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デウス・ウルト   作者: 妖怪はらへった
第二章 天峰学園 一年生編
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第23話 仮面

 教頭先生の端末とのやり取りで無事入会手続きが済んだ。

 これで俺も自由研究会員となった。


「さて、入会はいいとしてこの後どうしましょうかね」


 教頭先生は難しい顔をしながら顎をさする。


「どうっていうと?」

「自由とは言えあくまで研究会、その体裁は守られなければいけません。かといって研究したいことなど今はないでしょう?」


 ああとフォルト先輩は頷きながら教頭先生と一緒にこちらを見る。

 確かに今日突発的に入会を決めた俺にこれがやりたい、というモノはない。

 無理やり探すものでもないしこれはどうしたものか。


「今君たちがやっている研究を手伝ってもらいつつ、何かを探してもらうしかないでしょう」

「っていってもな、俺のは誰かに手伝ってもらう段階じゃないぜ」

「そうなると『彼女』の研究ですか・・・」

「いろんな意味で大丈夫か、それ」


 二人そろって渋い顔をしながら考え込む。

 そんなにヤバい研究なんだろうか。


「今戻ったの」


 ガララと教室を開けながら小さな影が教室に入ってきた。


「噂をすれば、ですね」

「あ、あんたは出入口でうずくまっていた・・・」


 狐面の少女は首を傾げながら俺を見つめる。

 考え込むように俺を見つめた後手をポンッと鳴らす。


「・・・おお、また会ったの、偶然なの、ビックリなの」


 わざとらしく両手を上げ驚きを体全体で表現する。

 白々しいという言葉がここまで似あう人を初めて見た。


「うまくやったの、ぶい」


 先生や先輩の方に向かってVサインを送る狐面の少女、それに苦笑して頭を押さえるフォルト先輩。


「もしかして勧誘――――」

「してないの。ルールは破ってないの。確率を上げただけなの」


 ふんすと胸を張り恐らくドヤ顔をしている。

 なんか頭を撫でまわしたくなるな、この人。


「・・・これについてはもう言及しません。能形君、とりあえず自己紹介を」


 教頭先生が俺の方に手を向けて促し、それに合わせてひらりとスカートを翻す。


「私の名前は『能形(のうがた)もも』なの。よろしくなの」

「俺は御影真白です。よろしくお願いします」


 軽く会釈してもも先輩を見る。

 改めて見るとやはり小さくて、俺の肩位までしかない身長や言動から高校生感が全然ないな。


「今失礼な事考えたの」

「真白気をつけろー。そいつ口にしなくてもある程度人の考えが読めるから」


 腕を組んで俺の顔を覗き込むもも先輩。

 少し怒っているのか足をタンタンと鳴らしている。


「何かすいません。小さくて可愛かったんで先輩っぽくないなと」

「先輩っぽくないは余計なの」

「雑談はそこまでです。とりあえず研究室へ行きますよ」


 教頭先生は手を叩くと教室の奥へと歩く。


「移動するならドアの方じゃ・・・」

「そっちは人形がいるだろ。まあいいからこっち来いよ」


 俺の疑問をよそにフォルト先輩が教室の奥へと手招きする。


「今は私がいるからそっちじゃなくてもいいの」

「お前がいない時に困るだろう?」


 むうと口を膨らませるともも先輩も後に続く。

 奥に何があるんだ?


