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無能と呼ばれた私が、世界の魔法理論を書き換えます  作者: Atelier Lotus


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第73話 既存理論

 共同研究初日。


 ルシエとノエルは、アルベルトの研究室を訪れていた。


「先生」


 ルシエは一礼する。


「少し、ご相談したいことがあるのですが」


 アルベルトは手を止め、穏やかに頷いた。


「構わない」


「聞こう」


 ルシエは資料を机へ広げる。


「現在の魔導冷房機について調べていたのですが、一つ気になることがありました」


「ほう」


「冷房には水属性魔法が使われていますよね」


「ああ」


「ですが、水属性魔法による冷却は魔力効率が悪すぎます」


「もっと効率的な方法があるのではないかと考えました」


 アルベルトは興味深そうに腕を組む。


「続けなさい」


 ルシエは一呼吸置いて言った。


「もし火魔法が、炎ではなく温度そのものへ干渉する魔法なら――」


「水属性魔法を使わず、火魔法だけで冷却できる可能性があります」


 研究室が静まり返る。


 アルベルトはしばらく資料を見つめ、静かに考え込んだ。


 やがて、小さく頷く。


「……興味深い」


「土魔法の本質を応用した発想か」


 ルシエは静かに頷く。


「まだ仮説です」


「ですので、まずは既存の魔導冷房機を分解し、構造や魔法理論を徹底的に調べたいと考えています」


 アルベルトは満足そうに微笑んだ。


「それがいい」


「新しい理論を生み出す者ほど、既存理論を誰より深く理解していなければならない」


 そう言って立ち上がる。


「魔法実験室を使いなさい」


「測定器具も貸し出そう」


「教材用の魔導冷房機も一台用意してある」


「好きに分解して構わない」


「ありがとうございます!」


 二人は深く頭を下げた。


 ◇


 二人は王立魔法学校の実験室へ運び込まれた一台の魔導冷房機を前にしていた。


「まずは分解ですね」


「新しいものを作る前に、既存理論を理解する」


 ノエルは頷く。


「研究の基本だな」


 ルシエは工具を手に取り、慎重に外装を取り外していく。


 内部から姿を現したのは、複雑に刻まれた魔法陣と幾つもの魔石だった。


「思った以上に複雑ですね」


「構造図も描いておこう」


 二人は寸法を測り、一つひとつの部品を書き写していく。


 魔法陣の役割。


 魔石の配置。


 魔力の流れ。


 さらに専用の測定器を用いて、運転中の魔力消費量まで記録した。


 数時間後。


 机の上には大量の設計図と測定結果が並んでいた。


 ノエルは腕を組む。


「整理すると、こうだな」


「冷却は水属性魔法」


「風属性魔法で冷気を循環」


「つまり二属性を同時に維持している」


 ルシエも頷きながら資料へ書き込む。


「はい」


「しかも魔力の大半は、水属性魔法へ使われています」


 ノエルは測定結果を見つめた。


「冷却効率が悪いのか」


「ええ」


 ルシエは冷却部の構造図を指差す。


「ここで水を気化させています」


「気化する時に周囲の熱を奪って冷却しているようです」


「なるほど」


「水そのものじゃなく、状態変化を利用しているのか」


 ルシエは静かに頷いた。


「ですが、そのために大量の水属性魔力を消費しています」


「さらに風属性魔法も維持し続けなければなりません」


「二属性を同時に使う以上、魔力効率はどうしても悪くなります」


 しばらく沈黙が流れる。


 ルシエは構造図をじっと見つめていた。


 やがて、小さく呟く。


「……もっと単純化できます」


 ノエルが顔を上げる。


「どういうことだ?」


 ルシエは冷却部へ指を置いた。


「もし火魔法が温度そのものへ干渉しているなら――」


「水なんて、いりません」


 研究室に静寂が訪れた。

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