第20話 見学
静まり返った教室を出て校内マップを開く。
どの場所でどの部活、研究会が勧誘しているか表示されている。
これを見ながらいろいろ見て回るか。
「流石の賑わいだな、入り口が見えねえな」
もともと見学するつもりじゃなかったが通り道だったので錬金室の方を覗いてみたが、錬金室に入りきれず廊下を人が埋め尽くしていた。
現代のパラケルススことカール会長と研究できる、もといお近づきになれるってなったらそら殺到するよな。
会長の研究発表会は人気アイドルのコンサートの如く数秒で席がなくなることで有名だ。
それが理由か生徒会長なのに入学前の案内や校内見学にカール会長は姿を見せないらしい。
「錬金術そのものには興味あるが、入りたいとは思わないな」
俺は錬金室を覗くのをあきらめて移動する。
まずは校舎の中をぐるっと回りますかね。
――――
「この学園、本当に何でもありだな・・・」
広い校舎を隅々まで見て回ったが、いろんな部活や研究会が所狭しと並び立っていた。
定番の美術部や吹奏楽部、演劇部や合唱部、ギャンブル研究会や自動人形研究会等など。
ひと際異彩を放っていたのは呪具研究会か。
黒いローブを身にまとった集団が、部屋の真ん中にあった魔方陣を囲んでなにやら呟いていた。
覗いていると目が合ったので急いで逃げたけどな。
映像研究会と映画研究会は何が違うのだろうかなど統合してもよさそうなのもあったし。
一応自分たちでも部活や研究会を立ち上げることもできるようだ。
最低人数は4人からで研究や活動内容が被るものはNGで、顧問の先生は自分たちで確保しなければいけないらしい。
先生の説得が一番難しそうだよな、今のところこの学園でまともそうなの教頭先生くらいだったし。
「さてと、次はグラウンドかな。他にも研究棟とかもあるもんな・・・ん?」
校舎を出ようと出入口を目指しているとうずくまっている少女がいた。
狐の様なお面をしていて顔は見えないが着ているのは学園の制服か。
「体調悪いのか?」
お面の少女にしゃがみながら声をかける。
「別に体調は悪くないの」
「じゃあ何でうずくまって・・・いるんですか」
首を上げた少女の首には青のリボンがついていた。
この学園は男子ならネクタイ、女子ならリボンの色で学年が分かれている。
赤が1年生、青が2年生、紫が3年生だ。
「別に敬語じゃなくてもいいの。ただ少し疲れたから座っていただけなの」
そう言うなりお面の少女は立ち上がった。
肩まである艶やかな黒髪をハーフツインでまとめており、腰にもお面をいくつかぶら下げていた。
異様な空気を放つ少女がお面越しにこっちをじっと見つめてくる。
「そう・・・なのか、じゃあ俺は行きますね」
お面のせいか妙に迫力があるな。
「ん、声かけてくれてありがとうなの。お礼に教えてあげるの」
お面の少女は俺が来た方とは反対の廊下を指さした。
「ここから出るのは勧めないの。裏口から出た方がいいの」
「何でかは聞いてもいいんですか?」
「外で今からトラブルがあるの。毎年恒例なの。見て回りたいなら無駄な時間なの」
よくわからんが今からトラブルが発生するらしい。
まぁグラウンドは運動部がメインだから別にいいか。
「教えてくれてありがとうございます。じゃあ俺は研究棟の方に向かいます」
「ん、それがいいの」
俺は軽く頭を下げてその場を後にする。
運動部同士のいざこざでもあるのだろうか、そんなことを考えながら研究棟側の出入口を目指す。
「あれが本当にあの人の息子なの?聞いていたより普通過ぎるの」
お面の少女の呟きが俺の耳に届くことはなかった。
――――
「研究棟は世界樹抜けた先か」
地図を見ながら先ほどのやり取りを思い返す。
グラウンドで起きるトラブルとは何だったんだろうか。
嵐真っ先にグラウンドに向かってたが巻き込まれてないといいけどな。
「いや、あいつなら一緒にトラブルを楽しんでるかもな」
首を軽く横に振り、嵐がケタケタ笑う姿を想像する。
うん、こっちの方がしっくりくるな。
「そろそろ見えてくる頃か」
世界樹を通り過ぎ、学園であることを忘れそうなのどかな風景にあくびをする。
牧場や畑が広がっており、積まれた藁を見ていると昼寝がしたくなってくる。
