第16話 集合
朝食を食べて諸々の準備が終わった後、俺は寮門の前でぼんやり空を見ていた。
まあ、準備といっても制服に着替えて髪などを整えるくらいなんだけどな。
俺たちに渡されたこのリストバンド型制御装具、正式名称『A.P.P.L.E』これがとてつもなく優秀なのだ。
ちなみに名前の由来は『ALL.PHENOMENON.PERCEPTON.LEAD.EDUCATION』の頭文字を取っているらしい。
意味は『全ての現象を認識して導き教える』デバイスだそうだ。
名前通りこれの中に全ての教科書や辞書など勉強に使うものがインストールされており、試しに調べたらマニアックな時事ネタなんかも入っていた。
メモ機能もあるので筆記用具もいらないときた。
使えるのは学園都市内だけとはいえ、こんなハイスッペクなものをホイホイ渡す学園もすごいなと感心する。
対策はもちろんしているのだろうが、よからぬことを考えるやつもいるだろうに。
「おはよう、真白」
「おはー、真白っち」
超技術に思いを馳せていると待っていた二人が来た。
「おはよ、思ったより早かったな」
「それはこっちのセリフよ、珍しく早いじゃない?まさか徹夜してないでしょうね」
腕を組みながら輝夜がずいっと俺の顔を覗き込む。
綺麗に梳かされた髪が朝日で煌いている。
普通の男ならこんな整った顔の奴に覗き込まれると赤面するんだろうな。
「ちゃんと寝たっての」
「ほんとにー?」
輝夜は眼鏡を光らせながらなおも前のめりになる。
「いやぁ、朝からいちゃつくのやめてもろて」
さらに覗き込んでくる輝夜を嵐が引きはがす。
「姫はただでさえ目立つんだから気を付けた方がいいよ。じゃないと真白っち死んじゃうよ?」
「どういう意味よ!」
助かるぜ嵐、もっと言ってやってくれ。
今までは能力が未発達な奴らばっかりだったから大丈夫だったが、こんなエリート学園でのやっかみなんて命がいくつあっても足らねえよ。
輝夜と嵐がじゃれているのを横目に、思わず周囲を軽く見渡す。
幸い周りには人は疎らにしかいなかったが、少し目立ち始めている。
「先に行くぞー」
俺はそう言いながら通学路を歩き出した。
そろそろ他の寮生も出てき始める頃合だ。
輝夜うんぬんは置いといても、男一人に女二人の時点で爆発案件だろ。
「あ、待ちなさいよ」
「真白っちひどーい」
あいにく女子の間に割って入れるほど勇者じゃないんでね。
――――
「校舎の位置昨日と変わって無くないか?」
歩きながら俺は校舎の位置を確認する。
入学式前に言ってた配置が換わる云々を思い出して地図を広げてみたが特に変わっていなかった。
俺の問いに輝夜が眼鏡をキラッと輝かせる。
「今週は変更ないってお父さんが言ってたよ。変更は来週からだって」
いつも通り腕を組みながら、ふふんとドヤ顔で教えてくれる。
「へぇ、なんかあるの?」
「クラス別の授業選択と部活の入部手続きがあるからそれが終わった後からっていってた」
なるほど、そこらへんは配慮してくれているのか。
この学園の授業は基本的には選択制となっている。
クラス別必修授業が午前中に二枠と選択授業二枠、午後に選択授業がさらに二枠の計六枠だ
さらに部活動か研究会に必ず所属なので、部活動にもよるが朝の8時から夜7時位まで学校にいることとなる。
今日から俺たちはクラス別でのHRと簡単な講義を受けて、部活動等の見学会に参加することになっている。
「そういや、お前たちは部活もう決まってるんだよな」
俺は地図を閉じて輝夜達の方に目を向ける。
「もちー、私は陸上部だよ」
嵐は自分の顔の横でピースサインを作りながらウインクする。
