ブラックアウト
『……と、いきたい所なんだがなァ。なあアマネ。さすがに馬鹿なお前でも、もう気付いてるよな?』
男は何がそんなに楽しいのか、口元を手で覆ってクククっと堪えきれないと言うように忍び笑らいをもらす。
彼の隠された口元の代わりに、鋭さが増したその眼光がアマネを容赦なく突き刺してくる。
『……やっとだな。ほんとうに、長かったよ』
『これで、やっと爺の残したくだらない過去の置き土産を処分できる』
アマネは、ほうっと息をつく美しい男のため息をじっと見つめていた。
……何も言えずに。
彼はその口許を酷く歪ませ、相変わらずただ嗤っていた。
「何故……」
『ん?』
男が小首をかしげる。
どうしてだか愛嬌のある仕草でこちらを見上げてくる男の視線を、決して見ることなくアマネは再度呟く。
「何故、アンタがココにいるの……?」
茫然と呟いたセリフ。
『ははっ、はははは』
次の瞬間、瞬く間にフロア中に響いた聞くに堪えない笑い声。
それを振り払うように、アマネは手にした小銃で目の前を貫いていた。
「……」
『……』
静寂が襲っていた。
放たれた五寸釘は、男の心臓の上をすり抜けて、男の向こう側へと消えてゆく。数秒後、カツンと何か固いモノと釘がぶつかった音が響いた。
『……はぁ』
溜息が聞こえる。
心底呆れたというような声に憐れみの眼差しを付けて、美馬隆二はかつて黒死病患者に見せていたような視線をアマネに寄こした。
「なんで……」
『お前はさぁ……』
「ちゃんと視ていたのに……」
『ああ、お前がずっと俺を見ていたことくらい知ってるよ』
「今もアンタはココにはいない! あそこにいるじゃないっ!!」
『クッ、はは。……そうだな』
「アンタはあそこに、美馬精神病院――」
『違うな、アマネ』
「ええ、違いますよ。アマネさん」
背後から聞こえてきた柔らかな響き。
懐かしいその声。
思わずハッとアマネは後ろを振り返っていた。
果たして、その視線の先に彼女を待ち構えていたのは――。
『俺がいるのは――』
「彼がいるのは――」
「『美馬精神病オンラインクリニックだ』です」
……重い花瓶を振りかざした、ミノリの姿だった。
強い衝撃を頭に受けたミノリの意識は、まっ黒い世界へと引きずり込まれていった。




