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デウス・ウルト   作者: 妖怪はらへった
第二章 天峰学園 一年生編
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第22話 顧問

「なんだよジーサン、いたのか」

「ここでは先生と呼びなさいと言ってるでしょう」


 声の先には人好きのする好々爺、教頭先生が立っていた。

 柔らかに目を細めながら俺の方に視線を向ける。


「ところでどうして彼がここにいるのでしょうか?勧誘は禁則事項に当たりますよ」

「誰も勧誘はしてないな。あいつが勝手にここに来ただけだ」

「・・・ふむ、偶然にしては出来すぎている感じがありますが」


 疑いの眼差しをフォルト先輩に向ける教頭先生。

 俺がたまたまこの区画に来たせいで、何か悪い気がするな。


「教頭先生、俺本当に勧誘はされてません。広場の騒ぎから逃げて研究棟に入って、探索をしていただけです」

「広場・・・ああそういえば涼矢君が沢山歩いていましたね。なるほど・・・」


 納得いったのか、教頭先生は手のひらをポンと鳴らし頷く。


「御影君は研究会は決まったのですか?」

「いや、それはまだです。今ここの自由研究会の事を聞いていたところです」

「自由研究会ですか。どこまで説明を?」

「とくには何も言ってねぇよ。何するにも自由って言っただけだ」


 自由研究会の名前が出た瞬間、フォルト先輩に厳しい視線をぶつけている。

 この活動よっぽど何かをしたのか?


「御影君は何かやりたいことは無いのですか?スポーツ、勉学、趣味何でも構いませんが、明確な指針もなく何となくで所属する研究会ではないですよ?」

「やりたいことは・・・あります。ただそのやりたいことは普通の活動では得ずらいというか」


 俺のやりたいこと、父さんの痕跡というか何をして来たかを追っていくこと。

 父さんこの学園じゃあんまり良いイメージないからあんまり内容は話したくないな。


「普通の活動では得ずらい、ですか。自由という言葉に惹かれてここを求めようとしているならそれはお門違いですよ。自由とは与えられるものではなく、また囚われるものでもない。自由を求めている間は自由ではない」

「ジーサン説教臭くなってるぞ。そんなに圧かけるなよ」


 教頭先生が父さんと同じ言葉を・・・。

 何故だろう、ここには何かある、そう思えて仕方がない。

 直感というか言葉にできない何かがある、そう感じた。


「あの、この研究会に入ることは可能なんですか?」

「御影君、私の話を聞いていましたか?」

「はい、聞いた上で、いや聞いたからこそ俺はここに入りたいと思いました」

「ハハッ、ジーサン自分で勧誘してるじゃねぇか」

「今の流れが何故勧誘になるのですか。あと先生と呼びなさい」


 教頭先生が目を手で覆いため息をつく。

 何か思案気に天井を見つめた後に俺に視線を戻す。


「入会することは可能です。可能ですが本当にこの研究会に入るのですか?ここには明確な指標もなく、目的もなく、各々が己の自由を研究している場所です。無為に時間を浪費する可能性もありますよ」

