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デウス・ウルト   作者: 妖怪はらへった
第二章 天峰学園 一年生編
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第19話 夢幻

「チャイムなったけどどうするんだろうな?」


 教室の様子を見ながら嵐に問いかける。

 先生たちのいなくなった教室は活気がようやく戻りだしている。

 数分前の出来事をなかったことにするかのように、みんな部活などの話をしていた。


「さぁ~、案内かなんか来るんじゃないのかな?」


 いまだに机に寝そべったままの嵐が眠たげに答える。

 嵐はもう陸上部に決めているからそれほど興味がなさそうだ。


「そういや、ハイドたちはどこに入るのか決まってるのか?」


 眠たげな嵐を放置して、俺は話し相手を変えることにする。


「私は決まってますが、坊は悩んでるみたいですね」

「どこに入るんだ?」

「私は付与装具(オルナーティオ)研究会ですね」


 付与装具(オルナーティオ)研究会か、そこは俺も気になったな。


付与装具(オルナーティオ)』とは『制御装具(インペリウム)』・『武装具(アルマ)』・『補助装具(アウクシリア)』の総称だ。

生産型(クリエイター)』が生み出す能力付き装備品はすべて『付与装具(オルナーティオ)』に分類される。

 能力の暴走などを防いだり、力の出力を抑えたりする装備品が『制御装具(インペリウム)

 主に戦闘を想定とした武器や防具等の装備品が『武装具(アルマ)

 義足などの日常生活の補助を想定した装備品が『補助装具(アウクシリア)


 自分にあった能力の補助に多数の『付与装具(オルナーティオ)』を付けている人もいる。

 俺の記憶障害を治せるものがないか気にはなっていた。


「ハイドは『付与装具(オルナーティオ)』の研究者を目指してるのか?」

「いえいえ、私は坊の護衛も兼ねて来ているので、坊を守る一助になるなら学んでおこうかなと」

「ああ、そういう感じか」

「先ほどのセト先生がされていた技術も『補助装具(アウクシリア)』で再現できますよ」

「そうなのか!」


 あの謎の圧を再現できるってすごいな。


「先生が実際に使っているかはわかりませんが『増幅(ブースター)』と呼ばれる技術に近いと思います。『増幅(ブースター)』とは存在感などを増す技術です」

「存在感をます?よくわからないな」

「簡単に言うなら格闘技を嗜んでる人に近寄り難いものを感じる一種の圧を強化する感じですね。凄味と言いますか、睨まれるとたじろいでしまうあの感じを意図的に操作するんですよ」


 ああなるほど、マッチョマンやヤンキーなんかの凄味を増すってことか。

 俺がいつも鷲司さんと話すときに、思わず後ろに下がってしまうようなあの感覚を強化する感じか。


「たぶんセト先生は最初の金属音で不快感を増幅して怯ませ、その後に発した殺意を増幅してぶつけてきたのでしょう。この技術は自信や思い込みの要素が強く、『思創の卵(プロキシー)』に近いものがあります。僕たちに対して明確な殺意を抱き、それを感じ取らせて想像させるといった具合でしょう。言葉でいうほど簡単ではありませんが」


 そうか、個が望み他が認めたときに発動する。

 まんま『思創の卵(プロキシー)』を生み出す方法と一緒だな。

 セト先生が圧を発して、そこに恐怖などを感じたらその分が増幅されて自身に返ってきていたのか。


「まぁ結構危ないところでしたけどね、あれ」


 頬を掻きながらハイドは先ほどのことを振り返っているようだ。


「セト先生、言葉を乗せなかったと言ってましたよね」


 そう言えばそんなことを言ってたなと俺は相槌を打つようにうなずく。


「先生も講義で言っていたように言葉には意味があります。日本でいう言霊ですね。ここに強い言葉が乗って発せられていたならば死者が出ていた可能性もありますよ」

「死者って・・・マジか」

「発する存在感によって違いますが、極度の緊張状態で抗えない強制力に精神が耐えれなかったら・・・」

「ショック死ってことか。ありえるな」


 だから乙女ちゃんあんなに怒っていたのか。

 どんだけ危ないことしてるんだよあの先生は。


「そういうことも容易に起こりうるため、『増幅(ブースター)』の装具は第2種指定付与装具に当たり、戦場などでしか装備できません。この技術を取得した場合専用の『制御装具(インペリウム)』の装着が義務付けられています」

