第74話 火魔法の本質
実験室。
ルシエは従来型魔導冷房機の構造図を見つめたまま、考え込んでいた。
「水属性で冷却」
「風属性で循環」
「……でも」
どこか引っかかる。
その時だった。
脳裏に、ジョルジュの講義が蘇る。
『魔法は現象ではなく、干渉対象を見ろ』
あの日の言葉。
そして、土魔法の講義。
『土魔法は土を生み出す魔法ではない』
『物質へ干渉する魔法だ』
ルシエはゆっくりと顔を上げる。
「そうか……」
ノエルが振り返る。
「何か気付いたのか?」
ルシエは机の上へノートを広げた。
「私たちは、火魔法を見間違えていました」
「見間違えていた?」
「はい」
ルシエは静かに続ける。
「炎は結果です」
「本質ではありません」
ノエルの表情が変わる。
「土魔法も同じでした」
「土を作る魔法じゃない」
「物質へ干渉する魔法だった」
ルシエは頷く。
「なら――」
「火魔法も、炎を生み出す魔法ではありません」
研究室が静まり返る。
ルシエはノートへ一本の線を書いた。
火魔法。
その横へ、新しい言葉を書き加える。
『干渉対象――温度』
「炎は、温度が上昇した結果として現れる現象です」
「つまり、火魔法が干渉している本質は――」
「温度」
ノエルは息を呑んだ。
「だから加熱も冷却も……」
ルシエは力強く頷く。
「理論上は、どちらも可能です」
「温度を上げれば炎になる」
「温度を下げれば冷却になる」
今まで別々だと思われていた現象が、一つの理論で繋がった。
ルシエはノートへ最後の一文を書き記す。
『火魔法とは、温度へ干渉する魔法である』
その瞬間。
世界で初めて、火魔法の本質が理論として完成した。




