第2話 始めての洗礼
ショーが地獄の看守を無視してどこかへ行こうとすると、看守はショーの首根っこを掴んで自分の方へ引き寄せた。
看守はあのデカい図体にも関わらず素早かった。ショーは振り向いて彼を見ると首が痛くなるまで見上げないと顔が見えなかった。
ショーは背が低い訳でない。彼の背丈は六フィート(一・八三メートル)ある。でも相手は十フィート(三メートル)をゆうに超えている。
それに見た目がミノタウロスだ。肌は赤く、頭に角が二本生えている。ただ、顔は牛ではなく、牛と人間の中間だ。
牛男は強引にヘルフォーニアの内部へショーを引きずりながら歩き出した。
「おい、離せ。コノヤロー」
ショーは必死にもがいたが、全く彼の手がショーの首から離れることはなかった。
「はぁ~。そんな事、する訳ないだろう。ボケが。お前が俺の指示なしに勝手に動く事は許さん」
牛男が言っていた事が正しければ、ヘルフォーニアに一度入った奴はどんな事があっても勝手に抜け出す事が出来ないのだろう。どうせ逃げられないなら、酷い扱いをしないでほしい、とショーは思った。
「逃げた奴を探して連れ戻すはクソ面倒くさいんだよ」
牛男はうんざりしながら付け加えた。そして更に説明した。どれくらいヘルフォーニアが広いのかを。
ショーはそれを聞いてヘルフォーニアのおおよその大きさを理解した。そして広大な場所から逃げた奴を探して連れ戻すのは骨が折れる仕事だとも。当然、牛男はそんな仕事に無駄に時間を費やすつもりはこれぽっちもある筈がない。だから、強引に首根っこを掴んででもショーの行動を制したのだ。
それに、牛男にとって囚人の快適性なんか知ったことではないのだろう。逆に快適だったら罰にならないし。
「嫌なら自分の足でさっさと歩け」
牛男はショーを自分の前に放り出すと言い放った。
ショーはふらつきながら立ち上がろうとすると小石につまづいてずっこけた。牛男はショーがチンタラしているところを見るとムッとしてショーの尻を軽く蹴飛ばした。
「さっさと歩け、クソッタレ」
ショーは尻を蹴れらた反動でコケると再び立ち上がろうとした。そしてまた、尻を蹴られて転んだ。何度も何度も繰り返されると遂にショーはブチ切れた。
「いい加減にしろ。コノヤロー。これじゃ歩けないではないか」
「テメー、調子こくんじゃねーよ。誰に向かって口聞いているのかわかっているのか!」
牛男はブチ切れると更に強く蹴った。強烈な蹴りを喰らったショーは三十フィート(九メートル)程吹っ飛ばされた。
ショーは自分の肋骨を手で押さえると「何本か骨折しやがった」と思わず呟いた。
ショーはあまりの痛みで動けず地面にうずくまっていると牛男はお構い無しに彼の髪を鷲掴みし、そのまま彼を引きずって歩き出した。
「やめろ! ってか、やめて下さい。お願いします」
「だったら文句言わずにさっさと歩け」
牛男はショーを前方に放り投げると言った。
ショーはふらつきながらもしっかりと立ち上がるととりあえず今迄向かっていた方角へ歩き出した。また、蹴られるのまっぴらだからな。
だが、本当にこの方角でいいのかわからないから牛男の方を訴えるように見ると、牛男は無言で首を下から上に振って行く方向を示した。
しばらく歩くと二人は谷にぶち当たった。
ショーは谷の縁で止まると下を見た。これはかなり深い谷だった。この先、どうすればいいのかわからない。
「あの~、行き止まりなんですけど」
ショーが訴えるように言うと牛男は無言でショーの腹に蹴りを入れた。
ショーはそのまま真っ逆さまに谷底へ落ちていった。十数秒後、地面にぶつかったショーは全身の至る所の骨が折れているのを感じ取った。
ショーは意識を失う事なくこの悪意ある行為をしっかりと認識していた。まだ意識があるということは自分は死んでいないと気付いた。
「あっ、俺、もう死んでいるんだった。だが何なんだ、この痛みは!」
ショーは思わず自分自身にツッコミを入れるように訂正した。まるでコントだな、コレ。
あまりの痛みと怪我で、ショーは首以外体を動かすことができなくなっていた。首を起こし辺りを見渡すといつの間にか牛男は下に降りて来ている。
牛男は腰に着けていたロープを握るとショーの首をロープで括り付けた。そしてショーを引きずり始めた。
牛男が持っていたのはただのロープでなくカウボーイが使うような投げ縄だった。ショーは為すすべもなく牛男がやるがまま耐えるしかなかった。
——あぁ~、背中がメチャ痛くて熱い。
ずっ~と引きずられていたせいで背中の皮膚が酷く痛む。
荒野の地面は鋭い石で凸凹していて皮膚というかその下の肉まで削り取られるように感じる。痛みのあまり吐きそうだ。
ショーの意識は痛みで次第に朦朧としてきた。そして意識を失った。
ショーが意識を取り戻すと建物の床に寝ていた。
あぁ~、あれからどれくらい時間がたったのか。数分か? それとも数時間か? 或いはもっと長かったのかも。
ここは地獄なので時間感覚が地球と違う。そんな事を考えても無意味かもしれない。
ショーは辺りを見渡すと、そこには囚人らしき者が沢山屯していた。その中の一人がボロボロになったショーに話しかけてきた。
「ははは、どうやらお前も洗礼を受けたようだな。灼熱地獄のヘルフォーニアにようこそ」




