奇跡の出逢いは突然に。
そのあとは結局まひるのお世話に費やしてしまった。帰宅するなり「もうだめ……」と呟き、クッションに突っ伏したまま動かなくなってしまったまひるをどうにか自分の部屋に戻そうとしたが、努力の甲斐むなしく徒労に終わった。
「おい、自分の部屋に戻って寝てくれよ」
「……むり」
「無理って……。すぐそこだろ」
「……わたし、誰かがちかくにいないとねれない」
「子どもみたいなこと言うなよ……」
どうやらまひるは1人で眠ることに恐怖感を抱いているようだ。それでよく一人暮らしをしようと思ったな……。
「ほら、クッションあげただろ?これ抱いて寝ればいいじゃん」
「……ちょっと安心するけど……すぐ目が覚めちゃう」
親はどうしてるんだ、とか気になることは山ほどあるが、今はどうでもいい。俺の部屋にいられると作曲ができないし、また布団に潜りこんでこられても困る。一応、俺も男だし。
「はぁ……、分かった。寝るときは俺の部屋に来てもいい。けど布団には潜り込まないでくれ。替えの布団があるからそれ使ってもいいし」
「……わかった」
まひるは渋々といった様子で頷く。こっちが譲歩してるのになんでそっちが「仕方ないな」みたいな態度なんだ。
「あと、俺にも生活がある。ここの線からはなるべく入らないように。それとその辺の機械にも絶対に触らないこと」
俺はデスク付近にまとめて置いてあるDTM機材を指差しながら念を押す。簡単に壊れたりはしないけど、配線とかいじられると困る。
クッションにもたれかかりながらまひるは目線をよこす。
「……作曲、してるの」
「え、まぁ、うん」
まさかこの機械たちが作曲用の機材だと分かるとは思ってもみなかったので少し言葉につまる。そういえばこいつ、ギターめちゃくちゃ上手かったな。
「まひる……さんはギター上手いよな」
呼び方に困り、とりあえずさん付けでまひるの名前を呼ぶ。年下っぽいし呼び捨てでもいいんだけど、コミュ障にとっていきなり呼び捨てはハードルが高かった。
「……すきな作曲家がいるの。そのひとに憧れてはじめた」
まひるにしては活気のこもった声でそう答える。よっぽどその人のことが好きなんだろうな。
「へぇ……。まひるにも好きって感情があったんだな」
つい、そんな言葉が口をつく。しまった、つい呼び捨てで呼んでしまった。
「……hi7*(ヒナ)」
「え?」
「わたしの好きな作曲家。……いまは曲を書いてないみたいだけど」
「……」
「……いつかその人の曲をバンドでカバーしてみたい。……だからギター、はじめた」
予想外の名前に思わず固まる。俺の曲がきっかけでギターを始めたってことは、半年かそこらであんなにギターが上達したのか……?
「……これ」
「え?」
いつの間にかパソコンの前に移動していたまひるは、パソコンの画面を指差しながらつぶやく。
「hi7*の曲……」
パソコンに映し出されていたのは、DTM用のソフトの作業画面。昨日の夜、新しいアレンジを思いついて、その作業途中だったのだ。
──曲はもちろんhi7*の曲。
「……もしかして、ひなたがhi7*?」
そこで初めて俺の名前を呼んだまひるは、その死んだ目を輝かせながら俺を真剣な表情で見つめていた。いろいろ言い訳は思いつくが、それを言葉にできない。
「──みつけた」
まひるは嬉しそうにそうこぼすと、初めての笑顔を俺に向ける。その笑顔はまるで大事な無くしものを見つけた子供のようだった──。
第一部、完!
日向とまひる。ついに出逢うことができました。
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