まあそうだよな、正直それ以外ないよな。
中等部レコード総なめの奴が他の所に行ったら絶対止められるだろうし。
「姫は何にしたの?」
「気になるのはいくつかあったけど、弓道部かな」
弓道部は確か鷲司さんが顧問だったけか。
あの人表には絶対出さないけど、内心嬉しいだろうな。
これで俺への風当たり少しは良くならないだろうか。
「姫めっちゃ弓得意だもんね。逆に悩むとこ他にあるの?」
「射撃研究会とか気にはなったかな」
「何その渋めなチョイス、ウケるんだけど」
嵐は自分の手で銃を作りながらケラケラと笑う。
意外と知られてないが輝夜は昔から銃とか好きだった。
本棚の裏にたしかモデルガン隠してたっけか。
ストレス発散にゲーセンのガンシューティングよく付き合わされたな。
「で、真白は決まったの?」
正直特にピンとくるものはなかったんだよな。
結構怪しげな誰が入るんだよこんなのみたいなのはあったけど。
俺は顎に手を当てて軽く考えるが、やっぱり答えは出せそうにない。
「とりあえず保留だな。見て回って決めるよ」
「決まったら教えてね、真白っち」
帰宅部とかないかな、割とガチで。
などと心の中でため息をつきながら雑談をしていると学園の門が見えてきた。
「お、誰か門の所で仁王立ちし――――」
「おはようございます!輝夜様ッ!」
頭からつま先までピシッと効果音が鳴りそうな男が90度の角度であいさつをしてきた。
「お、おはよう規束君。今日も元気ね」
「輝夜様は本日も麗しく、朝の澄んだ空気がさらに浄化されていきます」
七三分けの黒髪にスクエアタイプのメタルフレームの眼鏡、何もかもがお堅い男に俺はため息をつく。
「お前わざわざ門の前で待ってたのかよ。寮なんだから朝一緒に出ればいいだろうが」
「黙れ御影真白ッ!私には輝夜様の通る道を綺麗にせねばならぬ使命があるのだ」
つまり何か、輝夜のために早起きして通学路とか掃除してたってことか?
相変わらずこいつはこじらせていやがる。
このお堅い男は嵐の幼馴染の『規束重則』
文武両道、質実剛健、根っからの委員長気質でついたあだ名は『野生の秩序の檻』
一つ付け足すなら、輝夜のために生きることがすべての男だ。
「フンッ、貴様は相変わらず輝夜様の金魚の糞か。輝夜様のやさしさにつけ込みおって」
「どう見ても俺が前歩いてただろうが。お前の目は節穴か?」
こいつはいつも何かにつけて突っかかってくる。
何なら輝夜がいなくても絡まれる。
「貴様に対する温情が微塵も理解できてないな。他に共に過ごす者がおらぬ貴様のために輝夜様が時間を割いてくれているのだろうがッ!」
「誰のせいでいないと思ってんだお前らはよぉ!」
輝夜のせいでやっかまれるのもあるが、大体はお前ら親衛隊だかファンクラブだかが絡んで来るせいだろうが。
「そろそろ校舎に向かいましょうか」
「真白っちもしげも行くよー」
俺たちのやり取りを見かねて輝夜達が先に門をくぐる。
「お待たせしてしまい申し訳ございませんッ!」
お前のせいだと言いたげに俺を睨みつけながら規束は輝夜達の後を追った。
「ったく、先が思いやられる」
盛大にため息をつきながら俺も後を追う。
校舎に向かうまでの道中、規束の口が止まることはなかった。
輝夜の素晴らしさを謳い、学園の環境に喜び、俺の邪魔さ加減を疎んでいた。
「そう言えばしげはクラス何?」
いつも通り規束の話題を切り替えようと嵐が話を振った。
フンと鼻を鳴らし規束は嵐を見る。
「輝夜様と同じAクラスに決まっておろう!貴様たちはどうなんだ?」
「私と真白っちはBだよー」
「ハッ、分不相応さがわかったか御影真白!貴様が並び立つのがいかに不遜かを」
