第4話 始めての労務
一人の看守らしき人物が部屋に入って来た。その看守はショーをここまで連れてきた奴とは別人だった。
まず、肌の色が違った。彼の肌は青だった。身長もショーよりも頭二つ分だけ高かった。そして、彼の見た目が筋肉隆々の脳筋だ。それから牛男と同じで角が二本、頭から生えていた。まさに、見た目が典型的な悪魔だ。
看守は部屋で待機していたショーを含む百人ほどの囚人に向かっていきなり大声を上げて命令した。
「クソ野郎ども、楽しい楽しいお仕事の時間だ。十秒以内に表へ出ろ」
それを聞いた囚人達は我先にドアへ向けってダッシュした。十秒以内に建物から出られなかったら何をされるかと思うと、皆、恐怖で顔が引きつっていた。
だが、囚人達は全員、自己中のクソ野郎だ。だから奴らに譲り合いの精神はない。
結果、ドアの前は押しくら饅頭状態になり、ほとんどの囚人が外へ出られず十秒が無情に過ぎた。
ショーは罰せられると思い一瞬、体が固まったが、意外にも罰せられることがなかった。
ショーはホッとして一息つくとジャンの様子を伺った。ジャンは『またか~』って感じで鼻で笑っていた。この状況に慣れているのか? 或いは別の何かを知っているのか?
ショーはジャンに説明を求めるかのように彼に目を合わせた。
「看守共は気まぐれな奴ばっかだからな。特に今来た看守長のゴークはな。だた単に、囚人がパニックになるのを見て、楽しんでいたのだろう。だからと言って安心するなよ。時にはしょうもない事で滅茶苦茶な罰をする事もあるからな」
あの看守長のゴークはそんなに性格が悪いのか? ここは地獄だから看守は全員クソ野郎だろう。
ショーをここまで連れてきた別の看守はまじ、ゴミ野郎だった。何の否もないショーを容赦なくブチのめした。まるで楽しんでいるかのように。
だからあながちジャンが言っている事は間違っていないと思うが……。
それと、あの部屋から全員、十秒以内に出ることは不可能でもないんだよな。
但し、お互いが譲り合って行儀よく順番に出ればの話だが。ゴークが必ずしも不可能な命令をしたわけではない。
ショーを含めて囚人達全員は表に出ると、職場へ向かって歩き始めた。今日は何をするのかな~と考えているとジャンが話しかけてきた。
「ラッキーだったな。初日が石切場じゃなくて。あそこの作業はまじキツイからな」
「今日はどこで作業するんだ?」
「今日は石をエデンへ運ぶ仕事だ」
そうなのか、と思いショーは辺りを見渡すと切り出した石がまばらに置いてあった。
——デカーッ!
石はショーが想像していたよりもデカかった。遠くから見ても縦横の一辺が十フィート(三メートル)を優に超える立方体だ。ショーの身長の倍まではいかないが、かなりの高さだ。長さはその倍といったところか。
一体、重量は何トンあるのだ? ってか、どうやって運ぶんだ。重機なんか近くに置いてない。まさか……人の手だけで。
「機械とか近くにないんだけど。あの石、どうやって運ぶんだ?」
「機械? 何だソレ?」
——エッ! マジかよ。コイツ、機械も知らないのかよ。
ジャンは何を言っているんだ、という風にショーはジャンを見た。
「機械とは電動モーターとか内燃機関エンジンを動力にして動く道具だ」
ショーは機械とは何かを説明するとジャンは首を傾け、呟いた。
「電動モーターとかエンジンとか言っている意味はわからんが、道具なら使うぜ」
ジャンが指を差す方向を見ると石の近くには沢山の丸太や縄が置いてあった。
——まさか……あれは映画で見たエジプトのピラミッド建設と同じやり方ではないか!
全部、人力でやるのか。ショーは呆気に取られた。
ショー達囚人は現場に着くと、丸太でソリを作りだした。
このソリの上に石を載せて、エデンへ向けて運ぶ。こうすることによって石の摩擦を減らしながら進む。
だか、木で出来たソリなので摩耗が激しい。スキッドの部分は基本、使い捨てだ。スキッドとスキッドを繋ぐ部材はリサイクルする。
運び終わったら一度、分解して次の作業場へ持っていき、再度組み立てて使う。石を一個運ぶ毎に新しくスキッドの部分作る。
ショーとジャンはペアになってスキッド部分の加工を始めた。
ショーとジャンは一緒に丸太を持ち上げると作業場まで運びだした。この丸太、かなり重かった。少なくとも四百ポンド(百八十キロ)はあると思われる。それをわずか二人で運ばさせられた。
この看守長、まさに鬼畜だった。
丸太の加工が終わり、ソリに石を載せると看守長のゴークは石の上に乗り号令を掛けた。
「ソリを引け」
ゴークが号令を掛けると囚人は一斉に石を引き始めた。
ショー達囚人がソリを引き始めたが、ソリはピクリとも動かない。一ミリも。
——一体、この石、何トンあるんだよー。
「テメー等、何、サボってるんだ! 根性入れてソリを引け」
怒号がした瞬間、ムチがいきなり飛んできた。ムチを打ったのはゴークの下で働く副官の一人だ。
運悪く、ショーはムチに当たってしまった。ショーは「あ~」と唸りながらあまりの痛みで地面にうずくまった。
「ショー、早く立ち上がるんだ。でないと、またムチが飛んでくるぞ」
ジャンはショーの近くに行くと励ました。
彼は別にショーの心配をした訳ではない。ショーがモタモタしていると自分達も打たれる事を心配してのことだ。
一人でも抜けるとソリを運ぶのに支障をきたす。
次のムチ打ちが飛んで来るまでにショーを作業に戻す必要がある。連帯責任を取らされるのは御免被るという事だ。
ショーは体の痛みを堪えて再び作業に戻った。
皆に迷惑をかけるなという高貴な信条は持ちあわせてないが、一人でも不甲斐ない奴がいると作業は一向に進まない。作業が進まなければ、またムチが飛んでくる。ムチが当たれば死ぬほど痛い。
ここはうまく力を抜いて何とかするどころではなく、全力で何とかしなければならない。ここは地獄だ。弱音を吐いても怪我をしても温情が受けらるほど甘くない。
皆が全力でソリを引き出すと、ようやくソリは少しだけ進みだした。
一度動けばこっちのもんだ。動き始めが一番、力が必要になる。後は適当に力を抜いてソリを引けばいい。
……と思っていたがちょっと甘かった。その後の作業は永遠に続くかのように感じた。ショーの意識は段々、朦朧としてきた。
「……みず……みず……」
喉の渇きから思わず口ずさんでしまった。
作業中、水は一滴も与えられることがなく、もう限界の一歩手前だ。何度、「もうこれ以上は動けない」と弱音を吐きそうになったことか。その度に、ムチが飛んでくるのではないかと頭に恐怖がよぎった。
もう何時間くらい働いのだろう。ショーは自問した。意識が朦朧として真っすぐ歩くことすらままならない。
——これが石切作業よりもマシだと! あいつ、何を言っているんだ!
そうこうしているうちに、一日の作業が終わった。ショーは待機室に入ると、倒れ込むように床へ這いつくばった。




