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デウス・ウルト   作者: 妖怪はらへった
第二章 天峰学園 一年生編
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第33話 暗闇

「ガチで美味しいですね、これ・・・」


 もも先輩が出してくれた紅茶は、あんな掃きだめから出されたとは思えないほど香りがよく、砂糖を入れなくても優しい甘さを感じさせる。

 紅茶の良し悪しなんて全然わかんないけど間違いなく美味い。


「ふふん、とっておきなの」


 紅茶を褒められてドヤ顔のもも先輩には悪いが、ちゃんと戸棚とかから出してもらえればもっとよかった。


「俺の仮面の謎も気になるんですけど、その前にいろいろ聞いてもいいですか?」

「いいけど、内容にもよるの」

「まずは条件付けってなんですか?さっき能力の話をしてたときの」

「ああー、んー、う~ん、私からの説明はあまりしたくないの」


 もも先輩は露骨に困ったように腕を組む。

 狐のお面で隠れていない口元は見事なへの字だ。


「仕様そのものは説明できるの。ただ詳しくは専門の先生に聞くの」

「わかりました」


 俺の頷きにもも先輩はこほんと軽く咳ばらいをして口を開く。


「さっきの話をもう少し詳しく話すの。鏡は写したものを返すの。ありのままをそのままに返すの。真白はそこに『ありのまま』ではなく『相手に向かって』返したの。これが条件付けなの」


 もも先輩は机に制御装具(インペリウム)からメモ機能を起動させる。

 簡単な絵でさらに説明を書き加える。


「本来鏡には反射の法則が適用されるの。入射角と反射角があっていないの。それは真白が条件付けしたことに他ならないの」

「さっきも思ったんですけどそこまで特殊な事とは思えないんですけど。普通に考えたら手から炎が出るとか空を飛ぶとかできなくないですか?自分の理想を体現したのが思創の卵(プロキシー)じゃないんですか」

「簡単そうでも難しいの。起源は理想からだとしても、人は常識の中で生きているから常識に囚われるの。本来の性質や本来の法則、こう教わったからこうあるべき、こうならなければおかしい、と普通はなるの。常識から外れることを本能的に恐れるの。常識外は大抵異端なの」

「常識外・・・ですか」

「別に真白を貶しているわけではないの。大体新入生はその考えに囚われているから、そこを破る勉強をするの。他にもこういうのがあるの」


 もも先輩はメモに平仮名で『きく』と書いて、その下にきくと読める漢字を書いていく。


「日本に研究機関が多い理由の一つなの。聞く、効く、利く、菊どれも『きく』なの。でも意味が全部違うの」

「同音異句、ですか?」

「そう、日本語は多様的なの。そして日本は独自解釈が得意な国なの。男性の偉人が女性に変わるなんてザラなの」


 確かにゲームや漫画だと歴史上の人物はよく性別が変わっているな。

 そういえばセト先生も似たようなことを言ってたな。

 自由な発想を身に着けるための日本か。


「当然いい組み合わせ、悪い組み合わせがあるの。逆に利用されることもあるの。だからちゃんと先生に聞くの」

「わかりました、説明ありがとうございます。あともう一つ、もも先輩は父さんと面識があるんですか?」

「・・・昔お世話になったの。いろいろ教えてもらったの。考え方がとても変態的なの」

「変態的って・・・、否定できないけど」


 他人と同じ考えを持っても面白くないって人だったもんな。

 まあ、その思想を色濃く受け継いでいるのが俺なんだが。

 俺は父さんに固定観念はぶち壊すものだと教えられてきた。

 おかげで色んな角度からモノを見たり感じたり出来るようになったんだけどな。


「私はそんなに付き合い長くないから多く語れるほどじゃないの。そろそろ研究の話をするの」


 もも先輩は掃きだめの山から服の着ていない人形を俺の前に立てる。

 本当に何でもあるな、その山。


「真白は魂の重さを知っているの?」

「死んだ瞬間に少し軽くなったてやつですか?」

「そう、マクドゥーガル博士の研究なの。人は死後21グラム失われると言われてるの。この研究そのものには興味がないの。私はその21グラムがどこに内包されていたのかが知りたいの」