 教頭先生が入ってきたドアの対角線上に着くとウインドウを開く。


「外の人形の話は後にして、大体の出入りはここからします。この研究室は部外者立ち入り禁止なのでくれぐれも見られないように気を付けてください」


 教頭先生はウインドウを操作して自由研究会のマークを出す。

 それを小さく調整して、壁にかかっている絵のない額縁に入るように合わせた。


『メンバー承認イタシマシタ』


 機械音声がどこからともなく聞こえると、壁がスライドして奥に行けるようになった。


「すげえ、秘密基地みたいだ」

「いいね、その感想」


 フォルト先輩は指を鳴らしながら振り向くと、俺に向かって一礼する。


「ようこそ、俺たちの秘密基地へ。歓迎するぜ」

「歓迎するの」


 もも先輩も手を差し伸べながら俺を迎えてくれる。

 まだ何も始まってないのにワクワクしてきた。


 促されるまま入った室内は、まさしく研究室と言わんばかりに本や何らかの器具が山積みにされている。

 そして研究室の中にも廊下に並んでいたような人形が並んでいた。


「さて御影君、君には能形君の助手をしてもらおうと思います」

「もも先輩の・・・ですか」

「私の・・・助手?」


 教頭先生は頷きながら説明を続ける。


「フォルト君の方は手伝いがまだできる状態ではなく、もう一人は今この学園にいませんからね。必然的に能形君のお手伝いということになりますね」

「私のお手伝い・・・つまり何をしてもいいの?」

「限度は当然ありますよ。心身ともに傷を負わせないことが最低条件となります。能形君は時折やりすぎてしまいますからね」


 なんか物騒な話してるんだが。

 というか俺に拒否権はないのか。


 教頭先生ともも先輩の間でいろいろとルールが決められていくのをただ眺めている。

 話がついたのかもも先輩がこちらに歩いてくると手を差し出す。


「善処するの」

「ええと・・・よろしくお願いします」


 俺は戸惑いながらもしっかりと握手を交わす。


「手伝いって言われても、俺は何をすればいいんですか?」

「とりあえずしゃがむの」


 ちょいちょいと手招きでしゃがむように指示される。

 何だこの可愛い生き物は。


「余計なことは考えないの。膝立ちするの」


 俺は言われるがままに膝立ちをする。

 今から何があるんだ?


「今回はなぞって複製するだけなの。痛くないから心配しないの」


 なぞる?複製?何を作るんだ?


「能形君は人の記憶、感情や思想から仮面を作り出す能力を持っていまして、その力を人形に宿して魂を再現できるかの研究を行っています」


 言っていることが半分も理解できていないが、とりあえず今から仮面を作るのだけはわかった。

 俺と同じようにしゃがみ込み、もも先輩の小さな両手が俺のほほに添えられる。

 その手から発せられる温かい何かが俺の顔を包み込んでいく。

 それは次第にほのかな光となって、もも先輩の前へ集まっていった。


「いつもと何か違うの?」


 首を傾げながら俺の顔から手を放し、光の塊を包み込む。

 一瞬眩く輝くと一枚の仮面がその手にあった。


「なんだそれ?ガラス・・・いや鏡か」


 もも先輩の手にある仮面は目や鼻、口などの人らしいパーツのないのっぺりとした鏡の仮面だった。


「鏡ですね。御影君の能力に何か影響を受けているのでしょうか?」


 珍しいのか、教頭先生も身を乗り出して仮面を見ている。

 俺の視線に気づいたのか、コホンと一度咳をする。


「能形君の作る仮面は記憶や感情を読み取ると言いましたね。能形君がどこを強く意識するかにもよりますが、通常であれば色や動物、自然や昆虫などがモチーフとなって作られます。ここまで特長も何もない・・・いや特長しかないものは初めて見ますね」


 なるほど、もも先輩がつけている狐面みたいな動物や、テレビとかでよく見る蝶の仮面みたいなのが普通出来るのか。

 たしかにこの仮面と呼ぶべきかすら微妙なコレは珍しいか。

 作り出したもも先輩ですら固まって動いていない。


「・・・両面鏡なの。そう、そういうことなの」


 ザワッと背筋に何かが走る。

 何だ、部屋の空気が明らかに変わった。


「もも、お前笑ってるのか。福面でもないのに珍しいな」

「前言撤回なの」


 もも先輩はゆらりと立ち上がると、仮面を少しずらし直接俺を見る。

 爛々と輝く紫の瞳のせいか脳裏にマリスがよぎる。

 アイツの瞳はもっと濃ゆく深く、というか別に似てないんだが探るような感じに既視感を覚えるのか?


「真白、貴方オモシロイの」


 それだけ言うともも先輩は研究室の奥に走って行き、自分の研究室と思われる部屋に閉じこもった。

 置いてけぼりな俺たちはお互い見合わせる。


「今日の活動はここまでですね」

「だな」

「そうなりますよね」


 俺たちは頷き合うと隠しドアへと向かう。

 時計を見ると意外と時間がたっていたらしく、移動時間を考えれば丁度よかった。


「ま、明日また来いよ。問題があるとすればももが出てきているかどうかだけどな」

「せめて食事だけでもとってもらえるといいのですが」


 引きこもることはままあるらしい。

 月並みだがザ・研究者って感じだな。


 俺は人形の並ぶ廊下に続くドアに手を伸ばすが、取っ手をつかむ前に自然と開いていく。


「どこにいるかと思えばやはりここだったか」

「な・・・なんで」


 俺の目の前には鬼が立っていた。

 空間を湾曲させるようなプレッシャーに俺は思わず後ずさる。


「おや上代先生、どうかなさいましたか?」

「突然の訪問失礼。教頭先生この生徒を借りていっても」


 もう帰りそうな空気だったけど教頭先生空気読んで、ここはお断りを――――


「ええ、入会手続きなどは終わりましたので大丈夫ですよ」

「そうですか、ありがとうございます。御影行くぞ」


 襟首をつかまれて引きずられるように連れていかれる。

 掴む拳は親の仇の如く強く握りしめられており外すことなど不可能だった。


「ちょ、しゅう・・・いや上代先生。苦しいです。っていうか俺なんかしました」

「いいから来い。お前に釘を――――教えておかなければいけないことが多々ある」


 嫌だッ、行きたくないッ、絶対いいことない。

 誰か助けてくれーーーー。


 教室を出る直前に見た教頭先生はそれはいい笑顔を携えていた。

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