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デウス・ウルト   作者: 妖怪はらへった
第二章 天峰学園 一年生編
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第18話 講義

『ア、アアぁあああ、こンな所か』


 おお、さっきより人間らしい抑揚がある。

 黙って立っているから何をしているのかと思ったら声の調整をしていたのか。


『でハ、改めテ講義を再開すル』


 そう言うとセト先生は手を上にあげる。

 ローブから覗き出た指先は金属質な骨のような形をしていた。


 やっぱり生身の人間じゃなかったのか。


『まず君タチがこのクラスに配属されタ理由かラ話そう』


 ブンッと音を立て、乙女ちゃんの時のようなウインドウが教壇の前に広げられる。


『そレハ偏に知識不足・・・いや、認識不足故ダかラダ。単純な能力や技量ダけデ見ルなラAクラスデもおかしくない生徒ハ多数いルが、成長に大きく差が出ルタめ改めテこの力がドういッタモノかヲ知ッテもラうタめダ』


 ウインドウに『思創の卵(プロキシー)』と大きく表示され、その下に文字がが書き連ねられていく。

 世界中で学ばれる『思創の卵(プロキシー)概論』それの基礎項目が映し出されていた。

 中学の時に習った内容を復習させるかのようにセト先生は読み上げていく。


『思創、こレハ思想ト創造の合ワさッタ言葉。思想トハ自分自身およビ周囲にツいテ感じ考えルこト。創造トハ新タなモノヲ生み出すこト。君タチのそレハ想像の域を出テいない、表層ヲなぞッテいルに過ぎない』


