響子さんの席へ。


「お待たせいたしました、アイスココアと、……試作品のチーズケーキになります」


「……どうも」


響子さんはすこし驚いたような様子だ。イヤホンをはずしてノエルさんのいるカウンターへ視線を向ける。


「……店長ー、これ貰っていいのか?」


「ええ、常連さんへの特別サービスよ。感想聞かせてね」


その返事を聞いた響子さんは嬉しそうな表情を浮かべながらテーブルへ向き直ると、スマホでケーキの写真を撮りはじめた。女子高生らしいところもあるんだな。……なんか意外だ。


「だからジロジロ見んじゃねえって」


「スミマセン……」


怒られてしまった。俺も彼女がどんな反応をするのか気になるけど、なるべく見ないようにしよう。


──その後は、数人の来客があったのみで、バイトは終了した。暇とは聞いていたけど、これでやっていけるのかすこし心配になる俺だった……。


◇◇◇


バイトから帰宅した俺は、パソコン画面と睨めっこしていた。俺の背後では例に漏れずまひるがクッションに包まりながらごろごろしている。こいつ、いつのまにやってきたんだ……。まぁいいけど。


そんなまひるを無視して日課のSNS巡りをしていると、ひとつ気になる画像が目に入る。


「ん……?これってウチのお皿だよな……?」


まさに今日食べた試作品のチーズケーキの写真が、とあるユーザーによって投稿されていたのだ。oasisのお皿は特徴的な柄なので一目で分かる。


「投稿者は、っと……。……え!?」


──それは有名な歌い手のLAKIラキさんによる投稿だった。


LAKIさんは、何を隠そう俺の曲をバズらせてくれた恩人?で、一番最初にカバーをしてくれた方だ。無名だった俺がここまで有名になったのはLAKIさんのおかげといっても過言ではない。


「どういうことだ……?」


あの後、来客は数人だった。試作品のケーキを食べたのは俺と響子さんしかいないはず……。


「……まさかな」


俺の頭に響子さん=LAKIさんという等式が頭に浮かぶ。……確かめてみる価値はありそうだ。


「……どうしたの?」


いつのまにか俺の背中にもたれかかっていたまひるが画面を覗きこみながら耳元で呟く。ええい、距離がいちいち近いな、こいつは……。


「……もしかしたら、バンドのボーカルが見つかるかもしれない」


俺は心に浮かんだ一つの案をまひるに話す。まひるは俺の提案を聞くと、嬉しそうに俺に抱きついてきた。


「……ひなた、がんばって」


だから耳元で喋るんじゃない。くすぐったいだろ……。



──作戦決行は明日。上手くいきますように。



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― 新着の感想 ―
[一言] まひるが座敷わらし扱い。 今後の活躍に期待。まだ何者かわからないし。
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