「なるほどな。ていうかハイド十分にもう詳しくないか?」

「私の知識はまだまだですよ」


 へへっと笑いながら首を横に振るハイド。

 笑いながらもその目は真剣で、謙遜などではなく本心から言っているのが伝わってきた。


 これでまだまだなのか、俺ももう少し勉強頑張ろう。


 話が丁度一区切りしたところで教室の扉が勢いよく開け放たれた。


「新入生諸君、おはよう!この僕が来ましたよ!」


 波打つプラチナブロンド、ハッキリしすぎている目鼻立ち、胸元まで開いたフリル付きのシャツ、手に持つ深紅のバラ、どこから突っ込めばいいんだ。


「春のうららかな陽気に小鳥が囀っている。まるで君たちの入学を祝福しているようだね」


 髪をたなびかせながら芝居がかったような仕草で天を仰ぐ。

 なんだこのフランス革命してそうなやつは。


「ん、どうしたんだい?みんなそんなに熱い視線を僕に・・・。ああ、すまないいつもこうなんだ。僕が美しすぎて魅了してしまう。まったく罪な男だよ」


 いや、お前誰なんだよって視線だろこれ。

 恍惚とした表情でポーズとってんじゃねぇよ。


「あ、あのお方は生徒会の副会長にして歌劇界の新星『夢幻の(イリュージョニスト)じゅん』様!」


 丸メガネに三つ編みのいかにも情報通な女子が解説してくれた。

 そうか、あれ、生徒で先輩なのか。


「僕の紹介をありがとう。改めまして『涼矢(すずや)じゅん』だ」


 シャランと効果音がしそうな優美な動作で挨拶をするじゅん先輩。

 一部の女子がハァと耽美なため息をついている。

 早速ファンを獲得したらしい。


「さてさて、僕に見とれるのはそこまでにして本題に入るとしよう――――」


 やたらと回りくどい説明をかみ砕くと、これからある部活動および研究会の勧誘に気をつけろとのことだ。

 毎年注意しているらしいが、部員数や上げる貢献に対して部費などの恩恵があり、強引に勧誘してくる者がいるらしい。

 学園自体が広く人数も相当数いるので全てを把握するのは難しいらしく、トラブルがあればじゅん先輩をその場で呼べば助けてくれるらしい。


「大きな声で高らかに僕の名を呼ぶように、注意としては以上かな。ではでは楽しい学園ライフを」


 優美に挨拶をするとじゅん先輩がパンッと花吹雪となり教室に降り注ぐ。


「歌劇っていうか手品師みたいだよねー」


 いつの間にか起きていた嵐が花吹雪をつかむ。

 確かに、今のところは奇抜なマジシャンって感じだな。


「さてと、私は先に行こうかなー。もう行ってもよさげだしー」


 背伸びをしながら嵐は立ち上がる。


「陸上部はグラウンドだったか」

「そ、ずっと座ってたから早く走りたいんだよね」

「フン、頭脳労働は不向きなようだな」


 今まで会話に交じってこなかったウィリアムが鼻で笑いながら嵐の方を見る。

 小馬鹿にするようなウィリアムに対して嵐は満面の笑みで見下ろす。


「引きこもって勉強ばっかしてるからちっさいんじゃなーい?もっと運動したらー?」

「何だとッ!」


 ガタっと立ち上がり、ウィリアムは嵐を睨みつける。


 自分で喧嘩売っておいて煽り耐性低すぎだろ。

 これはハイドの苦労がうかがえるな。

 考えなしで突っ込んでくる奴って大変だよね。


「じゃあ真白っちまたあとでねー」


 ウィリアムを気にすることなく手をひらひら振ると嵐は駆けていった。


「廊下は走るなよー」


 俺も手をひらひらと返し聞くはずもない注意をしておく。

 強く注意しても「大丈夫!ぶつからないから」の一言で返ってくるからな。


「じゃあ私たちもそろそろ移動しますね」


 ハイドが俺に気を使いながらウィリアムと席を立つ。


「お前もしっかりと目標を立てて励めよ」


 ウィリアムが念を押すように指をさしながら俺に言い放つ。

 身体測定のことまだ根に持ってんのかねぇ。


「わかってるって、前に進む義務だろ」

「理解できているならいい、サボるなよ」


 お、ドヤ顔以外の笑顔もちゃんとできるんだな。

 後ろでハイドがペコペコしながらウィリアムの背中を押しながら移動する。

 一応主従関係なんだろうけど、ハイドってウィリアムに気やすいよな。

 幼馴染とか兄弟同然で育てられてきたのか?


 ぼんやりウィリアム達を見送っていたらいつの間にか教室に一人取り残されていた。

 みんなそんなに楽しみにしていたのか。


「さて、俺も入りたいと思えるとこ探しに行きますかねっと」


 頭を掻きながら俺も教室を後にした。

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