「それが無駄な時間かは俺次第ですよね?」

「それは・・・。そうですか、そうなりますか」


 教頭先生はフォルト先輩を見つめる。

 フォルト先輩も視線を合わせると頷く。


「そう、ですか。御影君の選んだ道がここなのなら私が断る理由はないですね」

「入会は顧問の先生に申請するんですよね?顧問の先生って誰なんですか?」

「私ですが」

「は?」

「ハハハッ、まあ見えねぇよな。堅物そうなジーサンがこんなフワフワした活動の顧問って」


 お腹を抱えて笑い出すフォルト先輩。

 苦笑しながら頬をかく教頭先生。


「まじかよ・・・」





 ――――

 ピコンとデスクに置いていたデバイスに通知音が鳴る。

 中身を確認すると盛大にため息をつく。


「そうか御影真白はあの研究会を選んだか、やはり血は争えんか」


 私はおもむろに写真立てを手に取り見つめる。


「晶これも全部お前の思い通りか?お前は何を見ていたんだ?自分の息子に何がさせたいんだ?」


 目を閉じれば今でも鮮明に思い出せるあの忌々しい日を。

 私の全てを奪ったあの日を。

 あの惨状を思い出すたびにはらわたが煮えくり返る。


 白くなるほど手を握りしめて歯を食いしばる。

 この怒りを解き放てる日はいつになったら訪れるのだろうか。


「お前たちの最愛ではなかったのか?何故だ紬、何故この学園を選ばせたんだ?」


 問いかけたところで答えは返ってこないそんな事はわかっている。

 でも私だけでも問いかけ続けなければいけない。

 もう二度と奪わせない、なに一つ、私の手の中にあるうちは。


 コンコンとノックする音に我に返り、写真立てを伏せて置く。


「誰だ」

「突然申し訳ございません。少々ご相談があり伺いました」

「その声は・・・生徒会長か。ちょうど手が空いたところだ、入れ」

「失礼いたします」


 一礼をし、生徒会長ことカール・フォン・ホーエンハイムが入ってくる。


「どうした?校長ではなく直接私のところに来るとは急ぎの要件か?」

「急ぎと言えば急ぎですかね。五月にある僕の研究発表会を夏に伸ばしてほしくてお願いに来ました」

「何?それはまた急だな。お前の研究発表会となるとそう簡単にはいかんぞ」

「でしょうね。だからこそ学園長にお願いに来たんです」

「どういう意味・・・なるほど夏か。『アイツ』が来るからか」

「流石ですね。本家も面倒事は一度に終わらせたいのでしょう」


 苦笑しながらカールは肩をすくめる。

 正直ホーエンハイム家の厄介事をこっちに持ってくるなと言いたいが。


「・・・わかった。こっちでなんとかしよう」

「助かります。僕も理事会の方には行きたくないので」

「あいつらの相手は無駄に疲れるからな。要件はそれだけか?」

「僕のは、以上です」


 そう言うなりカールの雰囲気が変わる。

 穏やかだった翡翠の瞳から光が失われ、口が三日月に裂ける。


『調子はどうだ(クトゥグア)?』

「私はそんな名前ではない。旧世界の異物が何の用だ」

『心の中は熱く燃え上がっているのに冷たいじゃないか』


 大仰に手を広げながらカール、いや異物が語り掛けてくる。

 コイツが表に出てくるということは、ある程度調ったのか。


『まあいいさ、君とはもうすぐ普通に語り合えるからね。私が気にすることなど一つしかないのを知っているだろう?鏡の調子はどうだい?』

「調子も何もない。お前らが期待するほどのレベルじゃない」

『それは君の私見かい?学園の総意かい?』

「まだ磨いてもいないのにわかるわけがないだろうが」

『ふふ、そういうことにしておこうか。君が目をかけている時点でその評価は計り知れない。目にかかれる日が待ち遠しい』

「お前には必要のないものだろうが」

『私が必要なくても必要とするものは沢山いるだろう?それにプロセスは違えど同じような研究対象だ気になるなという方が無理さ』


 こいつ、どこまで知っている?

 引きこもりの覗き魔が、虫唾が走る。


『おっと、そろそろ時間の様だ。ではまた会おう(クトゥグア)


 ガクッと肩を揺らしカールがたたらを踏む。


「不快にさせてしまい申し訳ありません」

「お前は『それ』でいいのか」

「質問の意味が解りかねます」

「お前は――――」

「これは僕たちの総意です。『それ』のために僕たちは生まれ目指してきた。今更そのことを誰かにとやかく言われたくはないですね」


 カールはキッと睨むように私を見る。

 どうして私たちは子供にこんな顔をさせてしまうんだろうな。

 大人の理不尽を黙って受け入れさせるしかない、偉くなっても何も変わらないな。


「ただ、僕も『彼』には興味があります。すべてを知った後の反応が僕とどう違うのか、そこは気になりますね」


 どこか寂しそうに笑うカールはそのまま一礼して部屋を後にした。

 やり場のない怒りがまた手に集約され白く染める。


「クソジジイ共お前らの好きにはさせない。あいつの守りたかったものは私が全部守る、絶対だ」

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