 もも先輩は人形の頭と胸を指し俺を見る。


「魂があるとしてその在処はどこにあると思うの?頭なの?心臓なの?記憶なの?感情なの?私はそれが知りたいの」


 捲し立てるように投げられた問いに俺は答えることができない。

 魂の在処なんて考えたこともなかった。


「通説では記憶なの。魂は最初はただの生物に内包されるエネルギーで色も特徴もなく、生きてきた記憶に根付いた色の魂になるといわれてるの」


 一瞬言いづらそうに俺に視線を送ると、もも先輩は再び口を開く。


「じゃあ記憶を失った人はどうなるの?もし思い出せなかったらそれまでの自分は死ぬの?今生きている自分は偽物なの?毎日記憶を失ってしまうものは毎日生まれ変わってるの?」

「それは・・・」


 どうなのだろうか?

 俺が思い出せないのはあの事故前後の1年間だけど、前と変わったと周囲によく言われていたな。

 感情か記憶か、脳か心臓か、何をもってして魂と呼ぶのか。


「私は感情にこそ魂が宿ると思うの。感情が大きく動くとき自我や思いが形成されるの。記憶はその感情を呼び戻すための舞台装置だと思うの」

「記憶か感情か、ですか。どうして魂の在処にこだわるんですか?」

「それが私の存在証明だから、なの」


 一瞬ピリつくような空気に俺はこれ以上の質問を続けることはできなかった。

 コホンと軽い咳払いと共に、もも先輩は俺の仮面を裏表交互に見せる。


「真白のお面から得た私の解釈は隔絶なの。世界どころか自分そのものすら弾き返しているの。このお面からは自我を感じないの」

「自我を感じないってどういうことですか?」

「私の思創の卵(プロキシー)仮面舞踏会(マスカレイド)』は頭の中を覗き見て、その中で強いイメージから選び仮面として生み落とすの。そこに宿された感情を起点に仮面の能力を作り出すの」


 もも先輩はメモに鏡の注釈を書き足していく。

 鏡の持つイメージとは、真実や理想の姿、一方的な拒絶、神のお告げなどがあるらしい。


「いくつか書いたけど、多分拒絶が正しいと思うの。外側だけなら他人との距離感や顔色を窺っているだけですんだの。でも真白のは内側、つまり自分すらも自分の中からはじかれているイメージなの」


 自分すらもはじきき返すイメージか。

 思い出したいのに思い出せない、記憶に拒絶されているように感じる自分にぴったりの仮面だな。


「さらに真白の仮面は普通につけてもなんの効果もないの」

「何の効果もないって・・・」

「何もかもが抜け落ちている、というより弾き返されているの。記憶が思い出せないのではなくて思い出せないようになっていると思うの」

「どういう意味ですかッ!」


 思わず立ち上がる俺にもも先輩は座るように手で指示をする。


「記憶の穴がある所の存在感が強すぎるの。感情もそこに引っ張られているのか上手く結びつけれないの。だから形が作れないし色もない。核心にたどり着けない、そこにいるのにいないみたいなの」

「俺には何がなにやらさっぱりなんですけど」

「正直私もよくわからないの。ただこの鏡の仮面は何でも跳ね返すの。光だけでなく向かってくるものを跳ね返すの。水でも火でも関係ないの。まだハンマーや物理方面は試してないからこれから試すの」

「これから試すって・・・壊れたらどうするんですか?」

「そのために呼んだの」


 もも先輩が指をパチンと鳴らすと、たたずんでいた人形が動き俺の手をつかんだ。

 華奢な見た目とは裏腹になんだこの力強さは、微塵も動かない。

 何かとてつもなく嫌な予感がするんですけど。


「そんなに時間は取らせないの。真白の仮面には思いが詰まってないからそんなにエネルギーも消費しないの」


 もも先輩の小さな手が俺の頬をしっかりと押さえる。

 頭の中で警鐘がずっと鳴っていた。

 輝夜に振り回される直前のような頭痛がする。


「とりあえず、30枚くらいでいいの」


 そこで俺の視界はブラックアウトした。

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