第3話 始めての友人
ショーは起き上がると傷が完全に治っていることに気付いた。
だが、痛みは全然ひいてない。体の節々がすごく痛い。動くのも億劫だ。
さっき話しかけてきた囚人が更に声をかけてきた。
「お~い。この程度の怪我でへばっていたら先が思いやられるぜ」
男はからかうように言った。が、ショーは自分の目玉をひん剥いて男に反論した。
「はぁ~。俺が死んでなかったら確実に死んるくらい酷い怪我だぞ」
ショーは自分が死んでいると言ったが、自分が息をしていることを思い出した。自分が本当に死んでいるのかわからない。
「なぁ、俺は息をしているが、本当に死んでいるのか? お前はどうなんだ?」
「勿論、お前は死んでいるぜ。そして俺もな。しかもお前と同じく息もしている」
「じゃあ、何で俺達は息をしているんだ?」
「それは俺達に痛みと恐怖を味わわせるためだろうな」
それって、脳が正常に機能していることなのか。ここでの死の基準がわからん。まぁ、考えてもしょうがないか。
それにしても痛みと恐怖を感じさせるために意識を維持させているのか。まじ、彼が居た地球ではこんな虐待は有りえない。そういう事を他人にする人物はどんな理由であれ、間違えなく牢屋へ直行だ。
だが、ここは死後の世界だ。それも地獄だ。地球の常識は通用しない。
男が面白がってショーに言ってきた。
「まぁ、そうカリカリするなよ。こんなの、日常茶飯事だから覚悟しておけ」
まじかよ。これは相当やばい所に送られたな。
「ここを脱出する方法……」
ショーは言いかけたが、男はショーの発言を遮った。
「ない。諦めろ。そんな事よりもここでどうやって無難にやり過ごすか考えとけよ。目立たず、ひっそりと過ごせば意外となんとかなるぜ。労務は滅茶苦茶キツイがな。ところで、俺はジャン・キース。よろしくな、相棒」
ジャンキーす、ってなんだよ。まじ、受けるぜ、とショーは思った。
「俺はショー・モネーだ」
ジャンはショーの名前を聞くと思わず吹き出した。
「いや、俺はお前の特徴ではなく、名前を聞きたいのだか。尤も、ここに居る奴全員、しょーもねー奴だからな。その手の冗談は聞き飽きたぜ」
——何だよ、コイツ。
ショーは生まれて始めてそんな事を言われた。彼の使っていた母国語ではそんなダジャレはなかった。
ここでは皆、必ずしも同じ言語を話している訳ではないのか?
それにジャンは一体どこから来たのだ? 彼は見た目、明らかにショーが居た地球の住人ではないのがうかがえる。眉間にはひし形の宝石みたいな物が埋まっている。髪の毛も緑で耳も異様に長く尖っている。
確か、スター・トレックに似たようなキャラがいたな、とショーは思った。名前はスポックだったけ。ジャンはバルカン星から来たのかな? だが、ジャンはスポックと違って髪は緑で額には宝石が埋まっているからバルカン星人ではないか……。
でも、なぜだろう。不思議なことに地球外生命体の彼とは話が通じた。ショーは母国語を話しているつもりだが。
これはまるでバベルの塔の話の逆行だな。辺りを見渡すとジャン以外でも見た目が地球人でない囚人も結構いる。皆、色々な世界から来ているようだ。どうやら勝手に共通語に翻訳されているみたいだ。
「いや、それ、俺の本名だ。コノヤロー! それにお前の名前だって、俺の国ではまじ冗談だぜ」
「そうなのか。で、何て意味だ」
ジャンは不思議そうに尋ねた。
「〇〇中毒者と意味だ。特に麻薬中毒者に使われる」
「何だよ、ソレ」
ジャンとショーはお互いを見ると笑い出した。自分達の名前がお互いの国の言語ではまるでコントのように滑稽だった事を知ると笑いが止まらなくなった。
ショーはジャンにこの地獄に関しての掟を色々と聞く事にした。
ここで生き残るにはこの世界の事を知る必要がある。
「ははは、心配する事はないぜ。俺達、もう死んでいるからここで生き残る心配は不要だ」
ジャンがツッコミを入れるとショーは天を仰ぐように目をくるりと動かした。ジャンはそういう意味で言った訳ではないと説明した。
「ああ、わかっているさ。だが、ひとつだけ覚えておくことがある。それは……俺達はどんなに虐待されても死ぬことはないが、普通に怪我はするし、痛みも感じる。この怪我が一筋縄ではいかない。それは……怪我をすればするほど痛みのレベルが上がるということだ。即ち、同じ程度の怪我でも以前よりも痛みがより強く感じることなんだ。痛みに慣れる事はない」
ショーはジャンの説明を聞いてもイマイチ理解できなかった。それは自分の神経がよりセンシティブになるという事か? その疑問に対してジャンは更に情報を付け加えた。
「地獄の存在意義はここにいる俺達囚人を罰して贖罪させる事だ。だが、囚人の俺達が痛みに慣れると罰にならない。それを防ぐ為、地獄では痛みのレベルを徐々に上げて我々をいたぶることに徹している」
なるほど、とショーは思った。だが、それで本当に贖罪になるのか?
その疑問に対してジャンは答えた。
「勿論、看守が虐待するだけでは囚人は過去の罪を償う事にはならない。だから、俺達囚人は地獄で強制労働を強いられる。あの世で役に立つ事で贖罪させるのだ」
「まじか! それってきっと 肉体労働だよな。俺、前世でロクに働いた事ないんだが……。どうしよう」
「心配するな。ここに来た奴全員、前世ではまともに仕事をしたこともないロクでなしのしょーもねー奴だよ。すぐに慣れるさ。ビビってるんじゃねーぜ」
ジャンは身震いているショーに対して冷静になるようにと宥めた。
「ビビってないぜ。これはただの武者震いだ」
ショーは頑なに否定するが、これは誰が見ても明らかにビビっているのがわかる程、彼は動揺していた。
まぁ、当然と言えば当然の事だよな。ここに来る前にあんなに酷い虐待を受けたのだから。右も左もわからない状態でヘルフォーニアに来て、いきなり看守から酷い洗礼を受ければ誰でもそういう反応になる。
「で、どんな仕事をさせられるのだ?」
ショーは恐る恐る訊いた。
「それは、石切場で石を採取して、それをエデンに運んで組み立てる仕事だ。それを永遠に繰り返す」
それを聞いてショーは少し安心した。自分が思っていた程の滅茶苦茶危険な仕事ではなかった。
ジャンはホッとしたショーを呆れたように見ると告げた。
「お前、まじ、わかっていないな。仕事はクッソーきついぞ! 特に石切場ではな。灼熱地獄の中での作業だ。力を抑えながらしなければ五分でへばるぜ。だが、看守に少しでもサボっていると見なされれば、容赦なくムチが飛んで来るぜ」
これは昔見た映画のシーンの様だった。確か映画では、エジプトのピラミッド建設で労働者がムチを打たれながら働いていたな。あれは後日、誰かが適当に想像した話だという事が証明された。
どうやらここではその行為がそのまま行われているのか。まじ、やばい所に来たな。
ショーは自分のシフトが来るまでジャンと一緒に話ながら過ごした。




