第12話 世界樹
「でかいな・・・確かにこれは『世界樹』とか名付けたくなるな」
雲をかぶる程の巨木に圧倒される。
大人が優に4人はもたれる程の太い幹、てっぺんが見えぬ程の高さ、まさに『世界樹』だ。
俺はこれを探していた。
「ようやく物語が進められる」
俺は巨木にもたれ掛かりながら座り、ズボンのポケットから手のひらサイズの機械を取り出した。
「よし、後は――――」
「あー、真白っちじゃん」
不意に指した影に頭をあげると嵐が覗き込んでいた。
うっすら汗ばんでいるってことはランニングの途中か。
「こんなとこで何してんの?」
「野暮用だよ」
そう言うと俺は手に持つ機械を嵐に見せる。
「うわっ、CSじゃんそれ。懐かしいなぁ兄貴がよく遊んでたよ」
『compact screen』手のひらサイズの小さな画面、画面の横に取り外し可能なコントローラー、まぁ要するに携帯ゲーム機だ。
ホログラフやダイブ型ゲームが主流の今の時代では結構なレトロ機だ。
「わざわざゲームしにここに来たの?」
「そんなとこだな」
専用のロムを差し込み、電源をつける。
俺がゲームを起動させると、嵐は隣に座り込み画面を覗き込む。
「何でまたそんなレトロなやつ?てか何のソフト?」
「俺がこの学園にくる理由の一個だからだよ。ソフトは誰も知らないだろうな、父さんのオリジナルだから」
「あぁ、真白っちのお父さんプログラマーだったけ」
「そ、あんまり有名じゃなかったけどな」
御影晶、俺の父さんは小さなゲーム会社を運営していた。
有名なヒット作はなかったが、そこそこ面白いゲームを作ると界隈では期待されていたりなかったり。
父さんが死んでからメンバーは解散、会社はなくなってしまった。
「このソフト、俺の14歳の誕生日に送られてきたんだよ」
「えっ?14歳って・・・」
「そうだな、死んだあとだよ。父さんの名前でメッセージカードとこのCS用のロムが送られてきた。『やるかやらないかは任せる、やるなら相応の覚悟がいる、途中でやめてもいいお前の自由にしろ』ってさ」
ゲームが立ち上がると、タイトルもなにもなくドット絵のキャラクターがゲームでよく見る子供部屋の真ん中に立っている。
俺は机の横にある本棚を調べて地図を手に入れる。
「この地図に目的地っぽいのが示されてるんだけど、このゲームリアルとリンクしてるっぽくてずっと手詰まりだったんだよ。先に進めるには指定された場所で起動しないといけないらしい」
地図を使うと画面に表示される。
「この地図に見覚えないか?」
「ん~?何か見覚えがあるような・・・あれ?これって学園都市の地図?」
「これに気づいたの輝夜なんだけどな」
俺は更に操作して地図に表示されている赤いピンにカーソルを合わせる。
そこには『世界樹』の名称とダウンロードマークが表示される。
「なるねぇ。なら私はランニングに戻るかなっと」
嵐は勢いよく立ち上がると爪先をトントンとならす。
「悪いな、何か気を遣わせたか?」
「うんにゃ、もともと途中だったしね」
ニッと笑うと嵐は軽く背伸びをしながら道の真ん中へ移動する。
「あ、姫から伝言あるの忘れてた。何か先生に呼ばれてるから夕方に校門前に集合だって」
「またアバウトな。これで連絡取り合えるんだからアドレス交換すればいいだろ」
「いや私も交換しよって言ったんだけど、姫がさ『最初に登録する人は決めてるから、それが終わったあとでね』だって」
口に手を当ててニマニマと嵐はこっちを見てくる。
「何だそれ?まぁアイツらしいけど。とりあえず嵐、俺たちだけでも交換しとくか」
俺はCSをポケットに直して立ち上がり、嵐の方へと歩く。
「いや、真白っち私の話聞いてた?」
「俺らも交換せずに別れたらどうやって連絡するんだよ」
「いや、それはそうだけど・・・、てか私でいいの最初の登録?」
「登録に最初も何もないだろ。ウィンドウ」
確かメッセージのとこにアドレス登録あったな。
「ほら嵐もウィンドウ出せよ」
「あ、うん。ウィンドウ」
「えっと俺のアドレスを押さえて、嵐の方に飛ばすようにスライドっと」
ヘルプを見ながら嵐にアドレスを送る。
「おおぉ、こんな感じなんだね。じゃあ私もっと」
「これでいつでも連絡取れるな」
送られてきた嵐のアドレスを操作し、メッセージを送れるかを確かめる。
「真白っちさぁ、乙女心全然わかってないよね」
「何だよ、急に」
「本当に、わかってないよ」
嵐はフフッと笑うとクラウチングスタートの体勢を取る。
「じゃあ、またあとでね」
そう言うなり嵐は駆け出した。
放たれた矢のようにぐんぐんと嵐の姿は遠く小さくなっていく。
力を込めて蹴られた地面にはくっきりと足の跡が残っていた。
「輝夜とはそんなんじゃないって言ってんだろ」
一人ぼやきながら俺は元の位置に座り直す。
「あいつの半分は、俺を一人にしてしまった罪悪感だよ」
CSを取り出して画面を見る。
ダウンロードマークにカーソルを合わせてボタンを押す。
画面の右下で円がぐるくる回っている。
この場所が世界樹で合っているようだ。
しばらく待っているとピコンと音がして画面が切り替わる。
「これは・・・今俺がいる場所か?」
大きな木の根本にドット絵の二頭身のキャラが座っている。
画面のしたの方に文章が表示されていく。
『ヨウコソ箱庭ノ住人ヨ、マズハココマデ来レタ事ニ称賛ヲ。何ガ知リタクテココマデ来タノカナ』
『1・未来 2・現在 3・過去』
「何の説明もなくいきなり三択か」
俺は俺の過去を知りたい、失った1年間の記憶を。
3番の過去を選択するとグラフィックがぐにゃぐにゃと歪んでいき、ゲームのキャラが真っ黒な空間に佇む。
『サスガ箱庭ノ住人、閉鎖的ナ答エダ。過去トハ軌跡、過去トハ教訓、過去トハ未来ヘノ糧。過去ガ無ケレバ道ヲ踏ミ外ス、最初ニ選択スルノモ道理』
また読み込みの円がぐるぐると回りだす。
このゲームはたぶん父さんに、あの事故に繋がってるはずだ。
『願望ハ受理サレタ。システムノ起動ヲ確認、プログラム実行』
初めてゲームらしい8bitの音楽が流れ出す。
チープながらも壮大なBGMに続くようにゲームのタイトルが上から流れてくる。
「『デウス・ウルト』、確かラテン語で『神がそう望まれた』だったか?現実主義の父さんらしくないな」
壮大なBGMが終わると画面に紫紺の瞳が映し出される。
それと眼があった直後俺は意識を失った。