畑やビニールハウスで育てているのも何かの研究だったりするのだろうか。
「お、あれか。てかやっぱりデカいな」
本校舎に引けを取らない白い大きな建物が見えてきた。
研究棟は文字通り研究会が多くあり、特に大型の研究機関が必要な所がこちらにあったりする。
ハイドが入ると言っていた付与装具研究会もこっちにある。
「こっちはこっちで濃ゆいな」
神智学研究会、超常現象研究会、思創の卵研究会などなど化学方面と神様方面が入り乱れている。
普通に考えたらそりが合わないから揉めそうなもんだけどな。
研究棟側は棟内ではなく広場で各研究会が演説やビラ配りをしている。
まるで選挙を彷彿とさせる光景だな。
しばらく見ていると、予想通りというか案の定というか演説が段々と隣り合わせている研究会同士の罵り合いになっていた。
どうやら揉めているのは神智研と超常研のようだ。
『全ての現象は科学で説明がつく、神や精霊などありもしないものを語り聞かせるなど妄言はほどほどにしたまえ』
『視野の狭い蛮族が。神の恩寵をその身に宿しながら否定とわ。ましてや愚弄するなど万死に値する』
これ結構やばいんじゃないのか。
マイクを持っているそれぞれの代表を筆頭にビラ配っている奴らも一触即発で睨みあっている。
「こういう時にじゅん先輩を呼ぶのか?」
「呼んだかい?」
「うぉおおい、びっくりした!」
この学園の生徒会は人の背後に立たなければ声をかけられないのだろうか。
「僕を呼ぶには情熱も声量も足りないが、シャイな君に特別サービスさ☆」
俺にウインクをしながらポーズを取るじゅん先輩。
悪い人ではないんだろうけど、何かイラっとくるんだよな。
「先輩あれ止めなくていいんですか?今にも爆発しそうですけど」
俺の指さす方を見るとじゅん先輩は興味なさげに首を横に振る。
「あの程度の情熱なら問題ないだろう。去年は研究棟がなくなるかと思ったくらいだからね」
「どんな規模の喧嘩ですか、それ」
「まあ、新入生が怯えてしまっているのは間違いない。ここは僕が一肌脱ごうじゃないか!」
そう言うなりじゅん先輩はシャツのボタンを外しながら騒ぎの中心へと歩いていく。
何だ、いやな予感しかしないぞ。
「君達、情熱が滾るのはわからないでもないが少々迸りすぎるのでは?」
バァーンと効果音が出そうな勢いでシャツをはだけさせながらポーズを決めるじゅん先輩。
本当にこの学園ヤバいやつしかいないのか。
「げ、涼矢じゃねえか。誰だよ呼んだの!」
「去年ほどもめてないだろ」
「じゅん先輩が来たぞー、下がれー!」
「ようやく忘れてきたのにまたトラウマがッ!」
おいおい、去年何があったんだよ。
震えながら縮こまってるやつもいるじゃねえか。
極端なものは走って逃げており、その表情からはじゅん先輩に対して好印象を持っているものは誰一人いなかった。
そんなことは関係ないと言わんばかりにずんずんと前へ進むじゅん先輩。
「そんなに恥ずかしがることはない。みんな安心して僕を見つめるといい」
一瞬で広場が騒めき出し、在校生が逃げ回っていた。
「「シャイは程々にしてくれたまえ。君とは2年の付き合いじゃないか」」
あれ、俺の見間違いか?
じゅん先輩さっきまで中央にいたよな。
何で研究棟の端っこにいるんだ。
というか声がダブって聞こえて・・・。
目の前に広がる異様な光景に俺は口をつぐむ。
視界の範囲内いたるところにじゅん先輩がいた。
右を見ても左を見ても、果ては振り返っても涼矢じゅんがそこにいた。
「「「「「そんなに黄色い声を上げてどうしたんだい?安心したまえ何なら一人ずつ僕を独り占めしてもいいんだよ」」」」」
決して黄色くない悲鳴が広場を覆っていく。
逃げる先輩たちに追うじゅん先輩。
これが『夢幻のじゅん』の能力ってことか。
恐らく幻影なのだろうが何人いるんだ、これ。
視界を埋め尽くす勢いで増えるじゅん先輩。
正直視界がうるさくてしょうがない。
「これ、俺のせいなのか?」
不用意に名前を呼んでしまったからなのだろうか。
とりあえず関わりたくないな。
俺は気づかれないように研究棟の裏を目指し駆けだした。
多分呟いたのは俺だけじゃないはずだと言い聞かせながら。