『創造(creation)』と『想像(imagination)』、日本語で発する音は同じだが言葉の意味は天と地ほどに違う。

 片や世界に生み落とし、片や自分の頭の中でだけ繰り広げられる。

 俺たちの力は世界に影響を与えるレベルではないってことか、耳が痛いね。


『でハ卵トハ何か。卵ハ復活・誕生なド生命ヲ司リまタ世界そのものトさレルこトもあル。どンな言葉にも意味があリ理由があリそレ故の帰結があル』


 俺たち全員を指さすように動かした後、セト先生は静かに指を下す。


『君タチハドうしテその力ヲ選ビ生み出しタかゆッくリト考えルトいい。こレハ一種の気付きのようなものダ。こレが解レバ世界が変ワルダロう』

「何か納得いかねぇな」


 セト先生の講義内容に不満を持った生徒数人が立ち上がり睨みつける。


「俺たちが取るに足らねえって言いたいのかよ。あんたがどういう能力を持っているか知らねえが、その見えない鼻っ柱叩き折ってやってもいいんだぜ」


 声に怒気を滲ませながらセト先生を尚も睨みつける。

 一触即発な空気に他の生徒達にも緊張が走る。

 この状況にどう対応するのか先生たちの方を見ると、乙女ちゃんは爪の手入れを、セト先生は何やら手元の小さなウインドウを操作していた。


「おいッ!聞いてんのか!」


 余裕ともとれるその行動に生徒の一人が机を強く叩く。


『フむ、君タチハ「戦闘型(アタッカー)」ヲ選択しタ子達か。なルホド戦闘行為に大層自信があルラしい』


 セト先生はウインドウを閉じると立ち上がっている生徒たちの方を見る。

 そのまま顎あたりに手を添えて考えるような素振りをしていた。


『後でデ噛みつかレテも時間の無駄ダ。身ヲもッテ感じタ方がいいダロう』


 銀色の指を甲高く鳴らす。

 俺にわかったのはそれだけだ、それだけしかわからなかった。

 キンッと不快な金属音が教室に響いた直後、背筋に冷たいものが走り身動きが取れなくなった。

 喉元にナイフでも突き立てられているかのような嫌な気配に声を出すこともできない。

 唐突に力の差を理解させられ、己の無力さをわからされ、残ったものは死の恐怖だけ。


「やりすぎですよ☆」


 ガンと鈍い音がしたかと思うと冷たい気配がなくなっていた。

 自分の首に手を当て嫌な汗をぬぐうと真正面に視線を移す。

 そこには連絡版のようなもので乙女ちゃんに頭を叩かれているセト先生の姿があった。


「トラウマになったらどうするんですか!犬の躾じゃないんだから威圧だけでことを済まそうとしないでください!」


 あれが威圧なのか、殺されるかと思ったが。

 周りを見てみると、肩を抱くように縮こまり震えているもの、泣き出してしまっているものがいた。

 怖いを通り越して死を覚悟させられたんだがどんな能力なんだ。


『やリすぎダッタか。私にハ加減トいうものがワかラないかラ言葉ヲ乗せずにやッタんダが・・・』

「どこの世界に子供に本気の殺意を飛ばす先生がいるんですか!!」

『この程度デ臆しテいタラ戦場デは――――』

「こ・こ・は、学園です!学び舎なんです!」


 今度は角でフルスイング、意外と過激だな乙女ちゃん。


『フむ、以後気ヲ付けよう。今のハ「思創の卵(プロキシー)」デすラないタダの児戯ダ。君達デもいずレ出来ルが今のデ解ッタダロう、知ラないトいうこトがどレ程危ういかヲ。今まデ君達ハピラミッドの頂点にいタのかもしレないが、ここデハあリふレタ存在トなル。そこから返リ咲けルかハ今後の君達しダいダ』


 先ほど立ち上がっていた生徒たちは力なく座り込んでいた。

 かなり息巻いてたからな、ただ圧を向けられただけでなすすべなかったからプライドズタズタだな。


 しかしあれで能力じゃないのか、圧と殺気か。

 能力でないなら何らかの技術の応用なんだろうか?

 色々知らなければいけないことが沢山あるな。


『トリあえず今日の講義ハこの辺リまデデいいダロう。こレ以上ハ長くなリすぎテしまう』


 セト先生はすべてのウインドウを閉じて、自分の顔の位置に人差し指を立てる。


『力を高めル前に心構えヲ、決しテ力に溺レルな、のまレルな、依存すルな、全テの決定因子ハ己の中にあル。今ハ意味が解ラなくテもいい、心に留めテおくトいい』


 その言葉だけを残してセト先生は教室を去っていった。

 重苦しい雰囲気だけが周囲に漂い、一人残った乙女ちゃんに視線が集まる。


「えーーー・・・、この後は楽しい部活&サークル見学だよ♪チャイムが鳴るまでは教室で自習というかゆっくりしてていいよ☆」


 キャピっとポーズをとってセト先生の後を追う乙女ちゃん。

 空気に耐えられず逃げたな。


 先生たちがいなくなり、はぁっと詰まった空気を吐き出す。


「初日から濃いいなぁ」

「そうだねぇ、びっくりしたねぇ」


 さすがの嵐も緊張で疲れたのか、机に突っ伏して顔を埋めている。

 B+でこの授業、Aクラスならどんなものだったのかが気になってきた。

 後で輝夜に聞いてみるかな、そんなことを考えながらチャイムが鳴るまで嵐と雑談を交わした。




 ――――

「随分とまぁ()()()()授業でしたね♪」


 皮肉気に語彙を強めて主舘乙女は投げかける。

 教室にいた生徒からすれば何が優しいのかと首を傾げることだろう。

 結果だけ見れば生徒に恐怖心を植え付けわけのわからないご高説を垂れていただけなのだから。


『別に優しくハない。タダ学園の教育方針が気にいラないダけダ』


 セトは足早に進みながら、淡々と返す。

 感情を感じさせないはずの機械音声に滲む小さな怒りに乙女はほくそ笑む。


「それが()()()()って言うんですよ。あんまり目立つことしてたらお仕置きされちゃいますよ☆」


 セトの横に並び歩き、乙女は顔を覗くように投げかける。

 その言葉にセトは足を止め乙女の目線に合わせた。


『お前にか?』

「まっさかー、私にセト先生をどうこうできるわけないじゃないですか♪」


 乙女は口に手を当てクスクスと微笑む。


『ドウダか』


 止めていた足を動かし、先ほどよりも早く歩く。

 歩調を合わせる気のないセトに乙女はやれやれと首を横に振る。


「女の子相手にそんなんじゃモテませんよー」


 隣について歩きながらジト目で訴えかける。


『まルデ必要のない要素ダな。お前がドンな役割ヲ持ッテいルかハ知ラないが私ハ私のやリタいようにやル』

「そう言うと思いましたー。まぁ周りの目には気を付けてくださいね♪」


 後ろ手に組みながら乙女はフフッと笑い、セトにウインクをする。

 一瞬乙女を見るしぐさを見せるが変わらぬ速度でセトは前を行く。

 闇で包まれたローブの下に微笑みを携えて。

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