規束は見下すように顎を上げながらこちらを見てくる。
今日一番の笑顔を見た気がする。
「いちいちドヤ顔でこっち見てくんな。そもそも並び立ちたいとも思ってねーよ」
「負け惜しみはよくないぞ、御影真白。まぁせいぜい励むがいい」
本当にムカつくなこいつ。
まぁ日中の輝夜のお守りはこいつに任せよう。
負担が減った、そう思えば悪くはない。
「とりあえず一旦ここまでだな。クラス別で教室が違うみたいだ」
校舎の入り口にはクラス別に教室が違う旨が貼りだされていた。
各クラス上位半分でクラスが分かれているようだ
S・A+・A・B+・B・C+・Cと7段階で表記されている。
「ギリギリ一緒だね、真白っち」
「そうだな、よろしくな」
どうやら向こうもクラスは同じようだな。
「よろしくね、規束君」
「もったいないお言葉、並び立てるよう精進いたします」
何時の時代の人間だよ。
芝居がかった規束を見て心の中で悪態をつく。
「じゃあまた放課後かな?真白は授業中寝ないようにね」
「わかってるよ」
輝夜は手を振りながら先に校舎に行き、規束も2歩後ろからついて行く。
主従契約でもしてるのかよ。
「相変わらず真白っちに容赦ないねぇ」
嵐がニシシと笑いながら俺の肩に手を置く。
「容赦っていうか、手加減ができないんだろ何に対しても」
規束は常に全力でないと気が済まないのだろう。
何に対しても誰に対しても、妥協のない100%の自分で応対しないと許さないのだと思う。
だからこそ手を抜いてたり、躱したりする俺が気に入らないのだ。
輝夜という存在に真正面からぶつかり合わないのに隣に並び立つ俺が疎ましいのだ。
「存外仲良しだよねー、お二人さん」
もう一度ニシシと嵐は笑うと俺の手を引く。
「私たちも教室行こー」
「わかったから引っ張るなって」
ここからようやくスタートだ。
まずは『思創の卵』への理解と死神を探しますかね。
――――
「二人は顔を合わせると相変わらずだね」
輝夜は門からのやり取りを思い出しながら、口に手を当てて微笑む。
中学生の時から繰り返されているやり取りに安心感を感じていた。
「お見苦しいところをお見せしました」
バツが悪そうに覇気のない声で規束は謝罪をする。
垂れた耳と尻尾が見えてきそうな落ち込み具合に輝夜はもう一度笑う。
「別に気にしなくていいよ。でも規束君はどうして真白とぶつかっちゃうの?」
「それはあいつが相応しくない、いや相応しくない様にしているからですね」
「相応しくない様に?」
言葉の意図が分からず輝夜は首をかしげる。
「いつからかあいつは一番になろうとはしない。なれないのではなくなろうとしない。それが許せない」
規束は昔を思い出しながら手を強く握りしめる。
小学生の時はそこまで嫌悪感を抱くことはなかった。
中学生になってから途端に怠惰になった気がする。
持てる力の全てを使わない、ただただ及第点にあろうとするあり方が許せなかった。
何よりそのせいで輝夜が揶揄されるなど以ての外だ。
「本来のあいつの力をもってすればBクラスで収まるはずがない」
ぽつりと零れた本音に規束は口を堅く紡ぐ。
輝夜は漏れ出た言葉に口がにやけるのを止められず、急いで前を見る。
自分以外にもしっかり彼のことを見ている人がいることに喜びを隠せなかった。
「やっぱり規束君は優しい人だね」
「どこからそのようなお話になったのでしょうか」
意図がつかめず規束は思考にふける。
教室につくまで輝夜は規束の方へ振り向くことはなかった。
ここまでで一章終了となります。
テンポが悪く申し訳ないです。
精進していきます!




