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デウス・ウルト   作者: 妖怪はらへった
第一章 天峰学園入学編
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第13話 悪意

 そこは闇だった。

 塗りつぶされたような黒。

 右も左も、立っているのか宙に浮いているのか何もわからない闇。


「何だこれは。さっきまで俺は世界樹でゲームを・・・」


 どんな原理かわからない。

 転移系の力なのか?


「真っ暗闇でなにも見えないな。おーい、誰かいないか」


 ためしに大声で叫んでみた。

 言葉が通じる相手がいればいいが。


「おや、お客さんか。すまないね、客など滅多に来ないから気づかなかったよ」


 闇の奥から声が響く。


「とりあえず意識をはっきりと持つことをおすすめするよ。曖昧なままだと闇に溶けきってしまうからね」

「意識をはっきりとって言われてもな。具体的にはどうすればいいんだ?」

「この状況でその反応とは随分な大物が来たようだ。少し明るくするから光の方へ来るといい」


 そう声が響いたあと、闇の奥の方にぼんやりと白いものが見えた。

 来るといいと言われてもな、どう動けばいいんだ?


「ああ、普段していることを強い意識をもってすれば動けるよ。飛ぶイメージが出きるなら飛んだ方が早いだろうけど」


 なるほど歩くということを意識しながらすると歩けるのか。

 俺は大地を踏みしめる感覚を思い出しながら足を前に出す。

 そこには確かな感覚があった。


「出来ると思えば出来る、暗示みたいなものか。確かにこれなら飛んだ方が早そうだ」


 そう言うなり俺はくっきり残された嵐の足跡を思い出す。

 弾けるように、矢のように、真っ直ぐあの場所に飛んでいくイメージ。

 嵐を真似してクラウチングスタートの体勢で勢いよく駆け出し、幅跳びのようにジャンプする。


 飛んでいった先は豆電球のような明るさで、ぼんやりと人が立っているのがわかる程度だった。


「まさか本当に飛んでくるとは、君はなかなかに異常者だね」

「飛んでこいって言った奴がよく言うよ」

「いやいや、言われてすぐに出来ることではないさ。面白いやつだね君は」


 声の主がパチンと指を鳴らす。

 すると辺りの闇が引いていき、真っ白な空間に真っ黒なローブの人物が立っていた。


「何時振りの客だろうか、お茶も用意できずに申し訳ない」


 そう言うとローブの人物は深く被っていたフードをおろし顔を露にする。

 そこには背筋が凍るほどの美を携えた女性が立っていた。

 初めて人の顔を見て鳥肌が立った。

 全てを吸い込みそうな漆黒の長髪、新雪のような白い肌、そして一番目を引くのが透き通った紫紺の瞳。


「あの瞳はあんたのだったのか」

「何の事を言っているのかよくわからないが謎が一つ解けたのなら喜ばしい」


 ローブの女は口許を隠しながらクスリと笑う。


「おや、君はどこかで見た覚えがあるね。どこだったか・・・」


 顎に手を添えながら眼を閉じてローブの女は考える。

 俺としてはこんな美人に会っていたなら忘れない自信はあるが。


「少し近くで見てもいいかな?」

「別に・・・構わないが」

「では失礼して」


 ローブの女はずいっと俺の顔を覗き込む。


「ああ、なるほど。既視感があるのはその眼か」


 得心がいったのかローブの女は頷きながら続ける。


「さしずめ君は御影晶の息子といった所かな?」

「そうだけど、あんたは父さんの知り合いなのか?」

「知り合いか、難しい質問だね。知人と言うほどには遠くなく、友人と言うほどには親しくはない。言うなれば共犯者だろうか」


 何か物騒なことをブツブツ言い出したぞ。


「まぁ、知り合いで構わないか。しかし、彼の息子が来たと言うことは、彼は彼の真理にたどり着けたんだね」

「それはどういう意味だ」

「私の口からは答えかねるね。それはきっと彼の本意ではないし、私としても君の道を定めたくはない。若者とはかくも自由であるべきだ」


 自由であるべきか、父さんの口癖を思い出す。


「自由に縛られている間は自由になれない」

「その通りだ。一定量の不自由さがなければ求める自由は見えず、かと言ってなにも求めず考えていない間は自由とは言い難い、何をもってして自由か永遠のテーマだね」


 ローブの女はうんうんと頷きながらいい笑顔で答える。

 とりあえずわかったことは父さんの知り合いで、現状この人が俺に何も教えてはくれそうにないと言うことか。


「俺は何のためにここに呼ばれたんだ?」

「そうだね、私が呼んだわけではないから推察になるが、恐らく君に他者の主観なく世界を見せるためだろうね」

「言ってる意味がよくわからないんだが」

「それを理解するには君には知識も経験も何もかもが足りない。生きているこの世界についても知らなすぎる。だからこそこの学園の世界樹に君を導いたのだろう」


 あの木、本当に世界樹って名前だったのか。


「無垢な君がどのような答えを導き出すか興味が湧いた。君と私の間にパスを繋げよう」


 そう言うとローブの女の胸元から白い光が俺の胸元まで飛んでくる。

 光が俺に触れると吸い込まれるように消えていった。


「君が一定量の答えを得た時また語ろう。今の君は純粋すぎて嘘も真実もわからないからね。君をここまで導いたものがきっと新たな課題を用意しているだろうさ、君の父親はそういう奴だ」


 今の俺では条件が足りてないってことか。

 俺が知りたいことをこの人は多分全て知っている、そんな感じがこの人から伝わってくる。

 とりあえずは学生頑張りますか。


「そういえば名乗ってなかったな。俺の名前は御影真白だ、あんたは?」

「名前、名前か、そうだね、あえて名乗るとするなら『悪意(マリス)』とでも名乗っておこうか」

「露骨に怪しさ満点だな」

「私には沢山の名前があるからどれを名乗るのが正解かは難しいところだね。ただ適当に名乗ったわけではないよ、私が君に関わることで君の今後にどのような影響を与えるか知っていながら関わる、これを悪意と言わず何と言う」


 悪意(マリス)と名乗った女は自嘲気味に笑うと指をパチンと鳴らす。

 すると引いていた闇がまた俺たちを覆い始めた。


「次に合うときはお茶ぐらいは用意しておこう。あとはアドバイスを一つ、『思創の卵(プロキシー)』について理解を深めるといい。世界を知る上でこれは避けられない」


 闇が完全に俺達を包み込むと意識が急に遠のいていく。


「私を楽しませてくれることを期待してるよ、御影真白」


 その言葉を最後に俺は闇の中に溶けていった。

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